回復の仮縫い
ランチタイムを終えたアーシャ達は、再び服屋へと赴いていた。
フィリアはアーシャが選んだ服を試着し、目の前の鏡を見つめていた。
「いや思ったより普通!ていうか一番マトモ!」
他の二人に続いて期待はしていなかったが、この結果にフィリア鏡に手を置く。
チェック柄のワンピースや、暗めのジャケット。
チャームポイントともとれる胸の大きなリボンを身に着けた自分の恰好に、フィリアは思わず見とれてしまう。
「おし、終わったみたいだな、ちょっと見せてみろ」
「い、いきなり開けないでください!」
体を隠すように両手を組んだフィリアは、いきなりカーテンを開けて来たアーシャの方を向く。
屈んだアーシャは、フィリアの着ている服を直しだす。
「……」
「(す、すごい真剣……でもやっぱり、さっきより目に光が無い)」
服を直すアーシャの目を覗き込むフィリアは、胸を痛めてしまう。
トイレでケフュレスに何を言われたか解らないが、明らかに辛さを誤魔化している。
「やっぱり縫い目が粗いな、その辺は買ってから直すか、ここで頼むより私がやった方が良い、そうなると対応する生地とリボンが必要だな、後は針を新しく……」
ブツブツと話すアーシャは、服の形だけでは無く、縫い目の一つ一つへ目を通す。
しかし、徐々にアーシャの手にブレが現れる。
「ん?」
「そし、たら」
声も曇りだし、呼吸も荒くなる。
すると、アーシャの目から涙が零れ落ちる。
「ま、マスター」
「あ?……ん、あれ?」
ボロボロと涙を零すアーシャは、震えた声で涙を拭いだす。
「何で、急に」
「(最適な解決方法は……購入前の服が汚れるけど、やはり)」
以前の添い寝を思い出したフィリアは、アーシャの事を試着室へと連れ込む。
「お、おい」
「マスター」
カーテンを閉めたフィリアは、その中でそっとアーシャを抱きしめる。
密着してみると、アーシャの精神状態が良く解る。
「(鼓動も早いし、息も荒い、一体何があった?)」
涙で服が汚れようと、フィリアはアーシャの頭を優しく撫でる。
そのおかげで、アーシャは落ち着きを取り戻す。
呼吸の安定に頬を緩めるフィリアとは反対に、アーシャはフィリアの服を握り締める。
「(情けない、年下に宥められるなんて)」
フィリアの胸の中ですすり泣くアーシャは、縫い目を追っていた時の感覚へと引き戻された。
「平和に過ごしていたら、私は今頃、こうやって服を見ていた筈、なのに」
「え?」
故郷が襲われる前は実家の家業を手伝っていた時の事を思い出し、アーシャは胸に痛みを覚えた。
同年代の子の小道具やぬいぐるみを作り、時には自分一人で服を縫う事もあった。
「(大人になったら、絶対に店を継ぐって決めてたのに、皆の服も、作るって、でも全部……)」
実家の工房が焼け落ちていく様が、アーシャの脳裏に過ぎる。
奪われたのは故郷や家族だけではない、夢さえも奪われた。
「どうして、こうなった?」
「……マスター」
思わず口にしてしまったセリフに反応したのか、フィリアは強く抱きしめてきた。
「今日は、一緒に寝ましょうか?」
「……」
一昨日の対処法の再現ができるのであれば、このまま頷きたい。
だが、何度も子供のフィリアに頼る何てしたくはない。
「大丈夫ですよ、誰にもバレないようにすればいいんです」
「……どうやってだよ」
「そこは、何とかします」
「全く」
口頭ではそう思いながらも、本心は違った。
こんな状態で寝てまた悪夢にうなされる位ならば、フィリアと寝た方がマシだ。
「……ありがとう」
顔に熱を感じながら、アーシャはほほ笑んだ。
「はい」
「……けど服、汚しちまったな」
「……では、この服をお願いします、気に入りました」
「……そうか」
笑みを浮かべたアーシャは立ち上がり、試着室から出る。
そして、カーテンの前で自分の胸に手を置く。
「(単純だな、私も、こんな事で落ち着くなんて)」
痛みと苦しさで一杯だったが、今は少しだけ落ち着いた。
しかし、未だにケフュレスの言葉がナイフのように突き刺さっている。
「……スー」
大きく深呼吸するアーシャは、思考を巡らせる。
「……方法がそれしかないのなら、そうするしかない、たとえ、マックスに軽蔑されても、アイツを助けられるなら」
まだモヤモヤした気持ちはあるが、どんな方法を使っても目的を果たす。
痛む胸を抑えながら、アーシャは決めた。




