夜明け 中編
エレベーターの破壊された遺跡の前。
アーシャ達の戦いによって死屍累々とした状況が広がる中、サーバルはモンスーンに回収を依頼していた。
「とりあえずモンスーンは呼んでおいた、一分ちょっとで来る筈だから、それまで待機するか」
「……ついでに、おいガキ、お前は何者だ?」
「え、えっと」
しかし少女への疑念を捨てきれないアーシャは、軽機関銃の銃口を突きつけた。
いくら子供嫌いだからといってこの聞き方は無いと思う他二名だったが、警戒心むき出しの声色は何となく理解できる。
銃口を向けられている少女は現在では滅多に使われていない粒子兵器を使用し、大量の敵兵を葬ったのだ。
警戒して当然であるが、それでも脅迫紛いの行為にケフュレスは感心せず、銃口を手で抑え込む。
「もうアーシャちゃん、いくら嫌いだからって子供にそんな聞き方ダメだよぉ、ここはお姉さんに任せて」
「……チ」
「さぁて、お姉さんの質問に答えてくれる?」
アーマーを解除した少女と同じ目線に立ったケフュレスは質問していいか尋ねるが、少女は戸惑うように口を開こうとしていない。
しかしこのまま無言で居るのはマズイと判断したのか、アーシャの方を向く。
「……マスターのご命令でしたら」
「答えろ」
「……はい」
高圧的なアーシャのセリフに俯きながらも、少女は改めてバイザーに隔てられたケフュレスと目を合わせる。
相変わらずの態度にため息を混じらせながら、ケフュレスは質問を開始する。
「えっと、先ずは……先ず、ま、ず」
しかし、徐々に雲行きが怪しくなってしまう。
「……はい?」
「よく見ると、凄く綺麗な鎖骨だね」
「は?」
「あ、それにこのパッチリとした目に、ツヤツヤとした髪、さっきから思ってたけど、やっぱ裸の上に一枚だけ上着って全裸より昂る!それにこのふくらみか」
「はいダメ!!」
「オパッツ!!」
「あ」
変態発言を行うケフュレスに対し、サーバルは横からわき腹へとショットガンを撃ち込んだ。
スラグ弾を受けて怯んだ彼女に蹴りを入れて吹き飛ばされる光景に目を見開く少女達は置いておき、今度はサーバルが前に立つ。
「悪いな、変な奴しか居なくて、先ず、お前の名前はなんだ?」
「え、あ、え、えっと、あの方は、良いんですか?」
「大丈夫だ、あいつゴキブリだから」
「せ、せめてゴキブリみたいな生命力って言って」
「ゴキブリみたいに気持ちが悪いっつってんだよ」
「ふえ~」
「(ふ、普通に生きてる)」
横っ腹に風穴を開けられながらも普通に生きているケフュレスへ辛辣な言葉を投げかけるサーバルは、改めてフィリアへと目を向ける。
相変わらずアーシャは腕を組みながら冷たい目を送っているが、一旦それは置いておき話を続ける。
「さて、話を戻すか」
「……先ほど申しましたように、G7-666です」
「改めて聞くと不吉な数字だな……じゃなくて、なんか、前にも主居るとか言ってたな、ソイツには何て呼ばれてたんだ?そんな製品番号みたいな物じゃなくて」
「前マスター、ですか?」
「そうだ」
「……えっと(記憶領域に不備を確認、原因を究明……完了……カプセルの開放方法に問題が有った事が原因と推測する)」
まるで覚えていないかのような反応をする少女は、記憶を巡らせ始めた。
ロックが破壊される形で開放されてしまった事が原因らしく、保存されていた記憶の一部に破損が見受けられる。
しかも単独では修復不可能なレベルで、カプセルで眠る前の記憶はほとんど無く、それでも自分の固有名称はギリギリ思いだせそうだ。
「(名前、名前……)」
砂嵐や霧に包まれているかのような記憶の中、少女は確かに番号以外で呼ばれていた事を思い出す。
前のマスター、そして友人と呼べる者達から呼ばれていた名前。
「あ」
「どうした?」
「ふぃり、あ」
「え?」
「フィリア、それが、私の名前です」
「そうか、フィリア、俺はサーバル、で、こっちのデカ女、つまりお前のマスター?がアーシャ、で、この変態がケフュレスだ」
「よろしくね~、フィリアちゃ~ん」
「ッ」
サーバルの言う通り、いつの間にか復活したケフュレスの姿にフィリアは目を見開いた。
先ほど撃ち抜かれたのが急所となる頭部では無くわき腹だったとは言え、至近距離で大きな弾丸をマトモに受けたのだ。
普通ならば死んでいてもおかしくないが、先ほど撃ち抜かれた個所はアーマーが剝がれた事でインナーが露出している程度に収まっている。
倒れていた場所には血の池が未だ残っている辺り、被弾したのは夢では無いと物語っている。
「コイツになんかされたら遠慮せず俺に言えよ」
「は、はい……ッ、上空に機影!」
「あ?」
フィリアの発言に小首を傾げながらも、アーシャ達は周辺の警戒を開始。
少し遅れたタイミングでアーシャ達も向かってくる気配を探知し、警戒を解いて行く。
「……モンスーンか」
「ああ、心配して損したぜ、おい、大丈夫だ、あれは味方だ」
「そ、そうでしたか、すみません」
「……」
フィリアのセリフのせいで変に心配してしまったが、どうやら先ほど呼んだモンスーンが正体だったようだ。
視界に入り込んで来たのは、長方形の機体の四隅にローターを着けた基本的なヘリだ。
味方である事を改めて確認したスコールチームの面々は警戒を解くも、アーシャだけはフィリアに対する警戒を強めてしまう。
「で?結局なんなんだ?このガキは、装備も無くモンスーンの接近を感知したぞ」
「それ位俺達もできるだろ?」
「いや、コイツは機影と言った、私達と同じなら、そんな単語は使わない筈だろ?」
「そ、それは、そうだな」
アーシャ達の能力はあくまでも人を検知する為の物であり、機械を探知する事はできない。
つまりフィリアには、アーシャ達とは違う能力が備わっている事になる。
だが彼女達の頭にそんな能力は無く、レーダーらしい物は今のフィリアには確認できない。
余計に高圧的な態度をとるアーシャを遮るように、四人にヘリのローターが引き起こす砂嵐が襲う。
「ッ、肝心な時に」
『こちらモンスーン、降下地点に到着した、スコールチーム!無事で何よりだ!』
「はーい、みんな~、お迎えが来たよ~、撤収、撤収~」
「クソ、撤収する、このガキの報告は私がやる、サーバルとケフュレスはあのウェポンコンテナを運べ」
「はいよ」
アーシャ達の前に降りて来た機体は、機体後方のハッチを開ける。
どこか近未来感のある機械仕掛けの椅子がいくつも並ぶ薄暗い機内が解放され、奥にはパイロットのモンスーンが腰掛ける操縦席がチラリと見える。
アーシャは不機嫌そうに機体へと乗り込み、フィリアもそれに続き、残る二人はフィリアの武器が詰まったコンテナを機内へと運びこんでいく。
その様子をチラチラと見ていたモンスーンは、見慣れない顔に首をかしげる。
「お、おい、誰だ?その子供」
「私が聞きたい位だが、一先ず連れて帰る事にした」
「い、良いのかよ」
「こんな所に置いて行く訳にもいかないだろ、報告は私がする、後で無線を私に回してくれ」
「……解った、今回の隊長はお前だ、指示に従う」
「すまん」
「積み込み完了!モンスーン、頼む」
「あいよ、上昇開始」
空気の吹き荒れる音を響き渡らせると、輸送機は機体を揺らし、ハッチを閉じながら飛び立つ。




