写し鏡
アーシャが戦闘を開始し、賑わっていた筈の大通りは静寂に包まれていた。
その歩道を潰す事さえ厭わないレベルの全力疾走で装甲車は爆走し、路地裏から出て来たアーシャへと衝突した。
「ガハッ!」
装甲車に追突されたアーシャは高く宙を舞い、吐血しながらアスファルトへ激突。
持っていた銃は手から離れ、首もすわっていないように傾く。
そんな彼女の横で装甲車は止まり、後部のハッチが開いた。
「は、はは、やったぞ、遂にやった」
メイジギアを装着する五名の男たちは、武器を構えながら横たわるアーシャへと迫る。
特にリーダー格の男は、その姿に胸を躍らせている。
「や、やりました!やりましたよ!ラン大佐!」
「やったぞ!これで、死んでいった同士達も浮かばれる!」
部下も同じと言う事を聞いたリーダー格の男こと、リー・ランも笑みを浮かべる。
「ああ、全くだ……おい、生きているか確認しろ!」
「御意!」
「急げよ!いつ邪魔者共が現れるかわからないんだ」
生存確認を行いに行った部下は、銃口をアーシャへ向けながら接近する。
一番良いのは死んでいる事だが、できれば生きていて欲しい。
「し、慎重にな」
「ああ」
確認に行った二人のうち、一人は銃口を向けたまま待機。
もう一人はアーシャの事を軽く蹴り飛ばすと、銃に装着しているフラッシュライトをアーシャの目に直接当てる。
「……む、虫の息ではありますが、生きております!」
「そうか!では、さっさと連れて行くぞ!」
『御意!』
「……だが、その前に」
笑みを浮かべるランは、敬礼をした部下と共に転がるアーシャの元へ向かう。
早めに連れて行きたかったが、先にやるべき事を果たす。
「ははは!僥倖だな!」
高笑いながら、ランはアーシャの腹を踏みつけた。
「ガハッ!!」
「くく」
腹部踏みつけられたアーシャは意識を取り戻し、引き離そうとランの足を掴む。
そんなアーシャの悪あがきを足蹴にし、彼女の身体つきを舐めるように観察する。
「グっ」
「スコール、その中で一番のベッピンが手に入るとはな、それに、本当に良い身体だ、貴様に恨みを持つ同士は少なくない、その心が折れるまで、嬲り者になってもらう」
連れて行った後の事を考え、垂れたヨダレを拭ったランは足を腹から離す。
「装甲車に乗せろ!そしてすぐに拘束用のメイジギアを装着させるんだ!」
『御意!』
「ふん、エターナル共が抽選に当たったからと、送って来た武器は全て役に立たないガラクタのせいで犠牲は少なくなかったが、最後の最後で役に立ったな」
振り返ったランは、今回犠牲になった部下達に哀悼の意を示しながら装甲車へと戻る。
頭の中でこの後の事を考えていると、後ろから鈍い音が耳に入る。
「……ん?おい、遊んでないではやく」
振り返ろうとした瞬間、金属製の何かが鼻先を掠めた。
そして、その何かは装甲車の機関砲に命中し、かなり鈍い音を響かせる。
「な、何が!?」
「ガハッ!!」
断末魔を耳にしたランは、本格的に後ろを振り向く。
視界に入り込んで来たのは、倒れ込んでしまっている四人の部下。
彼らを殺したのは、復活したアーシャだった。
「ば、バカな!?」
「……抽選ねー、そう言えば、エターナルにそんなサービスが有ったな」
血に塗れるアーシャは首の辺りを伸ばしながら、メイジギア用の大剣を担ぐ。
「な、何故だ!?奇襲は、成功した筈だ!」
「悪いな、格上倒すために車でクラッシュしてくる奴も居るから気を付けろって、言われてたんでな」
「(ま、まさかあの女、受け身を取っていたのか!?)」
大剣を担いだ事で醸し出されるアーシャの威圧に屈しながらも、ランは大剣を握り締める。
身体の震えはメイジギアが抑え込んでくれるが、それでも大剣は不規則に揺れる。
その姿を見るアーシャは、大剣を持つ力を強める。
「フンッ!!」
「く、来るか!」
大剣は投擲され、腰が引けているランを通り過ぎる。
またもや装甲車に命中し、タイヤと駆動系を潰した。
その結果を目にするアーシャは、首をまた右に左にと伸ばす。
「(……あー、死んだフリも訓練してたけど、着地失敗した、首いてー)」
「く、クソ!貴様だけは、貴様だけは必ず殺してやる!!」
「あっそ、頑張れよ」
見るからに素人感の溢れる構えを前に、アーシャは両手の関節をバキバキ鳴らす。
そして、覚悟を決めた表情を浮かべたランは、大剣を振りかぶりながら迫って来る。
「殺してやる!!」
「……」
迫って来た大剣をアーシャは破壊し、ついでにローキックでランの片膝を破壊する。
「ガアアア!!」
骨は折れ、駆動系からも火花を散らしながらランは膝から崩れ落ちる。
「チェックメイトだな、テメェ殺せば、ウィルソンの奴から褒賞貰える」
膝立ち状態のランを前に拳銃を装備したアーシャは、間合いの一歩前から狙いをつける。
すると、ランは憎しみの籠った目で睨んで来る。
「ギ、ギィィ、俺から故郷と家族を奪っただけでなく、部下まで奪うか!?」
「あ?」
「貴様が、俺の息子を目の前で殺した事は……決して忘れはせんぞ」
「……」
涙ながら訴えるランの姿に、アーシャは銃口を下げた。
以前鏡で見た自分の表情と、彼の顔を思わず重ねてしまう。
「俺の故郷を焼いたのは、間違いなく貴様らだ!」
「ッ!」
その言葉に、アーシャは心臓が飛び出そうになった。
「(同じだ、私と)」
徐々に動悸が起こり、冷や汗も吹き出して来る。
認めたくないが、先ほどまで散々憎んでいた連中と同じ罪を犯していた事実を突きつけられた。
「(いや、違う、違う)」
「だからこそ、俺は、貴様を殺す!その為に軍に入ったのだ!!」
「ッ、グ!!」
動揺していたアーシャに、一発の銃弾が撃ち込まれた。
寸前で回避したが、反応が遅れて頬を掠める。
血が流れと共に、焼けたような痛みがアーシャに襲いかかった。
「(……こいつ等が、敵だから)」
撃たれた個所を抑えるアーシャは、息を荒くしながら再び銃を構える。
「キッ!」
「グッ!」
それはランも同じ。
双方の銃が向かい合い、二つの銃声が同時に響く。
「……」
眉間に穴を開けながら倒れていくランを前に、アーシャは歯を食いしばりながら何度も引き金を引く。
「敵を撃って、何が悪い、無関係なのに、襲って来たアイツ等とは」
弾倉が空になろうと引き金を引くアーシャは、ゆっくりと銃を下ろす。
「……絶対に、違う」
片手で顔を覆うアーシャは、近くのビルの窓に目を向ける。
そこに映ったのは、悪夢の中に何度も出て来た男。
ビーキーパーズの頭目が、アーシャと同じポーズを取っていた。
「……そうじゃない、違うんだ、そうだろ?教えてくれ、ケフュレス」
倒れるランを当時殺された両親と重ねたアーシャは、膝から崩れ落ちた。
首を何度も横にふりながら、また彼女の助けを求めてしまった。
聞き慣れた音が近づいて来るような気もしたが、何の音なのかさえ思い出せず、考える気にもなれなかった。




