怒りの矛先
フィリアを試験会場へ送り届けたアーシャは、先ほど通りすぎたモニターの前に佇んでいた。
ナイフのように鋭い眼光でモニターを睨みつけ、流れる傭兵団の広告を追う。
しばらく待った事で、ようやくお目当ての広告が映る。
アーシャにとって最も忌々しい連中だ。
『急なお客様、滞る仕事、手の足りない皆様に、快適な生活をお届けします……それが私達』
「……ビーキーパーズ」
企業名を口にしたアーシャは、映像の中央を陣取る背広姿の男性を睨みながら拳を握り締めた。
今すぐモニターを殴り壊したい衝動を抑え、大きく深呼吸する。
壊して銃殺されるような事は無いが、確実に奥の部屋へと連行される事になる。
「(アイツと出くわしそうな依頼を受けては、ダミー会社をつかまされ、単純に空ぶって、尻尾を掴んだと思ったら逃げられて)」
呼吸を整えたアーシャは、ロビーへ戻る途中で過去を鮮明に思い出してしまう。
故郷の住人達を一方的に蹂躙するビーキーパーズと、焼ける村を背景に誇らしげになびく彼らの旗がチラつく。
「(いつになったら奴を殺せる?奴のせいで、私の故郷も、家族も、そして、アイツも)」
広告にはメイドや執事等、いかにも使用人らしい恰好をした人達が映し出されていたが、彼らの実態はさらった人間を売る奴隷商。
彼らの所業を思い返した事で、折角落ち着いた呼吸は再び荒くなってしまう。
「……私は、故郷の生き残りを探しだして、奴の頭を引き裂いてやるために入隊したんだ、こんな所で燻っている場合じゃない、ましてや、ガキの面倒なんて」
凄惨な過去を想起するアーシャは、足取りを早めた。
怒りに心を焼かれたせいで、この施設の出入り口しか見えていない。
「おうアーシャ、こっち座れよ」
「……」
席を確保していてくれたサーバルの声で、一瞬我に返った。
だが、アーシャは外へ出て行こうとする。
「悪い、ちょっと一人にさせてくれ、アイツの試験が終わっても戻って無かったら先に行っててくれ」
「お、おい、どこ行く気だ?」
「……奴隷市」
今にも誰かを殺しそうな目をする外へ出て行ったアーシャは、エターナルの支部を後にした。
残されたサーバルは彼女の向かった場所を思い返しながら、椅子の背もたれへと倒れ込んでしまう。
「……アイツ」
ため息交じりのサーバルの横で、雑誌に目を通すケフュレスも同じように話す。
「……何時もの病気がでちゃったね」
「ああ、大方、どこかで連中の広告でも見ちまったんだろうな」
アーシャは今のように暇が有れば奴隷市を回り、同郷の面々を探している。
未だに売れ残りや転売されている可能性を捨てきれていない。
「……どれ位経つ?アイツが故郷の連中探し始めて」
「……お楽しみの館から助けた直後っぽかったし、そうだねもう六年以上かな?」
「捕まっていた期間もいれると八年前か、もう見た目も大分変わっちまってるだろうし、生きている保証も」
「でも、今のあの子にとっては大切な希望と、よりどころだよ」
「解るが……けどよ」
俯いたサーバルは、ケフュレスの言葉を肯定しつつも心の中で否定する。
「……とりあえず、フィリアが戻るの待つか」
「だね」
「(バカやろうが、こういう時こそ、仲間の俺ら頼れよな)」
止めようとしたのだが、怒りのオーラに包まれるアーシャには慰めの一つも言えなかった。
心に針が刺さったような痛みを覚え、目を細めて天井を眺める。




