お茶会 休暇前夜
アーシャとフィリアが二人で寝た日の翌日。
今日の仕事を終えたアーシャは、ホホをツヤツヤさせながら中央の卓に座っていた。
「(……何だろう、今日はやけに仕事に集中できた、目覚めも良かったし)」
悪夢も見る事は無く、今までで一番清々しい朝だった。
その上、心なしか体内の魔力の巡りがいい。
「(まぁうん、考えられるのは、昨日のフィリアの添い寝なんだが……)」
ほんのりと甘い香りが漂いだした辺りで、アーシャは目を開く。
ケフュレスは楽しそうにオヤツの用意をし、サーバルはそれを楽しみにソワソワしている。
フィリアも隣にいるが、そんな事より大事な事がある。
「どうぞ~、今日も良い感じに入ったし、スコーンもサクサクだよ~」
「お、来た来た」
「(大丈夫だよな、こいつ等知らないよな?私がフィリアと一緒に寝てた何て)」
「ん、やっぱケフュレスの作ったお菓子美味いな」
不安に駆られるアーシャは、二人へ目配せしつつケフュレス特性の紅茶を口にする。
起きた時、サーバルはまだベッドで寝ており、ケフュレスは床にぶっ倒れていた。
見られた可能性は低いが、一番怪しいのはケフュレスだ。
「……なぁ、ケフュレス」
「ん?口に合わなかった?」
「……昨日の夜、何してた?いつまで経っても帰って無かったが」
「あー、ちょっとねー、レイブンに捕まっちゃって、部屋に帰るなりぶっ倒れて、そこから記憶ないんだよねー」
「……そうか(何したか知らんが)」
いつもの朗らかな表情で紅茶をすするケフュレスの姿は、とても嘘を言っているように思えない。
胸をなで下ろしたアーシャは、心置きなくスコーンをかじる。
「どう?フィリアちゃん、遠慮しないで食べていいんだよ?補給班の人達から手伝ってくれたお礼に貰った奴で作ったんだから」
「え、あ、は、はい……」
「心配しないでも、コイツは食べ物とかに一服盛ったりはしない」
「そうそう、そう言う卑怯な趣味は無いからね、行くときは正面からだよ!」
「……い、いただき、ます」
不安に駆られているアーシャの隣では、何時もより変な挙動をするフィリアもスコーンをかじった。
チョコチップを混ぜ込んで焼かれたスコーンをサクサクと食べ進めるが、味の方は全くもって感じていない。
その原因とも言える感触は、今もフィリアの身体に残っている。
「(ま、まだ、マスターの身体の感触が……)」
朝起きた時、アーシャとフィリアの体勢は逆転。
寝起きのフィリアはアーシャに抱きしめられている事に気付き、静かに激しく動揺する羽目になった。
「(何故だ、何か、思い出すだけで、顔が熱くなる)」
ゆっくりと視線をアーシャに向けたフィリアは、その姿を改めて目に捉える。
なぜだかアーシャの姿はいつもより綺麗に見え、紅茶を飲み、スコーンを食べる姿の一つ一つが輝いて見えてしまう。
「……ん?どうした?」
「ッ、い、いえ、何でも、無いです」
「そ、そうか」
「(なんか、目が合わせられない)」
目を逸らしたフィリアは、誤魔化すように紅茶を飲む。
そして、そんなフィリアの姿に、アーシャはちょっと胸に痛みを覚えた。
「(……今日、フィリアと目ぇ合わせて無いな……昨日冷たくしたからか?いや、その事は、一応謝ったし)」
心の中に生まれたモヤモヤを飲み込むように、アーシャはティーカップを傾ける。
「……ところでアーシャちゃんの方こそ、フィリアちゃんと何か有った?」
「ブ!」
ケフュレスからの質問に、アーシャは口に含んでいた紅茶を一気に噴き出した。
そして、変な所に入った紅茶を吐きだそうと体が反応する。
「ゲホッ!ゲホッ!」
「……本当に何があったんだよ」
「い、いや、何も無いから、何も無い」
「有っただろ、明らかになんか有っただろ、その反応」
真顔で呆れるサーバルの前で、回復したアーシャは目を泳がせながら否定した。
そして、そんなアーシャの反応をケフュレスが見逃さない筈がない。
「ねぇ、これってキマシかな?サーバルちゃん」
「知るかよ」
「ふえ~」
ケフュレスの疑問をあしらったサーバルは、目を細めながらアーシャ達の事を睨む。
そんなサーバルに気取られまいと、アーシャはフィリアと距離を詰める。
「な、なぁ、そんな事無いよな、なぁ、フィリアちゃん」
「は、はい、別に何にもありませんでした」
「……つか、俺も気になってたんだよ、今日お前、フィリアと距離近かっただろ、子供嫌いのお前が」
サーバルの冗談半分のセリフに、アーシャは固まりながら言葉を失った。
そして、今日一日のフィリアとのやり取りを思い出す。
「(……そう言えば、私、何で今日フィリアと普通に会話できたんだ?)」
頭がこんがらがるアーシャの隣で、同じように今日の事を思い出していたフィリアは笑顔を見せる。
「そう言えば、今日のマスター、話しやすかったです」
「ッ」
思いがけないフィリアからの追い打ちに、アーシャは息を飲んだ。
そして、少しだけだが、顔が熱くなったような気がした。
「(な、なんか、顔が、火照る……なんだ、これ)」
いきなり沸き上がって来る感情に、アーシャは自分が解らなくなってしまう。
考えや情報が頭の中をぐるぐる回り、今の気持ちの整理にキャパが全て持っていかれてしまう。
そんな彼女を置いて行くように、フィリアはサーバルの方を向く。
「……あの、サーバルさん」
「何だ?」
「今私、変な事言いました?」
「……まぁ、ちょっと恥ずかしい事言ったな、てか、アーシャのあんな顔見た事ねぇな」
「そ、そうですか……」
サーバルからの言葉に反応したフィリアは、ゆっくりとアーシャの方を向く。
頭を両手で抑える彼女は、何かブツブツと呟いたまま固まってしまっている。
「(成果有り、なのか?……そう言えば、昨日のマスター、可愛かったな)」
「ボフッ!」
「アーシャ!?」
「マスター!?」
ニヤニヤとしていたフィリアの横で、アーシャの頭は暴発。
後ろへ倒れ込んだアーシャに、フィリアとサーバルは急いで駆け寄る。
そんな三人の様子に、ケフュレスは閉じた目で観察していた。
「(……フィリアちゃん、成果だし過ぎじゃない?固まってたアーシャちゃんの感情、ちょっと戻ってるんだけど、まぁ、それはそれとして、二人の関係性だけで紅茶進むわー)」
「テメェも茶ぁしばいて無いで手伝え!」
「はーい」




