強さの秘訣
「さて、やっぱ聞くとしたらあの三人か」
部屋を抜け出したフィリアは、他のスタッフに道を訊ねながら巨大な艦の中を進んでいた。
そして、ライトニングチームの部屋付近の区画へとたどり着いた。
「確か、この辺だったな(てか、私の居た所より活気あり過ぎて違和感凄いな)」
妙に活気の溢れる道中を進み、レッド達の部屋の付近へ到着。
ライトニングチームと書かれたプレートが設置されている扉の前に立ち、数回ノックする。
「すみませーん、どなたか、いらっしゃいますか?」
『あー、ちょっと待ってな』
返事が返ってきて数秒後、部屋の扉が開かれる。
「はいよー?」
「あ、ど、どう、も……」
「……」
扉から出て来たのは、半裸姿で酒瓶を片手にしているオセロット。
なんともだらしのない姿の彼は、フィリアを数秒見た後で冷や汗をダラダラと流し始める。
「ど、どうした?」
「いえ、ちょっと、お話が……」
「ち、ちょ、ちょっと待ってろ!」
「はい」
返事をし終える前にオセロットは扉を閉め、部屋の中へと入って行った。
『おいテメェら片付けろ!フィリアが来た!』
『ちょ、おいぶちまけんな!折角フォーカード出かかってたんだぞ!!』
『うるっせ!博打やってる姿何てあの子に見せられるか!』
『仕方ない、どうせ負けてたし』
「(すみません、全部筒抜けです)」
どうやら、三人でカードゲームに興じていたらしい。
その片づけが終わったのか、五分後にもう一度扉が開く。
「ま、待たせたな、入って良いぞ」
「は、はい、お邪魔、します(半裸なのは変わらないのかよ)」
恰好は変わっていないオセロットに中へ案内され、ようやく入室する事ができた。
「ちょっと待ってな、今、何かオヤツ持って来るからな」
「お、お構い無く」
スコール達の部屋より、若干の酒臭さとだらしなさを感じる部屋に通されたフィリアは中央にある卓へと座らされた。
そんな彼女をもてなそうと、男性陣はアタフタと部屋を漁りだす。
「えーっと、飲み物、飲み物……コーラしかねぇか」
「お菓子も乾パンとジャム位か、ラケルタ、レーションのチョコレート、余ってたりしないか?」
「すまん、昨日食べちまった、けど、器ならオシャレな物有るぞ」
「そうか、何か甘い物でもって思ったが、材料もな~」
予想外の来客に焦るも、三人は有り合わせの物をフィリアへと差し出した。
「悪い、こんな物しか無かったが、遠慮しないで食べてくれ」
「あ、はい、どうも」
とりあえず食べ慣れている乾パンをつまみつつ、フィリアは目の前に座っている三人へと目を向けた。
「それで?俺らに何の用だったの?」
「もうちょっと優しく聞いてやれよ」
「はいはい」
「……その、ま、マスターの事なのですが」
「ッ、アイツに虐められたのか?」
「いや、そう言う訳では無く(一番はマスターが力を手に入れる秘伝みたいな物、腕の傷に関しては、ついでに聞けたらいいなくらいだな)」
アーシャの事と言った途端に殺気立ったオセロットをなだめつつ、フィリアはここに来るまでに考えていたセリフをまとめる。
とは言え、聞く内容が内容なので抵抗がある事に変わりは無く、喉に突っかかってしまう。
「その……彼女は何故あんなにも、力を求めているのでしょうか?」
力を得ようとしている事と過去は直結していると考えると、色々と情報を聞き出せそうと判断した。
しかし、三人とも黙り込んでしまう。
何かマズイ事を聞いてしまったのだろうかと、背筋を伸ばしながら硬直してしまう。
「えっと……あー、その、だな……な!オセロット!!」
言葉に詰まっていたレッドは、隣に座っていたオセロットの肩を勢いよく乗せながら話を彼に振った。
「俺かよ!?」
「こう言うのは、お前の役目だろ?」
「そんな役割担った覚えねぇ!」
等と言っているが、もうオセロット以外は説明を放棄する気満々。
仕方ないと言わんばかりに側頭部を掻きむしり、改めてフィリアと目を合わせる。
「……そうだな、腕の傷、知ってるか?」
「はい、触れようとしたら、拒絶されました」
「チ、アイツは……」
「何時もの事だ」
ラケルタがフォローを入れる中で、オセロットは顔を手で覆った。
一度大きめに深呼吸をすると、酒瓶を傾けて中身を飲みだす。
「プハッ……アイツは元々、どっかの傭兵に売られた奴隷でな、腕の傷は、捕まった時に着けられたらしい」
「奴隷(……そう言えば、初めて会った時にチョーカーの事を知っている風だったな)」
一応ケフュレスとサーバルからの経由で、オセロットはある程度アーシャの過去を聞いている。
オセロットは二人から聞いた事を、一部の話を誤魔化しながら伝えた。
「……そういう事が」
「ああ、その時の連中をぶちのめすのが、アイツがここに来た動機らしい」
オセロットから伝えられた情報を整理したフィリアは、脳内へと焼き付けた。
「……それで、何で、急にそんな事を聞くんだ?」
「……え、えっと、マスターが、貴方方の事を見て、随分、落ち込んでいたので」
「そうか……」
「まぁ何時もの事だけどね」
「ああ、力量の差を見せつけられるとな」
やはり彼女の平常運行なのか、三人は『またか』と言うような態度を取った。
彼らの反応を見て、フィリアはより踏み込む事にする。
「では皆さんは、どのようにしてあんな力を?何か、彼女の成長につながる事を知れれば良いのですが」
「うーん、ソイツはな……」
「俺らはとにかく鍛えて、実戦やりまくってただけだよ、ようは経験だよ、経験」
「つまり場数の違いであると?」
「それもあるだろうが……そうでは無いのだろう?オセロット」
レッドは経験の差と言い出す中、ラケルタだけは難しい顔でうつむくオセロットへ目を向けた。
興味を惹かれたフィリアは、また彼の方へ目を向ける。
「……俺からすればアイツは、無い物ねだりするワガママなクソガキって所だ」
「……ガキ、ですか?」
「そうだ、持っていない時は、他の奴から借りるなり、協力すれば良い、なのに、全部自分でできるようにしたいって、ワガママな奴だろ?」
「……」
愚痴でも垂れているかのように語るオセロットは、ため息交じりに酒をあおる。
フィリアの前なので、攻撃的な言葉は使いたくないと言いたそうだ。
「あー、悪いなフィリア、コイツ眠い時に酒飲むと悪酔いするんだよ」
「ああ、普段なら、子供にこんな事言わないんだが」
「……チ」
貧乏ゆすりを始めたオセロットは、更に酒を飲みながら舌打ちをした。
怒りを前面にだす彼の姿に、フィリアは目を丸めてしまう。
「……あ、あの、一体何が」
酒瓶を握り締めたオセロットは、大きく深呼吸しながらフィリアの疑問に答える。
「……困ってる、悔しい、そう素直に言えばいいんだ、なのに、一人で抱え込みやがってよ!戦争ってのは一人じゃできねぇんだ!頼ってくれれば、俺もサーバルもケフュレスも、ちゃんと助けてやるってのに!」
顔真っ赤にし、口から酒気を吐き出すオセロットは、更に酒を飲みながら独白を始めた。
セリフからどことなく自分と同じ雰囲気を感じ取ったフィリアは、チョーカーに手を置く。
「私も、マスターにはもっと頼って欲しいです、従者として、彼女の役に立てなければ、私は存在している意味は有りませんから」
「フィリア!」
「はい!」
酒瓶を勢いよくおいたオセロットは身を乗り出し、フィリアへ顔を近づけた。
思わず鼻を摘まんでしまいそうな程のアルコール臭を醸し出す彼は、怒ったような表情で言葉を続ける。
「あのな……お前は、あのデカ女の、友人として!よりそえば、いいんだよ!!」
「おい、酔いすぎだ」
「わ、私が、マスターの友人として……そんな、私なんかがマスターと友人だなんて」
「じゃかっしや!」
「ヒ!」
「もうお前が、兵器扱いされてた時代じゃ、ないんだ!それでも、アイツが拒んだら、俺が、いっぱつ、入れてやる!」
「は、はい」
気迫に押されてしまったフィリアは、思わず首を縦に振ってしまう。
だが、友人なんて物はフィリアにとって一番縁遠い物。
せめてもの参考の為に、彼らの関係について聞いてみる事にする。
「それで、その、貴方方やマスター達も、ご友人同士、という考えでよろしいのでしょうか?」
「ん、ああ俺達も皆ダチ公さ」
「……ダチ、公?友人とは違うのですか?」
「同じような物さ、一緒に飯食って、一緒に戦って、一緒に笑い合って、それだけで、皆ダチ公さ!もちろん、お前もな」
目をパチパチと動かすフィリアは、一瞬だけ思考を停止させながらも言葉を飲み込む。
そして、先ほど勢いだけで頷いた考えに、今度は本気で肯定する。
「……解りました、では、オセロットさんの提示した方向で行ってみます」
「うん!それでいい!」
「それで、その……ダメでしたら、また来てもよろしいでしょうか?」
「ああ!何時でも来い!」
「俺も良いよ、その時は、崩壊戦の話とか聞かせてもらうけど」
「次来た時は、もっとちゃんとしたオヤツを用意しておく」
「はい……」
縁遠いと思っていた物が一つ手に入り、フィリアは小さな笑みを浮かべた。




