ヴェイザーの流儀 中編
アナウンスが鳴る少し前。
現在艦の止まっている場所と丁度反対の箇所で爆発が起こり、その音を認識したブリッジのクルー達は騒然としていた。
そんな仲で、この町の代表から直接連絡がかかってくる。
「……そちらも大変だな、また奴らの嫌がらせか?」
『嫌がらせと言うより、今回は報復かもな、何しろロンリューを始末したんだから、ま、そうで無くても、奴らはもう後が無いんだろうぜ』
モニターに映るのは、サングラスにレザージャケットを着用したダークエルフの青年。
ヴェイザーのお得意様であり、ベルガスシティの代表だ。
『と、まぁ壁の修理費も馬鹿にならない、延長料金は支払う、奴らの撃退に手を貸してくれ』
「……延長料金、か、今回の依頼は敵基地の襲撃、そして将校の排除が主目的だ、町の護衛は入っていない、別の依頼として処理させてもらう」
『そ、それは』
依頼内容の書かれた書類を見せつけられ、青年は渋い顔を浮かべだす。
彼の前で、コマンダーは傭兵団の運用に必要な依頼料を計算、提示する
「……せめて九割増額は覚悟してもらう」
『ッ、て、典型的な手だな、だが、こちらも今回でだいぶ散財した、五割が限界だ』
この非常時に二人の値踏み対決が始まってしまい、ブリッジのクルー達は変に焦ってしまう。
敵の戦力は今の所不明だが、遅れて民間人にまで被害がでてしまえば夢見が悪い。
さっさと終わらせる為に、コマンダーは余裕を見せながら椅子に深く腰掛ける。
「……ウィルソン、君とは長い仲だ、手荒な事はしたくない」
『こちらも譲る所は譲っているんだ』
「……君の使っている大金庫、並びにマイホームの警備状況はスカウトを通して把握している、金だけ頂戴する事も容易い」
『がッ……だ、だがな、こちらだって、相応の戦力は』
「……こちらの力は、この辺りのどの連中よりも把握しているだろうに」
『……』
戦力差を突きつけられたウィルソンは顔色を悪くし、考える素振りを見せだす。
だが、彼に考える暇を与えまいと、コマンダーは先手を打つ。
「……各員、目標はベルガスシティ中央タワー、地下金庫より、有り金を全て」
『解った!七割だ!七割で手を打ってほしい!こちらもアイツ等の嫌がらせの収拾に金がかかっているんだ!!』
「……まぁ良いだろう、警報を鳴らせ、敵の戦力を把握次第、直ちに戦闘開始」
「は、はい!」
『……感謝する』
深々と頭を下げるウィルソンを横目に、ヴェイザーは戦闘態勢に入った。
――――――
数分後。
ソウリュウの格納庫内では、出撃命令を受けた戦闘班の面々が慌ただしく武装を開始していた。
後から到着したアーシャ達も、出撃の為の準備を進める。
「装着急げよ!サーバル!」
「解ってる!」
専用のハンガーに立ったアーシャの背後より、彼女達用のメイジギアが現れる。
装着には一分程掛かる為、緊急の時はかなりもどかしい。
おかげで、フィリアの装備が羨ましい。
「……これ考えると、お前の奴本当に便利よな」
「世代の差が有りますので、仕方ありません」
「(……嫌味にしか聞こえないな)」
本人にその気は無くても、嫌味と受け取ったアーシャはヘルメットのバイザーを下ろす。
首のチョーカーを押して数秒で終わる便利さ、そんな物を見て興奮する者さえ居る。
「ほぉ~、凄いね、ナノマシンって奴かい?」
「え、ええ、そうです」
「そいつも今や記録にちょいちょい出ている位でね、実物を見たのは初めてだよ、アンタは本当に面白い!」
「レプティル、悪いがそう言うのは後にしてくれ、緊急時だ」
「……ちぇ」
案の定食いついて来たレプティルを引き離したサーバルは、フィリアの肩に手を置く。
「ここの無線は全部使えるようになってるな?」
「はい、コマンダーから使用されている回線のデータは頂きました」
「よし、もうそろそろコマンダーから指令がある筈だ、それまで」
「(……便利な奴だ)静かに、丁度それが来た」
サーバルの解説を切り上げさせ、アーシャはコマンダーからの通信に耳を傾ける。
そして今回のターゲットを示した映像と写真が、目の前に表示される。
『……各隊に通達する、現在地から対角線上に存在する区画にアズカニダ共の艦隊を確認した、既に敵歩兵部隊と戦車隊の展開も確認されている、町の防衛部隊も展開してはいるが、敵艦からの艦砲射撃に苦戦を強いられている』
戦力差は歴然、火力も敵側が上回っている。
早急に駆けつけなければ、ウィルソン達の陣営は押しつぶされてしまう。
『……先ず、装甲車を用いて壁の近辺に歩兵部隊を展開、スコール隊、アーマードナイト隊と共に壁の部隊の救援に当たれ、敵艦の排除はライトニング隊に任せる、必要であれば、艦の撃破後に航空支援を行い、敵地上部隊を排除する……各隊、心してかかれ』
『押忍!!』
その掛け声と共に戦闘員の面々は敬礼を行い、それぞれの持ち場へと移動する。
歩兵として活動する者は装甲車へと乗り込んで行き、そうでない者はアーマードナイトへ搭乗。
「ファインチーム!同乗させてもらう!」
「ああ!手のかかるお嬢様がたのご搭乗だ!席を詰めろ!」
アーシャ達は他の歩兵達と共に装甲車へと乗り込み、左右の壁を背にしながらメイジギアをシート状に変形させて座り込む。
しかし、一人だけ異質な物となっていた。
「……お前、それで良いのか?」
「はい、私達の時はこう言う形の運送方法でしたので」
全員が着席する中、フィリアは周囲から浮いていた。
彼女だけは、立ったままコネクターに接続されている。
ヘルメットを指でかくサーバルは、恐る恐る尋ねる。
「す、座れたりとかは」
「すみません、そう言うのができない仕様になっていまして」
「お前、本当に苦労してたんだな」
「(……本当に武器扱いだな)」
強化人間は、兵士ではなく武器として扱う。
その事実を目の当たりするアーシャは、息を飲みながら武器の準備を終える。
そんな中、アーシャとフィリアにのみ、コマンダーから通信が入り込む。
『……アーシャ、フィリア、聞こえるな?』
「はい」
「聞こえます」
『……アーシャ、一先ず、ウチの流儀を堪能させる、前線の指揮はファインに任せて、サポートしてやれ』
「……押忍」
『……フィリア、お前も、無理に他の連中と足並みをそろえる必要は無い、今の戦いに慣れておけ』
「は、あいや、押忍」
ほぼ一方的に話したコマンダーは通信をきり、代わりに一緒に乗っている部隊の隊長に通信が切り替わる。
『よく聞け!今回の指揮は俺が取る!ド田舎の傭兵共に、矢玉をたんと馳走してやるぞ!レイン!クラウディ!後れを取るなよ!全車出撃準備に入れ!』
『押忍!』
暑苦しい口調で話す今回の指揮官への返事が終了すると共に、部隊を乗せた輸送機は移動を開始。
艦の車両搬入用ハッチが開き、夜空と辺り一面砂でできた大地が現れる。
『全車!出撃!!』
その叫びと共に、三両の装甲車は砂上を爆走する。




