スコールチーム 後編
数分程遺跡の入口を捜索した結果、地下へ通じるエレベーターを発見し、早速地下へと移動していた。
襲撃に備えるアーシャ達は緊張感を高めながら、手持ちの銃をエレベーターの扉へと向けていた。
「上手く偽装したもんだな、有るって事解ってなかったら探そうとも思わなかった」
「ああ、けど、アイツ等どうやってここを見つけたんだ?」
「さぁな、悪運だけは良い連中だからな」
等と無駄話をする二人の傍らで、ケフュレスは室内ではほとんど役に立たない狙撃銃の代わりにマシンピストルを引き抜きながら不敵に笑っていた。
「ふ、ふ、ふ~、遺跡、旧人類の遺したあらゆるデータと物資を蓄えた夢の宝物庫、現在の人類がこうして存続して、バカバカ銃で戦う事ができているのも、この遺跡が有るからこそ、いわば闘争を生む魔境」
と言うようなセリフを、弾倉を抜いたマシンピストルをカチャカチャ動かして動作チェックを行いながら口にした。
一応この場に居る全員が知っている事である為、別に今言う事ではない。
おかげで、ケフュレスは残り二人から変な目を向けられてしまう。
「……誰に言ってんだ?」
「ん~、これを読んでくださっているというか、まぁ、そんな人達?」
「……」
「……」
余計に変な事を言われ、二人の目は呆れから軽蔑へと変わってしまう。
尚、ヘルメットのバイザーで互いに表情は全く見えていない。
冷たい視線を向けられようと構わず弾倉を銃に叩きこむと、ケフュレスはヘルメットの奥で笑みを浮かべだす。
「もう、二人共そんな情熱的な目を向けられても、私困っちゃう~」
「いい加減にしないとドタマぶち抜くぞ?」
「アーシャちゃんになら、私、いくらでもぶち抜かれたい」
「……なぁサーバル、コイツどうやったら痛い目見せられると思う?」
「さぁな、とりあえず死ぬほど殴ればいいじゃね?」
「二人からのリンチなら喜んで!!」
「よぉし、後ちょっとで到着だ、構えろ」
「押忍」
「ふえ~、せめて無視しないでよ~」
もう付き合っていられなくなった二人は、改めて銃口を扉へと向けた。
エレベーターの出入り口上方に有るメーターは、徐々に最下層に到達する事を示していく。
警戒を強める二人は目を閉じ、ゆっくり深呼吸を行う。
「いや……警戒解除」
「だな」
「ふふ」
扉が開く前に三人は呆れながら警戒を解除し、両肩の兵装も待機状態へと移行させた。
感じとれた気配は一人分しか無く、どうやら全ての戦力を上に割いていたらしい。
「……呆れるな、まさか現有戦力全部を護衛に回すとか」
「そう言う奴だ、後先考えずあーだこーだ」
「開くよ~」
ケフュレスの言葉と共に、エレベーターの扉が開く。
その瞬間、三人は息を飲む事になった。
「……おい、何だ?これは」
「……本棚、か?」
彼女達が目にしたのは、まるで壁のように広がる巨大な本棚の数々。
しかも全てが白一色、遠近感が狂いそうな光景が広がっている。
アーシャ達の知る最も大きな図書館でもこんなに大きい物は無く、正に圧巻の一言だった。
驚きのあまりゆっくりと歩くアーシャとサーバルとは異なり、ケフュレスだけはマイペースにズカズカ前進し、本棚の一角に手を置く。
「……本棚、じゃないね……成程、オシャレな魔導サーバーって奴だね」
「な、何だよ、脅かしやがって」
「昔はこんなのが山ほど有ったって所か、まぁいい、とっとと行くぞ(……しかし、こんなバカでかい物、一体何に)」
ケフュレスの調べによれば、現在では珍しい魔法を用いたコンピューターサーバーを本棚に模した物らしい。
同じ物はアーシャも見た事有るが、自分の身の丈の三倍以上は有るサーバーを見たのは初めてだった。
この部屋も格納庫として扱うのにも十分な大きさを持ち、天井も有るのかないのか解らない位高い。
そんな巨大な物がいくつも有る事に疑問を抱きながらも、三人は一直線に目標の場所へ歩いて行く。
「……近いが、姿は無いな」
「ああ……」
本当に図書館のように入り組んでいて視界が悪く、目視の難しい環境だが、彼女達は生命体の気配を探知する能力を持っている。
その能力によれば目標はその場から動いておらず、じっとしていているようだ。
「……ねぇ、あれ、何かな?棺桶みたい」
「あ?棺桶だ?そんな事より目標を……いや、どうやらそっちに居るみたいだな」
確かに有る筈の気配を探っていると、ケフュレスは棺桶のような物を見つけた。
その目前に確かな気配を感じ取り、三人はその方向へと進路を変更。
武器の安全装置も解除し、姿の無い敵を警戒しながら進んでいくと、サーバルの耳は異音を検知する。
「ッ、構えろ!」
「チ!」
「死ね!ヴェイザーの悪魔!」
サーバルの警告に合わせるようにして、目標はシートのような物を背後に捨てながら出現。
どうやら特殊な偽装シートを被っていたらしく、完全に視界には映っていなかったが、メイジギアの駆動音をサーバルの耳が捉えたらしい。
おかげで三人とも標的が現れる前に銃を構えて攻撃される前に発砲し、可能な限り銃弾の雨を放った。
発砲音に交じって空薬莢の落ちる乾いた音が鳴り響かせながら、敵の装甲や人体は次々と破壊されていき、敵の腕は天井へとむけられた事で天井をハチの巣にしていく。
アーシャ達の攻撃で射撃システムが破壊された事でようやく終わり、絶命した敵と一緒に倒れ込んだ。
「……気配的には目標っぽいが」
「じゃ、本人確認に使える奴を採取してくるね~」
「ああ、頼む」
目標の撃破を確定する為に、本人確認の出来る物を採取する。
特定の人物を排除する依頼では、必ずこれを行わなければならない。
その役目を買って出たケフュレスを横目に、アーシャはずっと気になっていた棺桶の前に立つ。
「……で、何だろうな、これ」
「ああ、売ったら高値が付く情報でもあればいいんだが……ん?なぁ、これ、この辺被弾して無いか?」
「あ?……あ、これ私の弾痕じゃねぇか」
「おいおい、やっちまったな」
「チ、ん?」
観察していると、恐らくアーシャの軽機関銃による被弾個所を発見した。
一応この遺跡の所有権は依頼主に有る為、下手したら損害賠償的な物を請求される危険がある。
多少くすねる事は許容されているが、壊すのは正直マズイ。
実際そこを起点に何やらスパークが走っており、それは徐々に棺桶本体に向かっている。
「お、おい、これ、ヤバくないか?」
「た、多分」
何が起きるか解らない恐怖を抱いていると、棺桶はフチの部分からスチームを噴射。
重々しい金属音を響かせながらロックが解除され、アーシャの身長以上に大きな棺桶の扉は一気に解放され、緑色の液体と共に中身がアーシャ達へと降りかかる。
「な、何だぁぁ!?」
「ウミャアア!?」
驚いた拍子と中身がもたれかかった事で、アーシャは情けなく尻餅をつき、緑色の液体を全身に浴びてしまう。
「グエ!」
そんな変な声を出しつつ、アーシャはずぶ濡れになったヘルメットのバイザーをあげ、自分の胸に飛び込んで来た物を視認して目を見開いた。
長く青い髪を持ち、サーバルよりも身長の低い一糸まとわぬ姿の少女がアーシャの胸の上でスヤスヤと寝ていたのだ。
「……な、何だ?このガキ」
「か、棺桶の中身、だな?」
同じくずぶ濡れのサーバルは、規則正しい呼吸と共に眠る少女へショットガンを向けた。
一応生きているようだが、寝ているフリをしているのではないかと警戒しながら銃口で軽く突く。
「ん、ん……」
「寝てるだけ、か?」
「ねぇ、それよりさ……」
「あ、わりぃ、大丈夫か?」
アーシャの方ばかりに気を取られて忘れていたが、すぐ近くにいたケフュレスも緑色の液体を被っていたらしい
しかも彼女は目標を識別できる物を採取していたので、完全に無防備だった。
そのせいなのか、滅多に怒らない彼女も体を小刻みに震わせてしまっている。
「もう!アーシャちゃん!子供嫌いとか言いながら何それ!?すぐに私と替わりなさぁい!!」
「いやそっちかい!!」
「うるさい!うるさい!全裸のロリに抱き着かれるとか全人類の夢その物でしょうが!!」
「テメェの中の人類全員ロリコンなのかよ!!?」
「第一私だって好きでこんな状況になってるんじゃないんだよ!こっちとしてはどうぞ替わってくださいだ!!」
「ん、んー?」
等と騒がしいやり取りのせいか、青髪の少女は目をゆっくりと開けた。
うるさかったのか、単純に目を覚ましたのかは定かではない。
とにかく少女は目覚め、自分の事を抱きしめているアーシャの事をサファイアブルーの瞳に収める。
「あ」
「ん?って、目ぇ覚ましたのか、おら、歩けるならさっさと退きな、怪我すんぞ」
「汚す!?今汚すって言った!?幼気なロリを!?うらやm」
「黙ってろ!変態エルフが!!」
「ありがとうございます!!」
変態発言に対して頭に来たサーバルは、左腕のブレードでケフュレスを切り裂いた。
何故か恍惚な笑みを浮かべながら流血して倒れ、そのまま床にぶっ倒れた。
とりあえずこれで死ぬ変態ではないと放置していると、いつの間にか青髪の少女はアーシャの顔を両手で包んでいた。
「……な、なんだよ」
「……」
アーシャを数秒間見つめる青髪の少女は、軽く笑みを浮かべた。
そして、ようやく口を開く。
「お待ちしておりました、我が主」
「は?」
「ん」
「ングッ!?」
「あ!」
意味不明な事を呟いた青髪の少女は、アーシャと唇を重ねた。
それもただのキスでは無く、相手の口内に舌を入れるというディープな物を行い、アーシャの唾液を自らの体内へと取り込んでいく。
「ん、ゴク……契約、完了です」
「……は?」
また意味不明な事を言い出すと、少女の首にキキョウの花をモチーフにした造花を付けたチョーカーが出現。
見た限りでは魔法による拘束術式がチョーカーに込められており、本当に何かの契約が完了してしまったらしい。
完全に置いて行かれているアーシャ達をしり目に、少女は立ち上がり、数歩下がると跪いく。
「私は、G7-666、先代マスターからの最終命令に基づき、貴女に付き従う物です、どうぞ、なんなりとご命令をお申し付けください、マイマスター」
「アーシャちゃ~ん?」
「待て、マジで頭ついて行けてないからお前は黙ってろ」
ただでさえ青髪少女のセリフにこんがらがっていると、復活したケフュレスは武装を全て展開していた。
見た限りでは安全装置も外しており、指を少し動かしただけで銃砲の雨が降り注ぐ。
だが今は彼女に構っている場合ではないのに、そんな事はお構いなしとケフュレスは今の感情を爆発させてしまう。
「黙ってろって何!?青髪ロリが付き従ってくれる何て全人類の業を背負っておいてさ!アーシャちゃんさっきから羨ましすぎ!!」
「別に嬉しくないわ!こっちは勝手にマスター登録がどうのとか言われていい迷惑なんだよ!つーかテメェの中の人類どんな業持ってんだよ!?」
「そんなに言うんなら、テメェが解除したらどうなんだ?お前こういうの得意だろ?」
「ああそうだ!サーバルの言う通りだ!お前が解除すれば全部丸く収まるだろ!!」
「……」
二人の説得を受けたケフュレスは武装を解除し、不満そうに少女の前でしゃがみ込む。
「もう、解ったよ、どれどれ?」
「ッ」
「大丈夫、お姉さんは悪い人じゃないよ、貴女のマスターの大事な人」
「は、はぁ……」
「おい、勝手な事言ってないでさっさと解呪しろよ」
「はいはい」
やる気の感じられない返事と共に、ケフュレスは少女のチョーカーに手を置く。
これでも彼女はエルフの端くれ、魔法に関する技術には精通しており、こう言った魔法のあれこれはケフュレスの役目なのだが、そんな彼女で表情を曇らせる。
「……あ、無理だこれ」
「は!?お前そう言うの得意だろ!?」
「そうだけど……さっきアーシャちゃん唾液を取り込んでたみたいだし、そう言う発動条件と、この複雑な感じ……これ最上級の奴だね、専用の鍵が無いと、私でも無理」
「な、なん、だと」
とんでもない発言に絶望し、アーシャは膝から崩れ落ちてしまった。




