ヴェイザーの流儀 前編
ケフュレスが厨房へと連行されてしばらくして。
アーシャ達は同じ目に遭わないように食事は完食し、食堂を後にしていた。
「(ふぅ、姐さんは怖いが、味は本当に良いんだよな)」
一般隊員の倍以上を平らげたアーシャは、満足そうにお腹をさする。
この艦での数少ない楽しみに、表情を緩ませながら。
「美味かったか?姐さんの料理は」
「……」
そして、未だに一緒に居るオセロットは、少しポッコリしたお腹をさするフィリアへ話しかけていた。
「あ、はい、食事でここまで満足したのは初めてです」
「そいつは良かった、姐さんも料理人冥利につきるだろうな」
「それなら良かったです……それで、結局、あの人置いて来て良かったんですか?」
「あー、自業自得だ、放っておけばいい」
「……はい」
「(姐さんの飯残してどっか行こうとしたからな)」
背後で話すオセロットの言葉に頷いていると、フィリアが話しかけて来る。
「ご機嫌ですね、マスター」
「……まぁな」
「飯の時だけご機嫌なんだよ、コイツは」
「そうなんですね」
全く弾まない会話の間をサーバルが取り持ってくれるも、結局はすぐに終わってしまう。
この空気に耐えかねたサーバルは、深くため息をついてしまう。
「はぁ、お前らなぁ、これから仲良くしようって間柄なんだからよ、もうちょっと馴れ合ったらどうなんだ?戦いにも影響が出るぞ」
「仲良く、ね……」
サーバルの叱責を受けて、アーシャは視線をゆっくりフィリアの方へ向けた。
先ほどまでは普通の少女と錯覚していたが、サーバルの言葉で彼女は強化人間であると思い出す。
「(子供は嫌いだ、銃をぶっ放すなら、なおさら)」
戦う意思と力があるのであれば、どんな種族であろうと関係なく入隊できる。
それがヴェイザーのやり方ではあるものの、やはり未だにフィリアに対する嫌悪感は消えない。
それでも、フィリアの持つ力には同じ位の魅力を感じている。
「そうだな、利用するなら、それも必要だ」
「たく、どうしてお前はそんなに」
サーバルが修正の一発でも入れようと指を鳴らした時、艦内に非常ベルが鳴り響く。
「ッ、何だ!?」
「警報!?」
耳を貫きそうな位うるさい警報に、緩んでいたアーシャ達の表情は強張り、フィリアは反射的にアーマーを展開。
間髪入れる事も無く、この艦のオペレーターの一人のアナウンスが始まる。
『ベルガスシティからの緊急要請!アズカニダインダストリーの強襲艦隊を確認!戦闘部隊は直ちに出撃準備をお願いします!!』
「へ、ようやく来やがった!ヒャッフォウ!」
軽くジャンプして喜ぶレッドは、真っ先に格納庫へと向かう。
これから戦いだというのにやたらテンションの高い彼の姿に、フィリアは表情をひきつらせた。
「……ひ、ヒャッフォウって」
「ただのバカってだけだ、戦闘を何よりの楽しみにしてる」
「それもそれで怖いんですけど」
他の変態達とはまた違うベクトルの恐怖に、フィリアは冷や汗を垂らした。
そんな彼女を置いて行くように、状況は動く。
「元気な奴だ、行くぞ!」
「おう!」
猛ダッシュで移動するレッドを追うように、同じ部隊のオセロット達も彼の後を追う。
残されたアーシャも、戦闘班の一員として参戦しようと行動を開始する。
「私らも行くぞ」
「けど、ケフュレスが居ないぞ」
「狙撃なら大丈夫だ、フィリア、次も役に立ってもらうぞ(子供に背中を預けるのは正直癪だけどな)」
「え、あ、はい!」
早めに脚を動かすアーシャとサーバルに続き、フィリアも二人の後を追いかけ始める。
その道中、アーマーを展開して並走するフィリアは話しかけて来る。
「あの、敵は強襲艦隊とのことですが、この艦はちゃんと戦えるんですよね?」
「いや、行くのは私達だけだ、この艦はコストが高くておいそれと戦えないからな」
「てか、俺らもこの艦がマトモに戦ってる所見た事無いし」
「そ、それ、粒子兵器無しで、だ、大丈夫なんですか?仮にも相手は艦艇ですよね?」
「……」
フィリアの疑問も当然の事。
粒子兵器も持っていない歩兵や起動兵器だけで、艦艇を相手にする。
かつてのアーシャでも、非常識でしかないとため息をついていた。
「(私も内部にさえ入り込めば壊せるが)」
自分で言っておきながら、アーシャは劣等感で心を痛めた。
アーシャ達スコールは、あくまでも展開している地上部隊が相手だ。
敵艦を相手にするのは、オセロット達ライトニングの役割。
それも中に入り込んでチマチマと、何て遠回りはしない。
「(アイツ等は、真正面から艦艇をぶっ壊す、私やサーバルの選択肢には無い)」
「あ、あの、マスター?」
「……まぁ見ておけ、艦隊相手だろうが、援護なしで叩き潰せるって所」
また劣等感で寝込まないかと不安になりながらも、アーシャは格納庫にたどり着く。




