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転生勇者が世界を救った300年後、荒廃した世界で傭兵少女は強化人間少女と出会う  作者: B・T
第一章 子供嫌いの巨人

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小さな浦島 前編

 終わりの見えない戦いの中。

 主人の望む通りに、自分の陣営が勝つために。

 感覚のマスキングで罪悪感を抑制し、時に銃弾として、ナイフとして、爆弾として、戦場を奔走する。


「(嫌な記憶だ、けど)」


 医療班の診察を受ける際にスリープモードに入っていたフィリアは、分厚い雲の中を泳ぐ気持ちで自分の記憶を探る。

 目覚め方の不備で安定していないが、関わった人間以外の事は復元を終えた。

 しかし、一人だけ記憶の隅を陣取っている。


「(……彼女は、一体)」


 何時も一緒にタッグを組み、先陣を切っていた戦友。

 記憶の中の彼女はフィリアの手を取り、微笑んで来る。


「あ……れい、じ」


 今にも消えてしまいそうな位、か細い声でつぶやいたフィリアは目を覚ます。

 時を合わせるようにして、フィリアの目にペンライトの光が指し込む。


「ッ」

「おお、目を覚ましたか」


 眩しさに驚き、向けられていたライトは離れる。

 上体を起こしたフィリアは、周辺を見渡す。


「(……状況の確認を開始)」


 衣服は病人用の物だろうか、薄い緑色の長袖と長ズボンが着用されている。

 座っているのは簡素なベッドで、カーテンによって四方は遮られている。

 近くには点滴の道具がセットされ、中身は今もフィリアの中へと流し込まれている。


「(……誰だ?このハゲ)」


 ついでに視界に入り込んで来たのは、薄めの頭を持った初老の男性。

 白衣に身を包む彼はフィリアを軽く診断しつつ、かけている丸い眼鏡を時折直す。


「ああ、私は、そうだな『ドク』とでも呼んでくれ」

「……ドク、さん?」

「そうだ、それと、君は六時間ほど寝ていてね、どうなったのか心配だったよ」

「……そう、ですか」

「それと、もう少し診察をさせて欲しい」

「(……そんなにも)」

「これで、貴重なデータが取れるな」


 情報を集める為に首にかけられる聴診器を耳に着用したドクの言葉を聞いて、フィリアは彼らの現状をある程度察した。


「(古い、何もかも、私が知っている世代より、最低でも二世代は)」

「すまないが、お腹を見せて欲しい」

「……はい(けど、これがマスター達の為になるのであれば)」


 病人服をめくりあげ、年相応の形状をしたお腹に聴診器を軽く当てられる。

 フィリアの時代であれば、専用のカプセルに入れておけば解る事だ。


「(この分だと、私を調整する技術も無いだろうな)」

「はい、息を吸って」

「……」

「吐いて」


 ドクにどれだけ医療知識と技術が有るかは不明だが、この診断で解る事が有るのであればと、フィリアは言う通りにする。


「はい、お終いだ……これが強化人間の皮膚か、本当に普通の人間と変わらないな」

「はい」


 診察は終了し、フィリアは服を戻す。

 医師は手持ちの端末にデータを入力してカルテの制作を開始すると、ドクは何かを思い出したかのように「あ」と漏らす。


「そうだ、君の目覚めは既にウチのコマンダーに送ってある、会って話がしたいという事だが、大丈夫か?」

「……マスターの、司令官、と言う事ですか?」

「マスター、ああ、アーシャ君の事か、そう認識してもらって構わない」

「では、私の方から伺います」

「いや、もう既に来ているらしい、彼からしてみれば、君は客人だからな」

「ですが」

「それに、そんなお堅い物じゃなくて、ちょっとした顔合わせ程度だ、気にする事は無い」

「……はい」


 ドクからの言葉に頷き、フィリアは自身の足に込めていた力を抜く。

 本来であれば向かう立場だというのに、フィリアは頭を悩ませてしまう。


「(……ん?杖の音?)」


 しばらく座っていると、フィリアの耳に二人分の足音が入り込む。

 ドクも音に気付いて立ち上がり、おもむろにカーテンを開けて敬礼を送った。

 彼に合わせるためにも、フィリアは今度こそ立ち上がって姿勢を正す。


「……ご苦労だったな、ソイツが、話に聞く強化人間か?」

「そうだ、ただ、アーシャ君の流れ弾で記憶領域に不備があるようだ、あまりキツく当たらないでくれよ、コマンダー」

「……そのつもりだ」


 フィリアの目にも映るのは士官用と思われる軍服に身を纏い、杖を突く白髪の初老の男性。

 ドクの接し方がやや気になりはするものの、発言内容からして彼がこの傭兵団をまとめる司令官と言うのは解った。

 だが、彼よりも気にしてしまう人物が一人。

 恐らく司令官の護衛と思われる人物へ、フィリアの意識は持っていかれる。


「(あ、赤鬼族)」


 コマンダーの近くで腕を組みながら、ただならぬ威圧感を出す男性。


 赤みのかかった肌と額の二本の角を特徴とする、赤鬼族と呼ばれる種族。

 フィリアも何度か遭遇し、討ち取った経験はある。

 だが、本能と直感がずっと警戒アラートを響き渡らせている。


「(……コイツ、ヤバい)」


 初めてと思える位明確な恐怖が、フィリアを襲う。

 今はすぐにでもアーマーを展開して、この部屋から逃げ出したくなる。

 恐怖で体を小刻みに震わせながらも、錆びついた人形のように体を動かし、歪な敬礼を完成させる。


「は、はじめ、まし、て」

「……ああ、さて、話をしようか、だが、その前にレイブン」

「何だ?」

「……悪いが、お前は外に出ていてくれ、彼女が怯えてしまっている」

「……な、何故だ?」

「……顔だろ」

「……」


 司令官に顔の怖さを指摘された大男は、影の落ちる自分の顔に手を置いた。

 確かにフィリアから見ても怖い顔立ちなのだが、切創や火傷の痕が怖さを際立てている。


「そ、そんな事無いと思うぞ、確かに訓練中の部下には厳しく当たるが、子供には子供に対しての」

「……お前がそう思っていても、本人が怖がっては意味がない、そもそも笑みの一つも滅多に見せないだろう」

「わ、わかった、笑えばいいんだろ?」


 前に座り込んだ大男と目を合わせるフィリアは、肩から力を抜く。


「へ、へへ」

「ヒッ!」


 カプセルから解き放たれて以来、基本無表情に近い顔をして来た筈のフィリア。

 彼女は、この時初めて表情を恐怖一色に染め上げた。

 大男の浮かべた笑みは、子供へ向ける朗らかな物では無い。

 ナイフのように鋭い目を向けられ、反射的にアーマーを展開する。


「……」

「あわ、あわ」


 しかも驚きで腰が抜け、心臓もとんでもない速度で収縮を繰り返し、汗もどんどんにじみ出ている。

 感覚のマスキングにはアーマーを展開してから数秒かかるので、その間言いしれぬ恐怖に襲われた。

 今までに無い位の危険信号で、目を涙で軽く濡らすフィリアの前で大男は顔を俯かせる。


「……すまん」


 一言呟き、大男は退出して行った。

 虚しく閉まった病室の扉によって冷静さを取り戻したフィリアは、アーマーを解除。

 すぐに立ち上がるなり、自分の過ちに対しコマンダーへと頭を下げた。


「……そ、その、すみません、ご、護衛の方を、傷つけてしまって」

「……ああ、話の後で、本人に謝るといい」

「は、はい」

「……さて」


 パイプ椅子を持って来た司令官は杖で体を支えるように座り込み、ベッドを指さす。


「……座れ」

「はい」


 真剣な表情の司令官の指示でフィリアはベッドへと座り、改めて司令官と目を合わせる。


「……さて、先ずはお前の事を教えてもらおう」






本日も続きを二本投稿します。

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