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転生勇者が世界を救って300年、世界は荒廃しました  作者: B・T
第一章 子供嫌いの巨人

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悪夢 中編

 アーシャが仮眠を初めてしばらくして。

 時計の針達は目覚ましをセットした時間を目指してチクタクと動き続けている時計の傍らで、すやすやと眠るアーシャの身体は徐々に汗が溢れ出してくる。

 表情も苦しみを帯びていき、鼓動も走った後であるかのように早くなっていく。


「はぁ!はぁ!はぁ!」


 次第に呼吸も荒くなり、身体も暴れるように動きだす。

 おかげで折角のお昼寝は中断され、アーシャはベッドから転げ落ちる。

 衝撃と痛みで完全に目を覚ますなり、異常な吐き気に襲われてしまう。


「グ、ウッ!!」

「ん?」


 手で口元を覆い隠しながら立ち上がると、ドタドタとトイレへと駆けこんでいく。

 その姿を見ていたケフュレスは、眉をひそめながら手にしていた本に目を落としつつ携帯に手を伸ばす。

 彼女の事を気にも止める事無く個室へ入ったアーシャは、間髪入れず便器に顔を突っ込む。


「オエッ!オエッ!!」


 何とも苦しそうな声と共に、トイレへと胃の内容物を吐き出した。


「(クソ!クソ!クソ!何で今になって、クソ!)」


 吐いたおかげで一旦は落ち着き、こうなった原因を想起しながら拳を力強く握り締めだす。

 身体と感覚に伝わって来たのは、異臭、痛み、恐怖、吐き気、その中に有る僅かな不快感を帯びた快楽。

 感じたくも無い感覚が全て思い出され、それが身体の震えとなり、動悸を引き起こし、こうして異常な吐き気に見舞われていた。


「……クソ」


 苦しさに伴って襲い掛かって来る哀しみで、汗だけでなく涙まで雨のように流れ落ちる。

 植え付けられた二つのトラウマの内一つが想起された事で、連なるもう一つのトラウマが掘り起こされた。


「(奪われた、八つの時に、家族も、友人も、純潔も、尊厳も、全部……)」


 まだ小刻みに震えるアーシャの頭は、勝手に当時の事をフラッシュバックさせる。

 燃える故郷の村、目の前で撃ち殺された両親、捕まった同い年の友人や他の村人たち、そして、その先に待っていた地獄。

 その地獄で、全てを失ったと絶望していた所に、持っていると自覚すらしていなかった大切な物さえ奪われると言う追い打ちをかけられた。

 心身は徹底的に汚しつくされ、もう止めて欲しいと何度も懇願した。

 だが、返って来る言葉は『止めてやるよ、テメェが死んで使い物にならなくなったらな』アーシャ以外にも叩きつけられていた言葉でも有り、耳と頭にしっかり焼き付いてしまった。


「……もう二度と、奪われてたまるか、次に奪われるのは、お前らだ」


 全てを奪った元凶の顔を思い浮かべるアーシャはトイレを流し、吹き出た物で汚れる顔を清める為に、よろける身体を支えながら鏡へと目を向けた。


「……」


 ゲッソリとしたゾンビのような死に顔と呼べる、嫌な顔が自らの目に入り込み、今にも死にそうな顔は自分の物であると嫌でも自覚させて来る。

 まだ身体は小刻みに震えており、魔力切れの疲労が収まっていない事も有って、もう倒れてしまいそうだった。

 そんな状態から少しでも回復する為に、震える手で蛇口をひねり、出て来た水を顔へと叩きつけ、口の中の不快な酸味も吐き出す。


「……気にくわないが、あのガキは使える、せめて、私の目的のために、役に立ってもらうか」


 タオルで顔を拭き終えた事で、ある程度感情は落ち着きを取り戻す。

 バランスは不安定だが、もう少し眠る事ができれば回復しそうだった。


「(また寝るか?いや、寝たら、また嫌な夢が)」


 だが、こんな状態寝たらどうなるのか経験済み、また同じような夢に悩まされて悪夢に叩き起こされてしまう。

 ここ最近はセラピーのおかげで悪夢を見る事は無く、せいぜい不眠に悩まされる程度だった。

 そのセラピーを行える人物は乗船しているので、いっそ彼女に頼ろうかとも考えた。


「はぁ……ッ!!?」


 ため息交じりにドアを開けようとした瞬間、謎の炸裂音と揺れがアーシャの耳に入り込んだ。

 驚きでノブから手をひっこめたが、緊急事態である事をかんがみて勢いよく扉を開ける。


「どうした!?」

「……」

「……アーシャか、その拳ひっこめろ、何時もの事だ」

「あー、そうみたいだな」


 いつの間にか起きて銃を構えていたサーバルに言われるまでも無く、アーシャは現状を把握した。

 先ほどまで居なかった筈の女性が、また壁にめり込んだケフュレスへと手を伸ばしている。

 これだけで何が有ったか解る程のケフュレスの手癖の悪さには反吐が出るが、それはそれとしてアーシャは正当防衛を行った女性に目を向けた。


「……その、なんか、悪いな、フェルメーラ」

「別に貴女は悪くないわよ、貴女が来る前からコイツはこんな感じなんだから」

「けど、常に欲情してるエルフ何てお前らサキュバスには都合いいんじゃないのか?」

「そんな訳ないでしょ、コイツの場合ドカドカ来るから胃もたれするわよ」


 いわゆるミニスカナースのような恰好をしている褐色肌の女性フェルメーラは、コードのように細く長い尻尾を揺らし、背中のコウモリのような羽を羽ばたかせる。

 サキュバスである彼女はこの艦でメディックを務めており、往診が必要な患者でも居ない限りこの部屋に来る事は無い。

 そして、彼女が担当しているのは夢に関する診療だ。


「まぁでも、あれでも貴女の事心配してたのよ」

「私を?」

「ええ、あの子が私に通報してくれたのよ、また悪夢に苦しんでるって」

「(ありがたいが……むしろ通報される側だろ、アイツ)」


 何故この部屋にきたのか述べたフェルメーラは、アーシャのベッドを軽く数回叩く。

 寝てくれと言わんばかりの態度に従ってベッドに寝ころんだアーシャは目を閉じ、今は彼女に全てをゆだねる事にする。


「さて、貴女の悪夢、また食べさせてもらうわ」

「こっちはまた飯抜きだ」

「……催眠魔法、ドリームセンド」


 寝そべるアーシャはフェルメーラの魔力の光に包まれ、強制的に夢の中へ送り込む魔法をかけられた。

 速球にとんでもない眠気に襲われたアーシャは気絶するように意識を手放し、夢の中へと送り込まれる。


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