魔法 後編
突如始まったケフュレスの魔法レッスンを受け入れるアーシャは、再度包み込むような手の中へ再度魔力を集中させていた。
「……く、うう」
「はいはい、そこで力入れない、もっとリラックス」
「……だ!」
「……」
レクチャーを受けていても、やはりアーシャの形成していた光の玉は霧散した。
開始して一時間経過したというのに、未だに成功していない。
その事実に困った表情を浮かべてしまうケフュレスは、改めてレクチャー方法を考える。
「クソ、何で上手く行かないんだ」
「うーん、何て言うかねー、念じるっていうか、願い?うん、願う感じかな?」
「……感覚肌が」
「あーねー……」
ケフュレスは感覚で複雑な操作を感覚で行っている事も有って、教え方が抽象的すぎて上手く呑み込めていない。
それを指摘され、ケフュレスは改めて教え方を考える。
「そだねー……じゃぁ視点を変えて、こっちの方に目を向けよっか」
アーシャが必死に作ろうとしていた球体を軽々と片手で作ったケフュレスは、その球体をあえて霧散させた。
しかし、アーシャの時とは異なり、光は消える事無くケフュレスの手の平の上で輝き続けている。
その光の正体は、アーシャが入隊する際の講習で聞かされている。
「……パーティクル粒子、転生してきた勇者が見つけたって話だな、確か、メイジギアなんかの制御にも使われてる」
「そ、因みに勇者の元居た世界の言葉で訳すと、粒子粒子になるみたい」
「それずっと気になってたが、何でそんな名前に?普通発見者の名前つけるだろ」
「私が聞いた話だと、自分の名前つけるのが恥ずかしかったとか」
「何でそんな事に?」
「まぁそれは置いといて、とにかく、魔法は魔力も大事だけどこっちも大事なの」
メイジギアやアーマードナイト、それらの制御にも用いられる特殊な粒子。
それは今ケフュレスの手の上で輝きを続け、そして彼女の思い通りに動き続ける。
もう一度集まったと思えば、形を変え、うごめき、まるで躾の行き届いた動物であるかのようにケフュレスに操られる。
「……相変わらず上手いな」
「脳波を帯びた魔力に反応して活性化する性質が有るから、二つが合わさる事で初めて魔法を実体化させられる、だからこそ、この粒子をどれだけ制御できるかが大事なの、そして、付与できる属性や扱える魔法は基本的にその脳波の性質に寄る所がある、私の場合は風とか、後は色々使える」
適当にもてあそんでいた光をもう一度集めると、光はケフュレスの思考に従って形質を変化させ、ただの光から優しいそよ風として二人の肌を撫でる。
回復魔法以外に彼女が使えるもう一つの属性魔法である風、それを軽く見せたケフュレスは説明を再開する。
「上手く操ればさっきのペットみたいに可愛く動くし、今みたいに優しい風も起こせるけど、指向性を利用して目標へ飛ばせる事もできる、そして、活性化した粒子は一定量を超えると爆発的に増殖を行う、その性質を利用して、爆発させたりできるし、メイジギアやアーマードナイトは大気中に粒子を高濃度で蔓延させられる、そうすると、遠距離への通信を阻害して、誘導兵器も心もとなくする効果も有る」
「……それは解っている」
「頭でわかってるだけじゃダメ、心から解らないと……まぁでも、貴女に適性が有るのは種族単位で得意とされている身体強化、今練習している奴よりそっち伸ばした方が良いと思うけど?」
「……」
アドバイスを受けたアーシャだったが、目を逸らして黙り込んでしまう。
ケフュレスの言う通り、アーシャに一番適性が有るのは身体能力を水増しする魔法。
そのおかげで魔力を放出する以外の魔法、つまり気配の探知や力の抑え方、メイジギアの性能向上と言った面で彼女はかなり秀でている。
その気になれば遠距離への攻撃なんて、向上させたフィジカルでどうにでもなる。
だが、隣の芝生は青く見える、という言葉の通りなのか、他に魔法を扱える面々への憧れで遠距離攻撃魔法にお熱だ。
「……全く意固地なんだから、まぁ、炎とか風とかの適正は無くても、純粋な魔力を撃ちだす位の事はできる筈だしね、一緒にがんばろっか」
「ああ」
「だから、自分の魔力だけじゃなくて、この粒子たちも信じてあげて、それが、願いになり、貴女が求める力をもたらしてくれる」
「……求める力、か」
アーシャの願い。
それを一番よく知っているのは、この傭兵団の中で一番付き合いの長いケフュレス。
その事はアーシャ自身も認めており、なによりその願いを示したのはケフュレスだ。
彼女に改めて言われたアーシャは、右腕の火傷痕を軽く撫でる。
「……アイツ等を、必ず殺す、たとえどんな結果になっても、それを果たせる力を得られるなら」
「……私の持論だけど」
「何時も聞いてる、結果より過程だろ?」
「そ、復讐は一向に構わないし、私が教えた力も貴女の望む通りに使って良い、けど、その為に何でも投げ捨てた結果の先なんて、何も無いんだからね」
「……」
ケフュレスの座右の銘のような物、結果よりも過程、拾われた時からずっと言われているので耳にタコだ。
そして、それだけ一緒に居るせいなのか、アーシャへ重めの感情を抱くケフュレスは、腕の火傷痕を軽く撫でた。
「でもね、貴女が進む為にどれだけ大事な物を投げ捨てても、何が有っても、私は最後まで貴女の味方で居るから」
「……何で何時もそう言う?」
「貴女には生きて欲しいから、貴女に戦い方を教えたのも、魔法を教えたのも、誰かを傷つける為なんかじゃなくて、貴女の生存を望んだからなんだから」
「……そいつはどうも」
昔から何度も言われている事だが、一種のストックホルム症候群なのか、アーシャはケフュレスの事はそれなりに信用している。
今でも思い出せる、たった一人、拳銃とナイフだけで、地獄に居た悪魔共を殺し尽くしたケフュレスの姿を。
それ故に強さに憧れを抱くようになり、彼女やこの部隊の強者たちを追いかけるようになった。
色々と脱線してしまったが、とりあえず先ほどの事を実践してみる事にした。
「(脱線したけど、とりあえず)ん」
言われた事を実行している気になりながら、アーシャは魔力を集中させる。
魔力と共に、周辺の粒子もかき集めながら。
「……」
「そう、そう言う感じ、粒子を集めて集めて」
横からの言葉をちょっと鬱陶しく思いながらも、アーシャは意識を集中させていく。
すると、先ほど同様に光の玉が形成される。
しかも先ほどまでよりも形は確かな物となり、ケフュレスの物と同様に操るマネはできそうにないが、それでも先ほどよりはちゃんとしている。
「やった」
「うん!上手!上手!上手く行ってるよ!」
「……ふぅ」
「今の感覚を忘れないで、焦らず一歩ずつ前進して行こうね」
「……ああ」
ケフュレスのお墨付きを得られ、アーシャは口角を上げながら光を霧散させた。
今回ばかりは彼女のおかげで一歩進む事ができた事に変わりは無く、お礼を言おうとケフュレスの方へと向いた時。
「ありg」
「と言う訳で、お礼は貴女の身体って事で!!」
「チ!」
キス顔になりながら迫って来るケフュレスが目の前に居た。
彼女の事なので予想は容易かったが、まさかここまであからさまに来るとは思わず、アーシャは舌打ちをしながら彼女を受け止めてわき腹へ手を置き、先ほど覚えた基本の技を放つ。
「フン!」
「おぼ!」
威力は何時も殴るより低い物だったが、アバラの一本をへし折る事に成功。
激痛の走る患部を抑えるケフュレスはそのまま丸まり、床に額を押し付けながら苦しみだす。
「あのな!練習に付き合ってくれた事には感謝するが!それ位で私の身体を好きにできると思うな!いくら中古の安物とはいえな!」
「ふ、ふふふ、確かにね、でも、所詮は付け焼刃のにわか仕込み、この程度じゃ私は止まらないよ!!」
「チ!」
やはりダメージが低かったらしく、すぐに回復したケフュレスは服を全て脱ぎながらダイブ。
どこぞの大泥棒三世を彷彿とさせるポーズの彼女に対してアーシャは迎撃のスタンスを取り、今度は打撃による制圧を試みようとする。
「ニャガ!!」
「ッ!」
しかし、ケフュレスのわき腹に風の弾丸と呼べるような物が命中し、その余波と呼べる風がアーシャへと降り注ぐ。
横からの攻撃を受けた彼女は吹き飛び、壁に叩きつけられてそのままめり込んで制圧された。
身体の所々は向いてはいけない方向を向いているが、今はそれを置いておき、乱れた髪を直すアーシャは発射ポイントへ目を向ける。
「……ウイングショット、か」
「……うみゃ、うるせぇんだよ、人が寝てんだから静かにしろ、ふぁ、あ~」
先の魔法を撃ったのは寝ていた筈のサーバル、寝起きと言う不安定な状態でありながら本来かなりの殺傷能力を持つ魔法を非殺傷攻撃にまで抑えて放ったらしい。
文句と攻撃を終えたサーバルはベッドに備え付けられているカーテンを閉じ、再び眠りについた。
だが、アーシャの内心は穏やかでは無かった。
「クソ!」
白目をむきながら壁から落下していくケフュレスを無視しつつ、アーシャは魔法の練習を再開させた。




