魔法 前編
食事も終えたアーシャ達は、一旦彼女達の司令官であるコマンダーへ直接事の経緯を報告。
翌日までは身体を休める為に半ば非番のような物を与えられ、シャワーを浴びて部屋へと戻っていた。
彼女達に宿舎として与えられているのは、十二畳程の広さの部屋。
壁には三個の二段ベッドが埋め込まれ、真ん中には大きめのテーブルと人数分の椅子が置かれており、後は私物等を入れるロッカーが幾つか置かれ、多目的の用途を持つモニターが一つに、最低限の家電が置かれている。
三人で生活するには狭いが、本来は六人で生活する部屋なのでまだマシな方だ。
「はぁ、やっと休める」
シャワー上りで火照る身体を解すアーシャは、自分の使用しているベッドに腰掛けた。
タンクトップに短パンと言う何時もの部屋着姿の彼女は、今朝被った心身の疲労を癒していく。
ベッドはカプセルホテル並に広いが、最近大きくなった身長のせいで少し前のめりの姿勢となってしまう、けれどシート状にしたメイジギアに座っているよりは心地は良い。
だがシャワーだけでは汗と汚れを落とせても、精神的な疲れと胸の重さは落とせずに気分は沈んだままだった。
「(とは言え、気が重いな)」
「そうだねぇ、やっと一息付けるよ~」
「(また面倒なのが来たし)」
折角くつろいでいた所に、やたらと透けた服を着たケフュレスがもたれかかって来た。
二の腕辺りに頭を乗せられ、太ももに置かれた手はイヤらしくスリスリさせて、鳥肌が立つ位不快な感覚を与えて来る。
本人は楽しんでいるようだが、アーシャからしてみればセクハラでしかない。
「……やめろ、疲れる」
「もー、そんな落ち込まないで、コマンダーにあの子のお世話頼まれたからって」
「……」
ずっと疲れた様子のままで居る原因は、報告の際にフィリアの世話も頼まれたというのも有る。
そんな重荷を背負わされたせいで、シャワーでサッパリしてもリフレッシュした感は薄い。
プレッシャーやらのせいで気分が重いというのに、そこにケフュレスの体重までのしかかって物理的にも重い。
「はぁ、疲れる」
「……あはは!」
「ッ!」
重たいため息を吐いたと共に、のしかかっていた重みは増してアーシャはベッドに倒れ、ケフュレスはその上に跨ってマウントを取る。
おかげで、アーシャの目には艶の有る色にホホを染めるケフュレスに見下ろされるという不快な状況が出来上がった。
「……何だよ」
「ふふ、気づけば、こんなエッチな体になっちゃって、タイタンの寿命はヒュームよりちょっと長い程度だもんね、変化も成長も早いよ」
舌なめずりをするケフュレスは、今のアーシャを舐めるように観察する。
全体的に鍛えてはいるものの、やはり全体的にムチムチとグラマーな肉付きだ。
何とも性欲をそそる身体ではあるものの、所々痛々しい古傷が散見されており、中でも右腕前腕部の大きな火傷痕が目につく。
いずれもヴェイザーに入る前に刻まれた物で、今でも消える様子が無い。
そんな傷痕何て気にしていないかのように、ケフュレスはアーシャの身体のあちらこちらを軽くさする。
「……でもやっぱり、ちょっと食べすぎじゃない?鍛えてるはずなのに、所々モチモチしてるよ?」
「うっさい、腹が減るんだよ」
アーシャの身体の燃費はかなり悪く、一日に食べる量はかなり多い。
そのせいなのか軍人の一人として厳しい訓練を続けている筈なのに、ケフュレスの手は少し柔らかい感触を感じ取る。
一見すれば引き締まっているというのに、食べすぎの影響なのか抱き心地の良い仕上がりとなっている。
「でも、おかげでこんなに立派に成長したもんね、色々と……」
胸だのなんだのと言った箇所を触るケフュレスは、アーシャの目からでは解らない位薄っすらと目を開けた。
「(相変わらず、能面みたい)」
薄目のケフュレスが捉えるアーシャの顔は、全く持って変化していなかった。
通常これ位すれば、羞恥でホホが赤くするなり、多少なり鼓動が早まるなど、何かしら反射的な恥じらいが起こる筈だ。
だが、アーシャの顔は不快感ばかりを募らせるだけで、羞恥に関係する感情は一切読み取れない。
「(やっぱり羞恥関連の感情が欠落してる、刺激を続ければ多少は回復するかと思ってたけど、簡単にはいかないか)」
「やめろっての、こっちは嫌な事有り過ぎて疲れてんだよ」
「(でも、私はこの子の事を求めてしまう、たとえどう思われようと)」
静止に聞く耳を持たないケフュレスは薄目を止めると、アーシャの身体の各所をまさぐり、柔らかな部分を堪能し始める。
しかもそれらを包むのは、成長に置いて行かれて腹部が丸出しになるタンクトップと、ふとももが半分以上出ている短パン、おかげでケフュレスの性欲は刺激される。
「グヘヘ、大丈夫、疲れも嫌な事も、私が何でも、ぜぇんぶ、落としてぇ、あ・げ・るッ!!」
「……じゃ、テメェの意識落としとくわ」
手を出そうとしたケフュレスは下アゴにアーシャの一撃を受けてしまい、そのまま白目をむいて気絶。
変態の事を放置するアーシャはベッドを抜け、部屋の中央にポツンと置かれる椅子へと座る。
ベッド程のクッション性は無いが、床に座るよりはマシな椅子で今度こそリラックスしようとする。
「はぁ……てか、アイツは寝てるし」
腰を下ろしたアーシャの目に最初に映って来たのは、上の段のベッドで猫のような姿勢で寝るサーバルの姿。
獣人の中でも猫に近い生体と体質を持っている描人である彼女はどの種族と比較しても長めの睡眠時間を必要としているとは言え、入室から一分も経たずに寝ているのには驚く。
そんな彼女を尻目にしながら、アーシャは何かを包み込むように両手を前に出し、表情を強張らせた。
「(……とりあえず、日課のコイツでもやるか)」
意識を手の平へと集中させ、体内に巡る魔力をかき集める。
すると砂粒のように小さな黄色い光が収束していき、ピンポン玉サイズの玉が形成される。
「……ぐ」
しかし玉は徐々に形成が崩れていき、それを防ぎ止めるように力を入れても結局は霧散して行ってしまう。
遠距離攻撃魔法を使う上での基礎の練習だが、今まで一度も上手く行った事は無い。
この現実を再び前にし、アーシャはあからさまに落ち込んでしまう。
「はぁ……まだダメか」
本来であれば集めた魔力を撃ちだす事ができるのだが、アーシャはまだそこまで行けていない。
だが、その他の精鋭部隊のメンバーはこの最低限の事は出来る。
精鋭のスコールに入れたのは持ち前の馬鹿力と頭の回転だけで成り上がったような物で、魔法の面に関してはその辺の一般兵、というより一般人にも劣る可能性がある。
理想の威力としてはフィリアのライフルレベルに今日更新され、技術の理想像としては昔から身近に有る。
「全く、何時も言ってるでしょ?貴女は力が入り過ぎなの」
「ッ(相変わらず復活が早いな)」
練習を継続しようとした所で、復活したケフュレスが先ほど殴った個所に手を当てながら話しかけてきた。
しかも触っている手からはアーシャが自分の手に集めていた光とはまた違う色の光が灯っており、真っ赤に腫れていた筈の顔は徐々に治って行く。
復活の早さは持ち前のタフネスも有るが、一番の理由はこの部隊で一番の魔法の使い手であるという事だ。
その力を活かし、彼女は魔法の中で最も難易度の高いとされている回復魔法で傷を癒している。
アーシャの隣に置いた椅子に腰かけたケフュレスは目を開け、本来青い筈のエルフには似つかわしくない、鈍い銀色の瞳をアーシャへ見せつける。
「ほら、練習中はマジメモードに入ってあげるから、また教えてあげる」
「(……ヴェイザー随一の魔法使いにして、スコールの狙撃手兼ヒーラー、ケフュレス、か)」
ケフュレスの肩書と頼もしさを思い出しながら、今回ばかりは隣を許した。
本日はもう一話投稿します。




