魔法 前編
食事も終えたアーシャ達は、一旦彼女達の司令官であるコマンダーへ直接事の経緯を報告。
翌日まで非番のような物を与えられ、シャワーを浴びて部屋へと戻っていた。
彼女達に宿舎として与えられているのは、家具も充実した十二畳程の広さの部屋。
三人で生活するには狭いが、本来は六人で生活する部屋なのでまだマシな方だ。
「はぁ、やっと休める」
シャワー上りで火照る身体を解すアーシャは、自分の使用しているベッドに腰掛けた。
タンクトップに短パンと言う何時もの部屋着姿の彼女は、今朝被った心身の疲労を癒していく。
「(とは言え、気が重いな)」
「そうだねぇ、やっと一息付けるよ~」
「(また面倒なのが来たし)」
折角くつろいでいた所に、やたらと透けた服を着たケフュレスがもたれかかって来た。
二の腕辺りに頭を乗せられ、太ももに置かれた手で鳥肌が立つ位不快な感覚を与えて来る。
「……やめろ、疲れる」
「もー、そんな落ち込まないで、コマンダーにあの子のお世話頼まれたからって」
「(……思い出したくも無い事を)」
ずっと疲れた様子の原因は、報告の際にフィリアの世話も頼まれたというのも有る。
プレッシャーやらのせいで気分が重いというのに、そこにケフュレスの体重までのしかかって物理的にも重い。
「はぁ(アイツには色々聞きたい事も有るが、やっぱ関わりたくないな)」
「……あはは!」
「ッ!」
重たいため息を吐いたと共に、アーシャはケフュレスに押し倒される。
おかげで、アーシャの目には艶の有る色にホホを染めるケフュレスに見下ろされるという状況が出来上がった。
「……何だよ」
「ふふ、気づけば、こんなエッチな体になっちゃって、タイタンの寿命はヒュームよりちょっと長い程度だもんね、変化も成長も早いよ」
舌なめずりをするケフュレスは、今のアーシャを舐めるように観察する。
入隊以前に刻まれた、痛々しい傷の数々。
特に目を引くのは、右腕の火傷痕だ。
「……でもちょっと食べすぎじゃない?鍛えてるはずなのに、所々モチモチしてるよ?」
「うっさい、腹が減るんだよ(特に身体強化魔法使うと)」
「まだまだ未熟って事だよ、身体強化魔法は効率悪いと食事量増えるからね」
アーシャの使用する身体強化魔法の燃費は悪く、その影響も有って一日に食べる量はかなり多い。
「でも、そのおかげかな?(……魔力の流れが乱れてる、格納庫で動揺させすぎたか?)」
ケフュレスは、アーシャの目からでは解らない位薄っすらと目を開けた。
アーシャの顔は、全く持って変化していない。
通常これ位すれば、何かしら反射的な恥じらいが起こる筈だ。
「(やっぱり、奴隷時代の影響かな?簡単にはいかないか、これじゃ魔法の出も悪くなる訳だよ)」
「やめろっての」
静止に聞く耳を持たないケフュレスは薄目を止め、下品な笑みを浮かべる。
「グヘヘ、大丈夫、疲れも嫌な事も、私が何でも、ぜぇんぶ、落としてぇ、あ・げ・るッ!!」
「……じゃ、テメェの意識落としとくわ」
手を出そうとしたケフュレスは下アゴにアーシャの一撃を受けてしまい、そのまま白目をむいて気絶。
変態の事を放置するアーシャはベッドを抜け、部屋の中央にポツンと置かれる椅子へと座る。
「はぁ……てか、アイツは寝てるし」
腰を下ろしたアーシャの目に最初に映って来たのは、上の段のベッドで猫のような姿勢で寝るサーバルの姿。
彼女を尻目に、アーシャは何かを包み込むように両手を前に出し、表情を強張らせた。
「(……とりあえず、日課のコイツでもやるか)」
意識を手の平へと集中させ、体内に巡る魔力をかき集める。
すると砂粒のように小さな黄色い光が収束していき、ピンポン玉サイズの玉が形成。
ただし、形の方は酷く歪。
不安定な積み木のように、今にも崩れてしまいそうだ。
「……ぐ(強化人間はまだ不確かだが、こっちなら)」
形と存在を維持しようと尽力するも、玉は徐々に崩壊。
それを防ぎ止めようとするも、結局は霧散して行ってしまう。
遠距離攻撃魔法を使う上での基礎の練習だが、今まで一度も上手く行った事は無い。
この現実を再び前にし、アーシャはあからさまに落ち込んでしまう。
「はぁ……まだダメか(物理的な力だけじゃダメだ、距離を取られても銃より効果的な攻撃を得ないと)」
本来であれば集めた魔力を撃ちだす事ができるのだが、アーシャはまだそこまで行けていない。
力と指揮能力だけで成り上がり、スコールの隊長という肩書を得た。
だが、所詮肩書は肩書。
先任の隊長とは、まだ比肩することさえおこがましい。
「(せめて、フィリアのライフル級の威力まで昇華できれば)」
「全く、何時も言ってるでしょ?貴女は力が入り過ぎなの」
「(相変わらず復活が早いな)」
練習を継続しようとした所で、復活したケフュレスが先ほど殴った個所に手を当てながら話しかけてきた。
しかも触っている手からは、アーシャが自分の手に集めていた光とはまた違う色の光が灯っている。
その光を当てられる真っ赤に腫れていた筈の顔は、徐々に治って行く。
アーシャの隣に置いた椅子に腰かけたケフュレスは目を開け、本来青い筈のエルフには似つかわしくない、鈍い銀色の瞳をアーシャへ見せつける。
「ほら、練習中はマジメモードに入ってあげるから、また教えてあげる」
「(……ヴェイザー随一の魔法使いにして、スコールの狙撃手兼ヒーラー、ケフュレス、か)」
ケフュレスの肩書と頼もしさを思い出しながら、今回ばかりは隣を許した。
これをチャンスと捉えたのか、ケフュレスは両手を広げる。
「ほら、おいで」
「……ああ」
目を明けている時はセクハラではない。
この法則を信じるアーシャは、ケフュレスに抱き着く。
「力を抜いて、意識を集中させて、深呼吸」
「……」
魔法では見て覚える、という物理的な教え方は難しい。
だからこそケフュレスの身体と密着し、直接魔力の操作方法を感じ取って覚える。
「ほら、私と同じように魔力を動かして」
「……」
「……そう、上手いよ、体内のそうさは、本当に上手い」
褒めてくれてはいるものの、ケフュレスの魔力の動きは非常に滑らか。
比べると、アーシャの魔力の動きはぎこちなさが目立つ。
いわゆる準備運動のような物を終え、ケフュレスは少し姿勢を変える。
アーシャを背にし、両手を前に突き出す。
「よーく、感じ取って」
「……ああ」
ケフュレスに言われた通り、彼女の魔力の流れを感じ取る。
スムーズに対外へ放出された魔力によって、光は集約。
アーシャの作った物よりも大きく、形も洗練された玉が出来上がる。
「……さ、実践してみて」
「……解った(簡単に言ってくれる)」
並びを逆にし、今度はケフュレスがアーシャの後ろに座る。
「行くぞ」
「うん」
先ほどのレッスンで、少し滑らかになった魔力を操作。
アーシャの手に、不安定ながらも、先ほどより綺麗な弾が形成されだす。
初めて崩れる心配の無い精度まで持っていく事ができた。
本日はもう一話投稿します。




