スコールチーム 前編
「(何故こんな事になった?)」
唇に潤いのある柔らかさを感じるアーシャの頭は、そればかりだった。
気づいたら、目前には流れるように長い青髪生やした全裸の少女が居る、と言うか、キスをされていた。
「(何で、私は、こんなガキとキスしてんだ!?)」
――――――
「私は、子供が嫌い……ッ!?……な、なんだ、夢か」
揺れ動くヘリの機内で目を覚ましたアーシャは、先ほど裸体の少女にキスをされていた事が夢で有った事を悟った。
現時刻は午前三時頃。
今回の任務は夜襲なので予め睡眠をとっていたというのに、何時もの不眠症のせいで上手く眠れず、居眠りをしていたらしい。
「(クソ、何でよりによってガキ何かとキス何て夢を……気を引き締めろ、任務に集中しろ、何時も通り仕事をこなせ)」
「どうしたの?居眠りなんかしちゃって、珍しいね」
「ん、ああ、ちょっとな」
改めて気合を入れなおしている所で、装着しているヘルメットの通信機から目の前に座るエルフの少女からの通信が入り込んだ。
このチームの古参メンバーのケフュレスは、首を傾げながら心配してくれると共に、何故アーシャが居眠りをしたのか察したのか、腕を組んで深めに座り込む。
「もう、だから私が添い寝して寝かしつけてあげるって言ったのに」
「テメェに添い寝される位なら永眠した方がマシだ」
「え~、そこまで言わなくてもいいじゃ~ん、それに、別に寝ちゃうのは恥ずかしい事じゃないよ~」
「……」
ケフュレスの視線はアーシャの右下へと移り、その方へと目を落とすと、もはや居眠りどころか爆睡している少女が目に映る。
椅子に座りながら眠る程度であればまだしも、床に寝そべってイビキまでかいている。
自分も居眠りしていた手前あまり強く出られないが、隊長の責任を果たすために軽く蹴り起こす。
「おいサーバル!」
「ウミャ!?」
「そろそろ降下ポイントだ、さっさと起きろ」
「ふぁ~、んだよ、もうかよ、後五時間くらい寝かせろ」
「ダメに決まってんだろ、猫人族だからって事で、お前私らより一時間長く寝てんだから」
「ケッ、ケチだな」
猫人族のサーバルは種族の特性上必要な睡眠時間が平均より長く、夜襲に備えた就寝もアーシャ達よりも長く設けられていたが、それでも足りなかったらしい。
叩き起こされて不機嫌になりなりながら席に座ついた彼女を確認すると、アーシャはヘルメットのディスプレイを機動させ、三人は戦術ネットワークを構築する。
「おし、もう一度作戦を確認するぞ、戦術ネットワークを構築、ブリーフィングを再確認する」
「はいは~い」
「はいよ」
二人の返事を聞いたアーシャは、今回の作戦に関する情報共有を開始。
彼女達のフルフェイスヘルメットの内側には、ターゲット本人の写真と、その人物の護衛部隊に関するデータが表示される。
「依頼主はお得意様の代表ウィルソン、ターゲットはアズカニダの幹部ロンリューと、その護衛部隊の排除だ、奴らは幾度となく依頼主の領内を侵犯しては嫌がらせを繰り返した結果、先日の全面抗争の末にロンリューは一部の護衛と共に逃走、ウィルソン達との共同捜索を行った結果、ようやく潜伏先を見つけた、我々が攻めるのはそこだ」
表示されるデータは、写真から映像に移行。
今飛んでいる砂漠地帯の岩々に紛れて潜伏する敵部隊の映像が流れるが、一目見ただけでは潜伏先と呼べるような場所は見当たらない。
それもその筈、この辺りはアーシャの依頼主であるウィルソンの領地であるが、彼も潜伏できるような場所が有るとは認知していなかった。
苦労の末に、この何も無いような場所に潜伏可能な旧時代の遺跡を発見したのだ。
「だが、今回は我々スコールチームのみの奇襲作戦だ、このヘリも備え付けのミニガン以外装備していないうえに、援軍も期待できないが、向こうは別だ、残り二時間ほどで敵の救援部隊が到着し、夜明けごろにターゲットは国境を超える、それまでにかたを付けるぞ!」
『押忍!』
二人の返事と共に、チーム全員はシートに変形させていた鎧を起動させた。
全身は装甲に包み込まれ、駆動系に火が入れられ、三人のもう一つの皮膚や筋肉としての役割を始め、出撃前に両肩に接続した武装も動作を始める。
それに伴い、機械的な音声がヘルメット内に木霊する。
『パーティクル制御オンライン、生体ファイバー、ニューラルリンク率正常値、ウェポンシステムアンロック、バトルシステム機動します』
「よし、メイジギア起動、起立!」
装着している鎧、メイジギアの起動を確認するなり、三人は立ち上がった。
両肩の武装が自分の思い通りに動く事を確認し、手持ち式の武器を手にしていく。
その最中で、輸送機のパイロットから通信が入る。
『モンスーンよりスコールへ、間もなく投下地点に到着する、ハッチ開けるぞ』
「了解」
輸送機のパイロットのセリフと共に、機体後方のハッチが解放。
気圧差で冷たい風が機内に入り込み、辺り一面砂だらけの光景が三人の目に映る。
「よし、降下するぞ!」
手に持った軽機関銃に弾帯と呼ばれる弾丸の連なるベルトを装填し、グレネードランチャーを担いだアーシャは戦闘態勢へ移行。
その横でもサーバルは愛用のショットガンをコッキングすると、左腕に格納されているブレードを伸ばし、再び格納して出撃準備完了をその身で表す。
しかし、ケフュレスは武器を持たずに右手をピンと上げる。
「質問!敵傭兵に女の子が居た場合!何人までお持ち帰りして良いですか!?」
「よぉし!行くぞ!」
「押忍!」
「はぁぁい!しつもぉぉん!五人くらいだったらお持ち帰りOKだよね!?」
「時間を合わせる!秒読み開始!」
「解った!三人!三人までにするから!」
気持ち悪い事をぬかすケフュレスの事は完全に無視し、アーシャとサーバルは予定通りの行動をとる。
作戦は時間との勝負であるため、タイムリミットを正確にするべくアーシャ達は時間をしっかりと計る。
「じゃぁ二人!二人でどう!?」
「だぁぁ!テメェは何時もうるせぇんだよ!!」
「ニュエッ!」
もう任務を妨害しているとしか思えなくなり、アーシャはグレネードランチャーでケフュレスの事を殴り飛ばした。
パワー自慢のアーシャの一撃で吹き飛ばされ、ケフュレスは開放されたハッチから落下。
「ちょ!待って!ゴメンて!だからライフル!せめて私のライフル取って!」
したように見えたが、ギリギリで踏ん張り、顔だけをひょっこりと出した。
「その口閉じねぇとタマ取るぞ!!」
「アジェッ!」
しかし、同じように怒っていたサーバルは、ケフュレス用の対物ライフルを顔面へ投擲。
衝撃で手を離してしまったケフュレスは一人だけ先に降下、というより落下していく。
その間に、アーシャは自分の役割を果たしていく。
「タイマースタート、今度こそ降下!」
「降下!」
情けなく落ちていくケフュレスとは異なり、二人はタイマーの時間を合わせた後で、正規の方法で降下。
訓練で染みこませた動きを行い、スラスターで減速しながら一面砂だらけの荒れ果てた大地へと足を付ける。
「(降下完了、砂上で動く為の魔法陣も機能しているな)」
足の裏に仕込んだ専用の魔法陣によって、砂に沈み込む事も無ければ、砂の流動で足を取られる事も無い。
その機能の確認を終えると共に、サーバルもアーシャの隣に立つ。
先に落ちていたケフュレスは頭から砂に突っ込んでもがいているが、もう彼女の事はノータッチ。
代わりに、アーシャは自分の胸程度の身長のサーバルへ視線を落とし、サーバルは自分より身長のあるアーシャを見上げた。
「(相変わらずデケェな、俺の方が一個年上だってのに)」
「(やっぱりいい動きだ、流石私の一個先輩だけある)」
「ムグー!ムグー!」
アイコンタクトを送り合った二人は加速し、一気に目標ポイントへの移動を開始。
先頭に立つポイントマンを一番早いサーバルが引き受け、その後ろにアーシャが続く。
波打つような高低差を持つ砂漠地帯のせいで遠方への視界は悪いが、サーバルは軽い坂道を昇り切ると共に大ジャンプを行う。
「(……成程)」
スラスターで数秒滑空するサーバルの目に、目標地点は数秒間映った。
種族柄夜目のきく彼女は砂漠地帯に溶け込むデザインの幕で隠れた兵器を認識し、まだ起動していない事も確認した。
彼女達の装備では滑空程度が限度である為、軽い偵察を済ませてすぐまた地に足を付けてホバー移動を再開する。
「どうだった!?」
「歩兵の数は情報通り!一個小隊がスリーマンセルで固まっている!後は移設型砲台四門!アーマードナイト二機だ!」
「了解!先行しろ!援護する!」
「任せろ!」
『はいは~い!』
ようやく復活したケフュレスの声が聞こえると共に、サーバルは一気に速度を上げた。
チームの中で最軽量である装備を活かし、限界まで前傾姿勢をとって猛獣のように敵陣へと切り込んでいく。
彼女の援護を行うべく、アーシャは左手のグレネードランチャーの安全装置を解除し、ヘルメットとリンクさせて照準をアシストさせつつ、引き金を引く。
本来なら両手で保持しなければ吹き飛ばされかねない反動を片手で受け止めつつ、弾倉に込めた全ての榴弾を発射。
彼女の砲撃に続くように、ケフュレスの装備であるミサイル群が降り注ぐ。
「弾着……今!!」
アーシャの言葉に合わせる様にして、砲撃の初弾が爆発。
そこからミサイルと榴弾の雨によって連鎖的な爆発が起こる所を確認し、アーシャは左肩の武装を起動させながら通信を入れる。
「私も前に出る!スコール3!援護射撃!」
『は~いっと!』
指示を終えると共に、左肩の特殊アームに繋げられている大型の盾を前方へ展開。
大盾の内側にグレネードランチャーを取り付けると、代わりに腰に下げていた手斧を装備する。
前方では既にサーバルが戦闘を開始しており、奇襲に気付いた敵部隊も応戦を始めている。
彼女への援護と攻撃を行うために、右手に保持する機関銃の掃射を行いながら接近していく。
「ぶっ壊す!」
その叫びと共に、アーシャは最も近い敵兵士へ向けて手斧を振り下ろした。
本日は続きを二本程投稿いたします




