第037話-9 競技大会中盤前半戦 12回戦目2
しかし、ついにジャイロディーンからの攻撃が始まった。
こちらの攻撃の合間を縫うように攻撃を仕掛けてきた。こちらは大半避けきれず、シールドバインダーで受ける事になった。ジャイロディーンより横にも大きいクサナギはなかなか避けにくい。
そうでなくても山肌が滑りやすい状態のためホバーリングしているが、細かい挙動での回避が難しい。
そろそろ本格的に攻撃を仕掛けてきそうだ。
こちらも回避に重点を置きつつ、要所要所で攻撃をするしかなくなった。
でも、その分ここぞというとタイミングを狙う。これまで数撃ちゃ当たる戦法で攻撃するよりは手応えがあった。掠める程度よりは深く傷を付けられるようになった。
だがまだまだだ。
徐々にジャイロディーンの攻撃が激しくなってきた。
クサナギの装甲が硬いため、ダメージ自体はまだほとんど受けてはいない。
しかし、衝撃を喰らい、斜面を滑り降ちた。
『くそぉ』
その後も何度もジャイロディーンとやり合ったが、俺の攻撃は未だダメージがあまり与えられず、相手の攻撃はダメージを受けずとも山肌をどんどん滑り落ちていった。
もう崖ギリギリまで来てしまう。……後がない。
もう1発食らうと落ちる。
ガキッ ガキッ ドガッ
ジャイロディーンからいいのをもらってしまい、滑っていく。脚部のピックを突きたて耐えようとしたが、ついには崖の端から飛び出てしまった…………
うわぁぁ……
クサナギが崖から落ちていく。
どうする?どうする?どうする?
絶望感に頭がいっぱいになり意識が遠くなりかけた時…………
『……オーバー…………クロッ……ク……フル…………ブー……スト…………』
ほぼ無意識の内に出たあるキーワードがクサナギを……、いやファントムを覚醒させた。
機体が金色の光を発し始め、勝手に姿勢を制御した。崖にあった小さな出っ張りに脚部を引っ掛け、ジャンプと同時に全バーニアを全開に吹かし、崖の上に一瞬で飛び上がる。
ジャイロディーンは崖から落ちていったクサナギに興味をなくしたのか、対戦終了の合図を待たず崖に背を向け山肌を登り始める。
背後で強烈な光が発しているのも知らず……
バシュッ
金色に光るクサナギが崖下から飛び上がってきた!
未だに気付かないジャイロディーンの背後から蹴りを食らわせる。
ズシャァァ
蹴りの威力だけで山肌を機体が滑り数十m登って行った。
崖ギリギリの所にクサナギが降り立ち、更にバーニアを吹かして加速しジャイロディーンに追撃をかける。
接近し機体を蹴り上げ、組んだ両腕で地面に叩きつけた。
しばらく待ちジャイロディーンの反応を見る。
『……オーバークロック?……出来る機体がまだあったのか?』
一言二言呟いているのが聞こえたが、言ってる意味が分からなかった。
そこからジャイロディーンが反撃に出るが、今の状態のクサナギなら移動だけで回避できる。全て避け背後に回りアサルトライフルを撃ち込む。
『ぐわぁぁ』
全弾命中し、倒れはせずよろめいた。これまでの攻撃でかなりダメージを受けたようだった。
クサナギが加速しジャイロディーンの周囲を回り始める。どんどん加速していく。
加速加速加速加速加速…………
これまでにない加速性能を発揮し、クサナギの残像が残り始めた。
ジャイロディーンはそれを見て驚いているようだ。
更に速度を上げ、ついに最期を迎える。
ジャイロディーンの四方からクサナギが飛びかかり、蹴り、斬撃、銃撃、パイルバンカーが繰り出された……
グシャッ ザシュッ ダダダッ ドガッ
全ての攻撃を受けたジャイロディーンは大破していた。
もう動きようがない状態だった……
<<<Battle End>>>
…………う……う……ん?終わった?負けたのか?
え?Winer クサナギ?え?崖から落ちて負けたんじゃないのか?
対戦が終わり、メンテブースに転送されていて状況が見えない。
クサナギは細かい傷だらけになっていたが、これは覚えている。ジャイロディーンに散々にやられた。ほとんど手も足も出なかった。
他の部分のチェックをしたが、結果がおかしかった。フレームの疲労が酷かった。今までのどの対戦よりも疲労が蓄積されていた。どんな使い方をすればこうなる?
クサナギの時でも1戦でこんなことになった事はない。
どのみち後半戦までしばらく時間があるから、宇宙戦艦の方で重点的にメンテナンスさせるつもりだが直るのか?
……疲れた……
どうやって勝ったか知らないが、あんなに攻撃が当たらなかった事はなかった。もっと戦闘スキルを磨かないといけない。
とりあえずメンテブースから出てラウンジに戻った。
どうしたのかラウンジは大騒ぎだ。誰か番狂わせでも起こしたか?
ジャイアントキリングはどの時代でも受けがいいから。特に強い奴が陰険な奴なら。
俺は静かなベンチに移動して座り込んだ。
「インタビューをお願いしたいんですけど……」
「俺か?何で?ギリギリ勝ったんじゃないのか?」
「覚えてないんですか?最後は圧勝でしたよ。『オーバークロック』?ってのを使ったとかで」
「オーバークロック?俺が?覚えてないんだけど」
インタビューに来たプレーヤーが対戦中の映像を見せてくれた。
『オーバークロック』?聞いた事はあるけど俺もそんなの使った記憶はないんだけど。確かに聞いてるオーバークロックの内容からあの状態は納得がいくが、操縦している自分が覚えてない以上何も説明できない。
「サイダザマト氏、ジャイロディーンのプレーヤーですけど、そう言ってましたよ」
「でもオーバークロックって今誰もやってないよな?
CPUの性能が良くなって性能向上幅が少なくなったからって。ファントムがいた時期のしばらく後くらいから使う奴がほぼいなくなったとか」
「そうらしいですね。サイダザマト氏もそんな事を言ってましたし。
出来る機体が今は無いらしいですよ。機体が耐えられなくてクレームが増えて制限かけてるとかなんとか」
今のクサナギはファントムのパーツがほとんどだから、制限なく出来るってことか。でも使ったら使ったでフレームにあれだけの疲労が蓄積されるとなると使う時を考えるな。
もう公表されてるから奥の手にもならないし。
「でも、タケル氏はなぜ制限のかかってないパーツを使ってるんですか?そんな歳のいったプレーヤーじゃないですよね?」
「ああ、それは大会前に遺物の入ったコンテナを手に入れたからな。
その中の古いファントムのリバイバルモデルのパーツを使ってるんだ。それが制限がかかってなかったんじゃないか?」
「実はオリジナルのファントムじゃないんですか?アナウンスが流れましたよね?その頃」
実際オリジナルのファントムだけどな。でも、それは今は言えない。
しかし、そんな制限があったとはなぁ。しかもそれを起動させるとか考えたこともなかった。
やはり運だけで今回は勝てたという事か。
「じゃあ、ほとんど何も覚えていないと……?」
「そうだな。戻って来て負けたと思ってたら勝ってたとか運だけで、ジャイロディーンに惨敗だったってことだ。また修行しないとな」
「では、ありがとうございました」
インタビューも終わり、またラウンジに1人残る。
『オーバークロック』自体技というか機能があることは知っていたが、よもや自分で使うことになるとは思わなかった。
でも、実際何も覚えていない。機体が勝手に動いてジャイロディーンを倒した……?
ラッキーではあるがプレーヤーとしてはダメだ。もっと強くならないとファントムを使う資格はない……と思う。
「タケル……大丈夫か?」
「ん?」
いつの間にかヴァルトラウテが近くに来ていた。対戦前に話をしていたし、結果を見て心配になったのだろう。
弟子に心配されるとか師匠として失格だな。まだまだ教える側の人間にはなれないということだ。
「ああ、大丈夫だ。運良く勝てたけど、あれは惨敗だったな」
「でも、『オーバークロック』?ってのをやったって言ったけど、身体の方は大丈夫か?」
「それは問題ないよ。クサナギのフレームにかなりの疲労が溜まったが、多分メンテで修復できるはずだ」
「あれって誰にでも出来るのか?」
「パーツに制限がかかってるらしいから制限のないパーツを使ってるやつしか出来ないらしい。
俺のは遺物にあったパーツだから制限がかかっていなかったらしい」
「……」
ヴァルトラウテもやってみたいのだろう。だが、今のパーツであの負荷に耐えられる物なのかは不明だ。
出来るならあれはやらない方がいいと思う。今回のような絶体絶命の時でもだ。




