第016話 国境を越えて
今日はE.G.G.内にいる。
ここのところ、放課後に『ファッション研究同好会』に参加させられていたから、こちらにはあまり来られなかった。
アレはアレでオタク心を刺激されて面白かったけど、E.G.G.の方もクサナギの強化を図りたい。
そのためにはいろいろと稼いでおかないといけない。メンテナンスにもお金がかかるし。リアルのお金をいくらでもつぎ込めるわけではないから、砦を墜とすとかして定期的な収入源は欲しい。
ただ収入としてはそれ以外にも、他のプレーヤーを大破させる、ミッションクリアし報酬を受け取る、競技大会上位入賞、そして最後に『採掘』するという事になる。
先の3つの方法は収入を得やすいが、競技大会はかなり上位に入らないと大した金額にはならない。
しかし、『採掘』は鉱脈を見つけるが如く一攫千金となる可能性がある。
といっても手当たり次第に掘れば何か出るわけでもない。どこかに埋もれている遺物を探すのである。
その遺物にしてもどこに埋められているとも記録があるわけではなく、運次第である。
一番発見しやすいのはゲーム中にたまに起きる天災で、地滑りや地面の隆起や陥没、亀裂の発生で発見される事が多い。
基本的にはたまたま遭遇して手に入れるという事でも無い限り、採掘だけで金を稼げないのだけど。
今回は別に採掘目的でゲーム内にいるわけではない。
ただ、国境を越えて適当に見つけた敵機と対戦しようと思って来ている。
とりあえず、前にほぼ単独で潰した砦から国境を越えて、細い街道をのんびりホバーリングで移動する。
今日はアリスティアは付いて来ていない。
だから、ゆっくりと進もうか。
この辺は国境付近で特に街などなく、自然の風景が広がるだけだ。
街道付近は草原だが、その先は荒れ地があるだけ。特に隠れられるような所もない見通しの良いところだ。
更に荒れ地の先には大渓谷があるが、グランドキャニオンのような風光明媚な所ではない。
地面に深い傷跡が出来ているという感じで、底まで見渡せないこのゲームの秘境と呼ばれる場所の1つだ。
そのそばにポツンと山があったりで自然の造形としてはちょっと変な感じはする。渓谷の片側全体が山なら自然な感じはするのだが……
まあ、そんな所を移動中だ。
『誰か出て来ないかなぁ』
元々細い街道を通るプレーヤーは多くない。行った先に大きな街もないし商売して遊んでる奴も多く通らない。
商売してるプレーヤー狙いの盗賊紛いの奴等でもいれば面白いんだが。
実際、この街道には盗賊団が出るという情報があって来たのだ。
1機だけのクサナギに襲いかかってくれるかは不明だが。
このゲーム、PKがOKというか対戦で成り立っているため、盗賊のような行為もOKだ。
そういうプレーヤーが群れて盗賊団が出来たのだろう。リアルではそんな事は出来ないからやりたがって、そういう集団が各地に結構あるらしい。
それぞれの国でやはり悩ましい話となり、盗賊団によるトラブルが増えると討伐ミッションが発生する。これも結構いい儲け話だ。
そのまま移動していると銃撃音がしてきた。
停止させ望遠モードで街道の先を視認する。パッシブスキャンも同時に行う。
まだこちらには気付いていないようだが、アーマードギアによる戦闘中のようだ。護っているのが3機、襲っているのが6機。
商隊を襲う盗賊団だろうか?
今の所、商隊側の2機が強いため互角で、残りの1機が足手まといにしかなっていない。
更にズーム倍率を上げ確認すると……いやがった。アリスティアがいた。
もっと自分の戦闘レベルを正しく認識して参加しろと言いたい。
現状、商隊のアーマードギア2機に対して盗賊団5機の戦闘になっている。
アリスティアには残りの1機が対応していて、遊んでいるようだ。
流石に倍以上の戦力差ではいくら強くても勝てないだろう。こんな他に人の通らない様な所なら、少し時間をかけ離れて戦闘すればいいのだから。
アリスティアがまともな戦力になっていれば、商隊側も楽だったんだがな。
こちらとしても見つけた以上助けるとしよう。
そうしなくてはいけないわけではないが、対盗賊団となると助けるのが不文律になっている。
まぁ、使えないアリスティアが迷惑をかけているのもあるが。
まずはスナイピングで援護だな。盗賊団の機体が距離をとっているから商隊の機体に当たらないだろう。
低姿勢でもう少し接近してからシュート。
バシュッバシュッ バシュッバシュッ バシュッバシュッ
右側をこちらに向けていた盗賊団の機体3機に2発ずつ撃ち込んでおく。
少なくとも2発の内1発で右腕部を破損させた。
盗賊団はまだどこから攻撃されたか分かっていないようだ。慌てふためき周囲を見ているが、こちらを発見出来ていない。
『砦の駐留部隊より練度が低い』
砦の駐留部隊ならすぐどの方向から撃たれたが分かって対応してくるのだが。
こちらは大きく右回りでホバーリングし移動する。1/4周ほどした所で向きを変え、盗賊団の後方から接近する。
この段階になってようやく盗賊団がクサナギに気付く。
商隊の機体も盗賊団の機体を圧倒し始めていた。元々かなり強いプレーヤーだったのだろう。右腕部を損傷して、武器の取り回しに苦労するような相手は敵ではなかった。
こちらも正常に稼働している機体2機を相手にする事になった。
既にアサルトライフルで敵機の脚部に向け掃射しながら接近。いくらかダメージを与えた。
動きの鈍った敵機の側面に回り込み、ほぼ0距離からのアサルトライフルの連射。胴体が半壊し機能停止した。
その機体を盾にして次の機体を狙う。
既に逃げ腰の敵機に対して背後に回ってパイルバンカーの一突きで終了。
商隊の機体は2機で3機を墜とし、こちらも2機墜とした。
後はアリスティアを相手にしていた1機だけだが、弱い者を狙うクズ野郎だったようで形勢が逆転したら背中を見せて逃げ始めた。
商隊の機体が追わないので、こちらで始末をしておいた。
盗賊団は質が一定しないからこういうクズなプレーヤーも結構いると聞く。そんなプレーヤーを相手にしても面白くはないのだが……
とりあえず機体から降り、商隊のリーダーと挨拶を行う。これもまぁ礼儀と言うことで。
「助かった。盗賊団の数が多かったから焦ったよ」
「こちらもたまたま通りかかっただけだ。盗賊団でも寄って来ないかとは思ってはいたが」
「それは酔狂な。しかし、中堅クラスのクサナギは強いな?」
「そんなに知られているのか?」
「ソロだからな?商隊としてはチームを組んでるプレーヤーだと全員雇っていくわけにはいかないからな。だからソロの強いやつは目星を付けてるところが多い」
「そうか……しかし、なぜアリスティアを連れてる?」
そういう話ならそれこそ初心者とそう変わらないアリスティアを護衛に同行させないだろ?
ほぼ初心者でしかないはずだが。
「本人が言うにはあなたのチームに入ったって言ってましたが、違うので?」
「未だにソロでやってるが。
そうでなくても勝手に付いてくるから、今日は完全に付いてきていないと思っていたんだが」
「先行して来ていたと……?」
「そうだな。俺が悪いわけではないが、迷惑をかけた」
「いえいえ、こちらも確認不足ですし、あなたが悪いわけではないですから」
2人して静御前の方をにらみ付けた。
静御前の方も少しひるみはしたが、全然気にしていない様子でこちらに近寄ってきた。
「毎回タケルが助けてくれるのだから、チームであるのと変わりはないですよね?」
「変わりがあるぞ、大違いだ!
たまたま運良くこの街道を通ったから助かったが、俺が違う街道を行ってたらどうするつもりだったんだ?
この商隊に大きな迷惑をかけるんだぞ?もっと実力を付けてからにしろ!」
「ごめんなさい」
それでしおらしくなったかといえばすぐに復活し、これまでと変わらない状態に戻った。
『静御前』とおとなしそうなのは名前だけで、実際はやはり普通に騒がしい人間なんだろう。
まあいいが、いい加減きちんと経験を積んでからにしてもらいたい。
結局、助けた縁もあって、そのまま護衛について次の街まで移動することにした。
勝手に使われたとはいえ、こちらの名前を出して受けている護衛だということなので無視するのも寝覚めが悪い。
仕方が無いので休憩の度に訓練と称してヒートサーベルでどつき回してやった。
これで根性を入れ替えてくれるといいのだが、それでもこちらに懐いてきているようで困る。




