不登校
入学式直前で骨を折り、5月末まで入院。
6月から学校に行けたが、その時には仲の良いグループがいくつか形成され、俺はそのどれにも属せずにいた。
そんなこともあり、自然に不登校になっていった。
気が付けば、ゲームをしてご飯を食べて寝る、という生活が3か月続いている。
今話す人と言えば、親と週に一度だけ来る担任だけだ。
元々話すのが苦手だったが、今回のことがあってから更に人と話すことが怖くなった。
今日もゲームをしてご飯を食べて寝る。いつもと変わらないと考えていた矢先、インターホンが鳴る。
そうだった。今日は先生が来る日だった。
気だるい身体を起こしてチャイムに出る。
「はい」
「すみませーん、岩田くんの家で合ってますかー?」
そう言ったのは担任の先生ではなく、見知らぬ女子だった
「そうですけど、誰ですか…?」
「あ、すみません。岩田君のクラスメイトの東です」
あずま、と名乗った彼女に俺は聞き覚えがあった。
学校に行き初めて孤立していた俺に唯一話しかけてくれた人。
名前までは知らなかったが、容姿端麗で学力トップということだけは噂で知っていた。
「今開けます」
そう言って俺はドアに向かう。
そんな高嶺の花のような人が何の用だろうか。
そう思いつつ鍵を開ける。
「急にごめんなさい…!先生が休んじゃって、今週のプリントを私がお願いされて…」
なるほど。この人はおそらく、断れなかったのだろう。
「私も岩田くんと話したかったから来ちゃいました」
「は、はあ…」
恋愛経験のない俺はそんな言葉で勘違いしそうになるが、こんな人に言われたら誰でも意識するか、と考えつつ俺は話を続ける。
「あ、ありがとう。そのプリント」
「来て話したかったからいいよ!そんなことより、ここで立ち話もなんだから上がってもいい?」
それは俺のセリフだろ…と考えたが口には出さず、とっさに東さんの問いに答える。
「え?…散らかってるから……」
「そっか、お邪魔しまーす」
と、俺の制止も聞かずに家に上がっていく。
人の噂から、東さんはもっとおしとやかな感じだの人だと思っていたが、それとはまるで正反対の人だ。
俺はそんなことを考えつつ、急いで後を追う。
家に入ると、東さんはリビングに到達していた。
「ここがリビング?」
「そうだけど…はいここ、座って」
そう言って俺は、東さんに座ってもらうように椅子を引く。
「ありがとう…あ、コーヒーでいいよ」
「いやそれ、俺が聞いてから答えるものだからね…」
今回はツッコまずにはいられなかった。
東さんといると、どうも調子が狂うという事が分かった。自由奔放、とでも言うべきか。
俺はそっとキッチンに向かい、コップに麦茶を入れ、東さんのほうに持っていく。
「えー、コーヒーで良かったのに…」
「すみません、コーヒーがなかったので」
俺がそう言い終わると、クスクスと笑い始めた。
「面白いね、岩田くんって」
そう言い、麦茶を飲み干す。
「え、何が?」
と聞くのと同時に、彼女から質問をされる。
「岩田くんの部屋はどこ?」
唐突にそう聞かれ、変なリアクションをしてしまう。
「今日会ったばっかなのに…?」
「えっ…あっごめんね、男の子の部屋入ったことなくて、どんな感じなのかなって…」
男子の部屋に入ったことがない。彼女は今、そう確かに言った。
冗談か本当か定かではないが、そんなことを言われて拒否するほど、俺は鬼じゃない。
「じゃあ行く?俺の部屋」
そう俺が提案すると、さっきまで曇っていた顔が嘘のように明るくなる。
彼女は二度頷き、立ち上がる。
「行こう!部屋どこ?」
「階段登ってUターンしたところに…。ちょっと待ってて!部屋が…」
思い出した。今起きたばかりだから、部屋が散らかっている。
「よーし、行こう」
と、また俺の静止を聞かずに部屋に向かっていく。
俺は腕を掴んでなんとか止める。
「え、えぇ〜」
変な声を出した方東さんの方を向くと、顔を真っ赤にしていた。
強すぎたのか。痛かったのか。
「ごめん、痛かった?」
そう俺が聞くも顔を背けられてしまった。
「いや違くて…ごめん、もう帰るね」
そう言って足早に家から出ていってしまった。
やっぱり何か怒らせてしまったのだろうか。
モヤモヤした気持ちで彼女を見送り、いつも通りにゲームをして、寝た。