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第二話 異世界


「おおおおおおおお!!」


 目に見えるすべてのものが新鮮だった。西洋風の赤レンガ状の家々が隙間なく立ち並んでいた。電気やガスなどは魔法で解決するのであろう、電柱や管などもこれと言って見当たらない。


 次に目に入ったのは人々。赤や青といった髪はここでは当たり前で、その上ケモ耳やら竜の頭やら日本ではありえないような種族の住民が俺の目の前を行き来していた。


「ここから始まるんだ!俺の!異世界無双ハーレム生活が!」


 一度妄想するともう止まらなかった。きっとそんな俺の妄想が顔にも表れていたのであろう、少女――テイアは「うわぁ」とゴミでも見るような目で俺を見てはため息をついた。




 「じゃ、行ってらっしゃーい」と幼子を見送る母のような軽いテンションで神は俺たち二人を転移させた。出端をくじかれた異世界転移だが、ここから巻き返すとしよう。


「てかお前さっきのポテチは?あと羽は?」


 先の異空間と基本見た目は変わらないテイアだが、デフォルト装備である羽とポテチだけがなくなっている。


「私が女神であることをこの世界の住民に知られてはいけないので羽は消してます。ポテチについてですが、ここに神様はいないので」


「どういう意味だ?」


 俺の問いに答えるかのようにテイアは広辞苑並みの分厚い本を差し出す。そこには丸文字で「おもしろいネタ帳(台本)」と記されてある。


「………まさか」


「神様はああ見えて用意周到な方です。あなたがあの空間に行ってから神様にたくさんしょうもないネタを入れられたと思いますけどあれ全部この中に書いてあるんすよ。私のポテチも台本に従ったまでです」


 受け取り、中を見やれば先ほど俺と神とテイアが話した会話がそのまま書かれているかのような台本がそこにあった。しかもご丁寧に「ここが笑いポイント♡」と随所に記されている。


 ………嘘だろ!?あの面白くないシックスパックネタもあのよく分からん沸点も全部即興じゃなくて用意されたネタだというのか!?にしては面白くなさすぎだろ!!!てかお前も暴露するのやめてあげろよ!なんかそこまでいくと同情しちゃうよ!!


 ちなみに裏には税込み300円と言うBook◯ffもびっくりの値札が記されている。神さまあああああ!!これジャ◯ネットもびっくりですよ!!


「まぁこれは後で燃やすとして、とりあえずギルドに行きましょう」


 テイアは再び俺の手から台本を奪うと我先に大通りへと続くギルドへと向かった。



 *****************************



 ――冒険者ギルド




「銀貨5枚必要になります」


「………まじすか」


 冒険者ギルド。ここは酒場と集会場。そして現代でいう役所を兼ねたような場所だった。


 昼間だというのに冒険者らが酒を交わし、お姉さんが次々と彼らに酒を配る。ギルドの中央にはよくわからん英雄のモニュメントがあって、その目の前に演芸をやる小さな壇上があった。


 んで、俺らは今金がないということで冒険者試験を受けられないという状況だ。


「おかしい、こんな展開『神様の台本』にはなかったっすよ!」


 言ってテイアはペラペラとものすごい速度で台本をめくる。


 うん。絶対にない。もしあるなら定価300円(税込み)で売られてない。



「ま、でも安心してください」


 先ほどまで焦りを見せていたテイアだが、急に顔色を変えるとこちらに向き直る。


「この私の力があればどうとでもなります!!」


 言ってテイアはあまりない胸をポンと鳴らす。確かにこいつはあの神に『強力な同伴者(笑)』として紹介された女神だ。こういう時にその真価を発揮してもらわないと困る。


 そしてテイアはむくっと立ち上がると俺らの後ろの席に座っていたひ弱そうな男性冒険者に声を掛けた。


「なぁ兄ちゃん、いい装備してるじゃん?ところでさ、私今お金に困っててさ、ちょっと貸してくれないかな?」


 言って、テイアは冒険者の胸ぐらを掴む。その姿はさながら昭和のヤンキーだ。


 ばっかあいつ!!異世界に来て早々変なパーティだと思われたらどうするんだあのビッチが!てっきり無駄に良い美貌を安売りするのかと思ったがまさか恐喝しに行くとは、さすがあの神の薦めた女神!や・は・り・使えない!


「す、すみません!お金は、な、ないんです!」


 怯えながら両手をあげ、無抵抗なアピールをする冒険者にテイアはさらに詰め寄る。さすがに感化できないので止めに入ろうかとしたその時である。


「おい君!やめないか!」


 ガシッ、と冒険者の胸ぐらをつかんでいるテイアの右手を、屈強な冒険者の男が掴む。


 ガタイはいいのに何故だか爽やかさを感じさせる冒険者だった。金箔の防具に蒼く輝く剣。頭には緑に光るティアラに模した兜を着けている。


 おそらくこの街で有名な冒険者なのだろう。その冒険者が一言発するだけで周りの女性冒険者がキャッキャと黄色い歓声を送る。


 ――あっれれー!?おっかしいぞー!?主人公交代早くね?


 加えてその冒険者はテイアが金に困っていることを知ると懐から30銀貨を取り出し、テイアの手にポンとのせた。


 もらうはずだった10銀貨よりはるかに多い金を渡す紳士っぷりである。


「こんなことはもうするなよ」


 言って爽やか冒険者、略して『サワボウ』はキラリと光るスマイルを見せてその場を後にした。それを追うように先ほどのひ弱な冒険者も出て行く。


 後に残されたのはただ事態を傍観していた俺と、恐喝したあげく主人公冒険者に同情され金を恵まれたクソ女神。


 ―――俺、もう帰っていいかな?


 帰るあてもないのに俺はそんなことを思うのであった。






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