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王女アリスはツリーの下で前世の夢を見る  作者: 漆あんか
第二章

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83 不自由な宇宙開発プロジェクト アリスside

アリス視点です!



「カイン殿、宇宙開発事業団の者が挨拶にいらしています」


「ああ、今行く」


私がダンスを踊った後もカインと話していたら、客が来た。きっと重要な客だろう。

今日は戴冠式にかこつけて様々な国の外交官や代表たち、世界を股にかける国際的な団体の関係者たちが訪れていると聞く。これを期に新国王と繋がりを持ちたい者も多いのだ。


「じゃあ、カイン、私はこれで」

「·········ああ、そうだ、滞在日程を延ばしなよ。久し振りの帰郷なんだし、会いたい人や行きたい場所があるだろう?ミシェル殿にも俺から頼んでおくから」


「う〜ん」

気軽に言ってくれるわね。

でも、私だってもう少し長く地元に居たい気持ちはある。

大人しく人質に戻るんだし、少し帰郷を延長するぐらいはミシェル様も許してくれないかな。


「じゃあ、後でな」

ニヤッと笑い、カインが向かう先には宇宙開発事業団とかいう団体の代表らしき者が立っていた。


(えっ············)

その者は、一瞬、私と目が合った。

大きな体格で、ターバンを巻き白い衣装を纏った、前世でいえば中東風の容貌をした青年だ。いかにも若き王族といった感じで、身なりは豪華な装飾品で飾り立て容姿は整いエキゾチックな美しさが際立っている。

しかし、柔和な表情とは違い私を見る眼光は鋭かった。


(知り合い、··········じゃないわよね?)

私は王女ということで何かと注目されるのに慣れているとはいえ、全く知りもしない者から舐め回すように睨めつけられるのは面白いことではない。

それが、どこぞの国の権力者や重要人物からであれば後々の政治や陰謀に巻き込まれるのではないかと不安を覚えてしまうのが常だった。


「アリス」


「アシェル!」

カインと別れてからの不安感は、アシェルと合流することでひとまず収まった。


「姉弟だと分かっていても灼けちゃうよ。ねえ、カインと一体何を話してたのさ」

アシェルはいつものからかう口調だ。


「カインが、滞在を延ばしたらと言ってくれたんだけど···········」


「ええっ!ダメだよ。僕もミシェルも忙しいんだから。予定通り、明後日にはディスィジュエス共和国に帰らなきゃあ」


「ええと、私だけ残っちゃダメかな?」


「!そんなのダメだよ。君は僕たちの人質なんだから!自由に一人で帰る人質がどこにいるってんだよ?」


「···········そうよね···········」

いつも優しいアシェルにしては、はっきり断られてがっかりしてしまう。


「そのかわり、明日はアリスの行きたい所へ行こう?僕も一緒について行くからさ!」

アシェルはそう元気よく言うと、私の手をぎゅっと握った。


(··················フウ。

不自由な自分に溜息をつかずにはいられないわ。せめて、一人っきりで故郷を回りたいといったら、怒るかしら?)


私は落胆して、アシェルに握られた手を離そうとする。


「ア、アリス·······」



────キイィイィン────


「「!?」」


突如、耳を劈くような高音が響く。

それを合図のように、会場の人々が次々と倒れていった。


「···········アシェル!?」

私の隣にいたアシェルも、足元に蹲っている。


「アシェル!アシェル!だっ、大丈夫!?」

しゃがんでアシェルの顔を覗き込むと、虚ろになった瞳は焦点が合わない。私はアシェルの身体を揺さぶった。



「テロか!?」

辺りを見渡すと、会場の半数近くの客が倒れている。人々は阿鼻叫喚の大騒ぎだ。


「ミシェル様ーーー!!」

少し離れた場所でミシェルの取り巻きの悲鳴と叫び声が上がっている。


「ミシェル様まで·····?」

この場を収拾できそうな最高位者まで被害があったのは衝撃だった。


見渡せば、被害者たちには心当たりがある者もいる。

────これってもしかして、

木人形使用者ばかり?



【皆様、どうか落ち着いてください。

我々は世界宇宙開発事業団です。我々が持ち込んだ宇宙用モニターの超音波発生装置の部分が誤作動を起こし、人体に影響のある高出力の超音波を発生してしまいました。

これは事故です。しかし、この超音波は人体に深刻な影響はないとお約束します。

すぐに対処しますので、暫くお待ち下さい】


会場にアナウンスが流れる。

違和感を感じるほどに落ち着いた声色だった。



「アシェル!?だ、大丈夫!?」

「う、うん······ちょっと休めば平気だと思う······」


アシェルは苦しそうではあるが、意識をしっかり持っていた。私は安心してほっと息を吐く。

具合が悪くなった者用の臨時救護室が設けられたので、ひとまず肩を貸してアシェルをそこへ連れて行く。


「こんなの大丈夫だよ。それより僕は君の側にいなくちゃ············」

そんな強がりを言っているが、顔色はもの凄く悪い。

臨時救護室に入り、一旦、簡易ベッドへ身を沈めてしまえばもう動けないようだ。


「ここで休んでいて!今お水をもらってくるから」

私はそう言って廊下へ出た。



「おや、アリス様ではありませんか」

急に背から声をかけられて、私は振り返った。


「ああ、私たちは初見ですね。失礼いたしました。

実は、カイン様も会談の途中で体調を悪くされ·····超音波の悪影響を受けてしまったようです。

今は別室で休んでおられます。本当に申し開きのしようもありません。

私は宇宙開発事業団の代表のバアルと申します。王女様にはぜひベルと愛称でお呼びいただきたいですね」


「·····?」

こんな非常事態に悠長に愛称での自己紹介なんて驚きだ。

私は後を追ってきた自分の侍女にアシェルへ水を持って行き様子を見守るように伝え、カインが休んでいる部屋へと向かった。


「カインッ!!!」

部屋のソファーに横たわるカインは、他の誰よりも状況が悪そうだった。

呼びかけても応答がない。


「カイン、どうして······」


「こんなことになってしまい、心苦しいです。

今回の事態は、我々の機器が引き起こしたと思われます。魂の波動に超音波が共鳴し、直接影響を与えたようです。生身の人体には影響が無いので今までこんなことはなかったのですが────」


世界宇宙開発事業団とは、カメリア合州国を中心に宇宙開発を推進する活動をしている国際的な組織だ。世界の主要国にその支部や提携施設があるという。



「弟君がご心配でしょう。目を覚ますまでこちらでお待ちになってはいかがですか」

私は用意された椅子にエスコートを受けて座る。


「これは、どういうことなのですか」

アシェルやミシェルだけでなく、カインまで不測の事態に陥って、私はまだ動揺した心を落ち着けることができなかった。


「カイン王には、以前より宇宙開発事業の支援をお願いしておりました。今回は、宇宙用モニターを使用してプロジェクト内容について詳しくご説明させていただく予定だったのですが············

しかし困りましたね。木人形が宇宙用モニターの影響を受けてしまうとは、機器使用の変更を考えなくてはいけません」


カインが木人形使用者だとは周知の事実だ。


「? 宇宙開発に我が国の援助が必要ですか?」

今だかつてエヴァグリーン国で”宇宙”の言葉すら聞いたことがない。

今だに前時代的な古臭い生活を続けているこの国にとって、“宇宙開発”などという先進的なプロジェクトは技術的にも金銭的にも無縁のものだと思っていた。


バアル氏はコホンと咳払いをした。


「この世界が先の世界大戦により、海と土地の半分以上が毒で汚染されたのはご周知の通りですね。

───────、

我々人類は生殖能力を著しく失い、超少子化は深刻な問題になっています。それは核兵器に汚染されたことに原因があると研究結果が出ており、大気と海と土壌の大規模洗浄活動も国際的プロジェクトで進めています。そしてこの度、人類存続をかけて、地球外へ生活圏拡大のプロジェクトも立ち上げるに至ったのです」


「へ、へえ〜、人類が宇宙へ移住·····ということですか?うわぁ、すごいお話ですね·······」

私は途方も無い話に素直に感動しつつも、なぜこんな重要そうな話題を時代遅れの王女の私に振るのか不思議に思う。


「ええ、ええ、そうでしょう。

そこで我々が検討しているのが木人形の技術です。

人体が年々と弱性化している現在、木人形は注目を浴びつつあります。

魂の新しい入れ物として、安定した宇宙活動での有効性が期待されているのです」


確かに、生身の身体で地球外の様々な危険に晒されるより人形を使ったほうが安全そうな気はする。

とはいえ、


「木人形はそんなに強くないですよ?」

木人形は精密な作りなので、ちょっとしたことでメンテナスが必要となるし、魔力が少ないと魂と木人形とのバランスを失いすぐに故障し停止してしまう。例えるなら、性能の悪い中古車が頻繁に故障し道路に立ち往生なんてことが日常茶飯事ですごく困るのだ。

木人形製作者から言わせてもらえば、こんな不安定な乗りモノを地球外活動に取り入れようなんてかなり無理があると思う。


「もちろん素材は他のものを検討し、より頑丈な人形を作る必要があるでしょう。

それよりは、我々は木人形の”仕組み”を利用できればと考えているのです」


「はあ······、なるほど」

確かに、生身の身体の危険がなく頑丈なロボットがあればいいかもしれない。

けれど、前時代的遺物である魔力を原動力にする木人形と最先端科学技術のロボットとを融合させることなんてできるのだろうか?

この世界においても科学者たちは魔法を古く曖昧で確実性のないものとして嫌厭している状況で、その両極端な分野の研究を兼ね備える強者の研究者はそういないと思う。


「これは人類の存亡をかけたプロジェクトなのです。

先の戦争の影響で、エヴァグリーン国の半数が木人形の使用者という話を聞いております。

ぜひ、多くのエヴァグリーン国の木人形使用者の方々に宇宙活動のプロジェクトにご参加いただきたいのです。

そして、アリス王女様にはエヴァグリーン国を代表としてこのプロジェクトの協賛者のお一人となっていただきたいのです」


「えええ!?エヴァグリーン国がプロジェクトに参加!?わ、私が代表!?」


まさか、ここで私の名まで出てくるとは思わなかった。

そもそも、エヴァグリーン国は古く寂れ世界の先進的な潮流からは取り残されたカビ臭い地域だ。

先進国の隣国ディスィジュエス共和国とは違って、宇宙開発なんかとは真逆のお国柄なのだ。



「········なぜ、私なのですか?

私はしがない人質王女ですよ?

カイン王にはお話をされたのですか?」


とはいえ、王を直接立てるよりは皇族である王女を代表とした方が対外的に角が立たなくて良いということかもしれないわね。


「もちろんです。王にも大変にご興味を持っていただきました。

それ相応の条件を提示させていただいたので当然かもしれませんが········」


私は今だ深く眠るカインを見た。

そういえばバアル氏は体調に異変がない。

ということは、彼自身は生身の人間なのだろう。

彼はおそらくは宇宙開発事業団本部のあるカメリア合州国の人だろうか。強国であるほど、科学が発展し魔法使いが少ない現象があり、魔力を必要とする木人形の使用者は稀だと聞いたことがある。


「条件、ですか?」


「国家規模で我々の宇宙開発事業にご参加いただけるのであれば、エヴァグリーン国へ宇宙開発から得られる破格の利益をお譲りすることをお約束します。

もちろん、代表者である貴方様のお立場も国際的に確立したものになります」


(·········国際的立場?)

私はそんなものを欲したことはないわよね。

私は真意が分からず首を傾げていると、バアル氏はクスリと笑った。


「無欲なお方ですね·······

それでははっきり申し上げますね。

国際的な地位を高めることができれば、自動的に人質という苦しいお立場を解消することができると申し上げているのですよ。

私にお任せください。

我が宇宙開発事業団が貴方様の強力な後ろ盾となり、ディスィジュエス共和国が何と言おうと、貴方様に有利な条件できれいさっぱりと人質など解消させますので」


「!?」


「────考えたことはありますか?

貴方様という崇高なる王女殿下を保護という名目でいいように拉致監禁している奴らが、実は木人形というガラクタだということに。

貴方様は正真正銘の人間です。

人間がいいように人形に操られては、いけませんよ」


バアルはこれ以上ないくらい美しい表情で勝ち誇ったように笑った。


これは、────敵意?

何に、誰に対しての?



(なんか········まずそうじゃない·······?)

私は思わず後退りした。


アシェル、ミシェル、カイン

木人形を使用している周囲の権力者たち。

只今は、全て動かなくなっているという事実が、

私に重くのしかかってきた。



不定期投稿でご迷惑をおかけしております m(_ _)m


読んでいただきありがとうございます!

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