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王女アリスはツリーの下で前世の夢を見る  作者: 漆あんか
第二章

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80/85

80 この国は未来永劫続く カインside

今回はカイン視点です!


(•••••••••なんだ、あれは••••••••••?)


アリスの後方に座っている男の姿が目に入った。

そこに平然と座っているのは、

以前に死亡したはずの俺の父ボトルブラシュ公爵の姿だった。


(アリス)

俺は一瞬で、アリスがやらかしたと悟る。

間違いなく、彼女はボトルブラシュ叔父の木人形を作ってしまったのだ。

あの虚ろな瞳を見れば“木偶の坊”だと分かる。表情に父上らしさは微塵も感じない。

アレの中身はたぶん空っぽだ。


(············無駄な労力だったみたいだな)


アリスは戦争で失った者たちを木人形で蘇らせると以前から言っていた。

死者が蘇るなど、荒唐無稽な話だと誰もが思うだろう。

しかし、俺はそうは思わなかった。

アリスには不思議な力がある。


エヴァグリーン国で起きた8年前の騒乱。

あのクーデターで亡くなった者たちを、アリスは見事、木人形で蘇らせた。


あの時は、亡くなって間もなかったから魂の召喚に成功したのだろうか。

今回は、戦争から時が経ちすぎていた。




ざわわ•••••••

ざわわわ•••••••


思考に耽っていたが、

いつの間にか、場内が騒々しいのに気づく。

儀式の次の流れを意識して、俺は場内を見渡した。


前王が既に亡くなっているため、俺の頭上に冠を戴くのは、後見人であるディスィジュエス共和国CP党党首ミシェル•カエーデ•フウと決められていた。


背の高い男が俺の前に立つ。



しかし、これは────────誰だ?


招待客は更に大きくざわめいた。


見知らぬ者が、

この場で最も高貴で高位の人物であるかの如く、堂々と新王の前に立ち塞がっていのだから当然だ。


男はエヴァグリーン国の正装である純白の衣装を身に纏っていた。


   

   「······························カイン様が······お二人?」


ざわめきの中から、どこからともなく声が聞こえる。


「カイン様にご兄弟はおられないはずなのに·····」


俺が群衆を見ると、

一斉に皆が口を噤んだ。



皆が俺の秘匿された血縁者だと疑っているのだろう。


(確かに、俺に似ている、この男は?)

よく見れば、俺よりは歳を重ねているようだと気づく。20代後半ぐらいだろうか。


それにしても、我が王家の伝統衣装を正装として着こなしているのはなぜだろう?

この衣装を着用するのは王家の承認が必要で、おまけに特別な資格を与えられた者しか製造販売できないことになっている。


俺はアリスの方を見た。


(•••••••••アリス!?)

アリスの顔色が良くない。

真っ青というよりは、限りなく白に白に近い·····

全身純白の衣装も相まっている。

俺は思わず自分の立場を忘れ、全身雪だるまと化したアリスの元へ駆け寄ろうとした。


その時、


「私はミシェルです。────カイン王?」


目の前の、その男は大きな声で周囲に聞こえるように話し出した。


「ハハハ•••••••

かつて私が不慮の事故で体を失って以降、医療目的の木人形を使用しているのは知っておられますね?

その木人形も三十年も使用してさすがに老朽してしまったので、これは新しく新調した木人形なのです」


「え?ミ、ミシェル殿?」

俺はポカンと口を開けるしかなかった。


「このデザインは、私の若い頃の姿を模したものです。

────────驚かれました?」


その男はそう言って、フフと鼻で笑った。


アリスからこのような話を俺は前に聞いたことがある。

しかし、あれは別の男の話だったはずだ。


先日、木人形を依頼してきた男が提示した容姿のデザインが俺に酷似していると、アリスから連絡があった。

その男の希望のデザインは、若い頃の自己の容姿だというが、それが偶然にも俺にそっくりだというのだ。

写真も何枚も見せてもらい何度も確認したらしい。

とはいえ、取り立てて面白くもない俺の顔だ。特に気に留めていなかった。


ええと、その人物の名は、

·········何だったか··········



「どうして、···········”ミカエル”さんが········ここに·······」


アリスのか細い声が、俺の耳まで届いた。


「アリス様·········

私、ミカエルとミシェルは同一人物なのです。

私はミシェルでもあり、ミカエルでもある。

··················騙した形になり、誠にすみません」

ミシェルだというその男は、手を自らの胸に当て頭を深く下げ、慇懃丁寧に謝罪した。


「そんな·········」

アリスは呆然とミシェルらしき人物を見つめる。



(アリス・・・・)

アリスは目を丸くしている。

可哀想に、驚いているようだ。

それだけで、俺はアリスがあの男に騙されて木人形を作らされたのだと分かった。


「チッ」

俺は舌打ちする。


(ミシェルの奴め、赤の他人のくせに、俺の大事な家族を虐めたな•••••••••!)

アリスと俺はこの世界で一番近い家族だ。

俺は、俺にそっくりな奴がアリスを害するのは見るに堪えなかった。


本来なら、木人形を新調したからといってこんな衝撃はないだろう。

彼は簡単に見過ごしてはいけないと思わせるほどに、俺に似過ぎていたのだ。



「••••••••••俺はあなたを許せません」


「フフ、········何がです?

偶然にも、あなたに似たような容姿の身体を持ったから?これは、あなたの姉王女様が直々に私へ作ってくださったものですよ?」


「•••••••••••••••偽物(ニセモノ)••••••••••••••」


「フッ、私が、あなた如きの少年王のモノマネをして、あなたの危うい立場を奪うとでも?」


俺はミシェルを睨んだ。

相手は柔和な佇まいながらも、瞳の奥には確かに俺への鈍く重い剣呑が潜んでいる。


俺たちは暫く、積年啀み合っている敵同士のように対峙していた。


(················俺は、いつの間にこの男の不興を買っていたのだろう?)


両国の交渉も、唯一無二の王国の宝物である王女アリスの身の処し方も、いつでもこの男、ミシェルの思い通りになってきたはずではないか。


俺は悔しいことに、この男の富も地位も権限も百分の1ほどだって持っていないのだ。

この男の情けと憐れみのみで、滅びゆく砂上の王座を与えられるだけの薄っぺらな存在だ。


どのみち、俺とミシェルの勝敗は明らかだった。



不意に、

ミシェルは仰々しく王冠を高く翳した。


彼は俺より背の高く

歳を重ねた姿で


俺は、膝ついていて頭を下げ、

王冠を戴いた。


王国建国以来、千年は続いてきた儀式だ。

歴史だけは腐るほど永い我が王国。

これは最後の戴冠式になるだろう。


この俺が、歴史あるエヴァグリーン国を滅ぼす最後の王になるなんてな。

これからは、王代理ではなく国王としてあらゆる不平等な条約を結ばされることになる。


(気が重いな。

まあ、アリスは俺の戴冠を喜んでくれているけど)


本音を言えば、

この国は未来永劫続いて欲しい。

例え、俺が死んだ後も、


ずっと、ずっと、




「ご尽力賜り感謝を申し上げます」

戴冠式が終わり、

俺が形ばかりの御礼を伝えると、

彼はフッと鼻で嗤った。


「恙無く式が終わり安堵されておられるでしょう。

しかしこれから祝宴もありますし気が抜けませんね。ぜひ、皆様へ王威をお示しになられますよう、後見人として私も誠に期待しております」


「はあ、どうも········」

いつもの、ミシェルの落ち着いた様子に俺は毒気が抜かれ、腑抜けた返事をする。


「アリス様を責めないであげてくださいね」


「はあ?」

なんでアリス?


「············」

アリスを見ると、申し訳なく身を小さくしている。

俺がアリスを怒るわけがないのに。


「私がこの姿を得たこと、決して彼女のせいではないのですから。

王も噂を聞いたことはおありでしょうが、私はエヴァグリーン王家の末裔の血筋です。

その事実は、かつて国王直々にアリス様のお誕生祝賀会にお招き預かった時に、王自身がお認めになり承認を受けております。

なので、同じ血族として私の若い頃の姿がカイン王子に似ていてもそうおかしなことはないでしょう」


「いやいや、おかしいでしょう?」

一体、何代前の王族の逸れ者が他国へ渡ったのかは知らないが、分かれてから時代を経て薄まった血筋の子孫同士が似ているなんてことがあるのだろうか。全く腑に落ちない。


(もしや、ミシェルは········)

エヴァグリーン国の王族を主張して最終的には王位を奪おうと画策しているんじゃないだろうか?

CP党としてはいずれエヴァグリーン国の王政を廃止すると宣言しているが、怪しいものだ。

そんな疑惑も湧いてくる。


「しかし、王自身はあまり父君に似ていないようですね?」


「へ?」

俺はアリスの後ろへ従者のように立つ、ハリボテのボトルブラシュ公爵を見た。


確かに、俺と父上はあまり似ていない。

しかし赤ん坊の頃は父上にそっくりだと揶揄われていたらしいし、成長して顔が変わるなんてよくあることだろう。


「おや?私と王では、私の方が年長者ですね。

それでは、どちらがどちらに似たのやら分からなくなりますね·········?」


「•••••••••••••なんだって?」

思いがけないミシェルの言葉。


「私と王、一体どちらが偽物なのでしょうね?」


ミシェルは柔和に微笑んだ。


そこで俺は、

いよいよこの男に憎まれていると悟ったのだ。



不定期投稿でご迷惑をおかけしております m(_ _)m


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