79 遅れて来た後見人
引き続きアリス視点です!
ミシェルに急遽呼びつけられて、式の自らの準備もそこそこにアシェルが私の部屋に駆けつけた。
「えーと、僕も驚いたよ········まさか、アリスがこんな、死んだ奴等の木人形を作っていたなんて·······」
アシェルは椅子に座り微動だにしない無表情の王と王弟の木人形の顔をまじまじと眺めている。
「·········アシェル、本当か?
お前は誰よりもアリス様の近くで見守っていただろう。もしや敢えて私に報告しなかったのではないか?」
ミシェルの柔和な声には静かな怒りを孕んでいた。
「あ、あの」
私はたじろいだ。
ここでようやく私は、国の重要人物を蘇らせる重大さに気づいて、自分を恥じざるを得なかったのだ。
「あ、悪意はないのです、·····················よ?」
私は首を傾げてミシェルを見上げた。
「っ•••••••••••」
目が合うと、ミシェルは口を噤んだ。
それから、
私は一生懸命に説明して、何とかミシェルへの反感の意思が無いことを理解してもらうことができたのだった。
「え?カインの肉親の出席が自分しかいなくて可哀想だって?
その為だけに二人の木人形を作ったの?
僕はアイツが可哀想とは全く思わないけど······アリスは本当に家族思いなんだね。
うーん、まあ、そんなに言うんなら、別にいいんじゃないかな··············?」
いつも優しいアシェルの説得は簡単だった。
だけど、ミシェルはまだ不満な様子だ。
「••••••••••••不公平ではありませんか?
彼らは死んだにも関わらず、いとも簡単にアリス様に木人形を作ってもらえるのというのですか?」
え、そっち?
確かに木人形は生産が追いつかず品薄だけど。
そういえば、ミシェルは病気が原因で木人形を使用しているらしい。
私はミシェルが何に怒っているのかいまいち分からなくなってくる。
「·············身内ですから··········」
きまりが悪くて、私はボソボソ呟いた。
「身内だからと、彼らが本当に身体を望みましたか?死んだ者を造り物の偽物の木人形に蘇らせるなど、死者への冒涜ではないでしょうか?
彼らには転生して新しいまっさらな人生を始める権利があるはずです」
ミシェルは転生を信じているようだ。
確かに、死者を冒涜する不道徳な行いだと詰られるのも分かる。
木人形製作は完全に私の自己満足なのだ。
だけど、家族を失って、国が破壊されて、私はみんなを取り戻す為に自分が出来うる限りのことを全てやると決めている。
私の倫理は壊れ衝動に突き動かされている。
既に自分は心が壊れてしまっているのではないか、そう思うこともあった。
「······································」
ミシェルは暫く考え込んでいた。
そうこうしている内にも、
式の時間は近づいてくる。
「アリス様の通訳という形で、一人分の招待客の席を用意させましょう」
「はあ?通訳?母国なのに通訳?」
アシェルが騒ぐ。
それに両国に言語の大きな違いはないのだ。
恐る恐る、私はミシェルの反応を窺った。
「────────仕方ありません。
ルゥ•ブラーシ公爵閣下には通訳者として出席していただきましょう。確かにカイン殿の実父なので彼も喜ぶでしょうね。····傀儡の人形とは言え。
しかし、彼の名を出席者名簿には載せてはいけません。閣下が生きているとなれば大騒ぎになりますから、他人の空似ということで通します」
カインの実父のフルネームは、ルゥ•ブラーシ•ボトルブラシュだ。
「あ、ありがとうございます!
では叔父様に出席してもらうことにします!」
「重ねて言いますが、違う名で出席ですよ?
王や王弟が生きているとなれば、カイン王太子の戴冠式どころではなくなるのを、本当に、ご理解くださいね」
ミシェルは諦めたように両手を広げ肩を竦めた。
「分かりました!仮の名前を考えますね!」
私は胸を撫で下ろす。
この戴冠式は、エヴァグリーン国主催ではあるものの、実質、ディスィジュエス共和国の意向を全て汲んで挙行の準備が進められている。
停戦合意以降、既にエヴァグリーン国はディスィジュエス共和国に併合され支配されている状態なのだ。
つまり、人質である私の行動もミシェルのお許しが必要不可欠になる。
ようやく、念願のカインの戴冠式を迎えることができた。
「カイン、立派だわ••••••!」
私はうっとりと儀式に臨むカインの一挙一動を見守っていた。
カインも私と同じく、清廉を尊ぶエヴァグリーン王家の精神を表す純白の衣装を身に纏っている。
凛々しくも洗練された迷いのない動作は堂々として頼もしく、とても私と同じ歳とは思えない。
私達は従姉弟同士で、同じ日にカインの方が1時間弱遅く産まれている。その後、王太子になる為に我が家に養子に入ってからは私が義姉カインが義弟ということになっている。
「ねぇ、叔父様!
カインのあの堂々とした姿!
ほら!ご覧になってください!」
私は後ろに座っている公爵へ話しかけた。
「················ ···············」
カインの実父である公爵は黙っている。
彼の中身は魂の無い空っぽだけれど、不思議と心なしか嬉しそうに見える気がする。
「フフッ、そうですよね!本当に立派で、誇らしいですよね!ね!」
私は嬉しくて、叔父様の気持ちを代弁する。
「はあ·······、どっちが通訳なんだか」
私の隣に座っていたアシェルが首を振った。
式場の王宮にて、
カインの後見人である国家元首ミシェルの席は、正面に設置された来賓席の私達とは別で、式場の台座の中央にある王座の隣に設置されている。もし国の宗教があれば教皇が座るような王よりも高位の席だ。
だけど、ミシェルは式が始まっても今だ座していない。会場は不安感を募らせていた。
「用意に手間取ってるんじゃない?
それか、アリスに嫌われたと拗ねて出てこれないのかも、フフ····」
アシェルが笑う。
「ええ?何言ってるのよ、もう······」
私はアシェルの冗談に呆れてしまう。
あんなに偉い人が、私の振る舞いでどうこう影響があるわけないのに。
式中、不意にカインと目が合い、彼は眼を見開いた。
そう、私ではなく、後ろの叔父様を見ている。
(ああ、カイン·············驚いたわよね··········怒らないといいけど··············)
私が口ではカインの為だと言っていても、勝手にやったことには変わりない。
とはいえ、叔父様はカインの即位を心待ちにしてしていただろう。
早く魂を呼び寄せる為にも、生前の環境に木人形を置いていた方が効果があるのではないかという期待が私にはあった。
「あれっ、あいつ、山小屋の男じゃないか·······!」
突然、式場に男が入場し、アシェルが声を上げた。
「しーー」
私は指を唇に当ててアシェルに注意する。
場面はクライマックス、
一番大事なところなのだ。
カインの頭に冠を戴く場面。
実質後見人に当たる、ディスィジュエス共和国元首であるCP党党首のミシェル•カエーデ•フウが恭しく冠をカインの頭に被せることになっている。
しかし、今だ、ミシェルは現れなかった。
その代わりに現れたようなタイミングで、
その男は、驚くことに、エヴァグリーン国の正装のような純白の衣装を纏っている。
男が自信に満ちた足取りで、中央を歩いていく様を
式場全体が固唾を呑んで見守っていた────
そして颯爽と台座に上がると、
衆目の前に向き合って立つ。
「••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••ミカエル?」
その男は、私がよく知っている顔に似ていた。
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