78 純白はイノセントの輝き
アリス視点です!
戴冠式の日程が決まった。
私はようやくエヴァグリーン国へ帰ることができると、気分はワクワクしてずっと落ち着かなかった。とはいってもほんの数日の一時帰国なのだけど。
それにしても、王女である私は式を主催する側のはずなのに、それはミシェルによって一切認められなかった。
私は人質であり、あくまで身柄はディスィジュエス共和国に所属する体裁を取るという。
ほとんど嫌がらせなのではと思う。
というわけで、私は賓客という形で招待を受け、母国であるエヴァグリーン国へ短い滞在期間で訪問するしかなくなったのだ。
私はせめてもの、王女の名前でカインの戴冠式の衣装の一部を贈った。
もちろん、カインには何を贈ったらいいか何度か手紙でやり取りをした。
カインの手紙はひどく落ち着いていて、必要事項以外のプライベートな文面は少なく、『気をつけて来て欲しい』とだけ、余所余所しく綴られていた。
久方ぶりのエヴァグリーン国王城に入り、私達は賓客室に案内される。
それから超多忙のカインとは時間を作れず、
私も楽しみにしていた王城ライフをゆっくり満喫する暇もなく、数日後には戴冠式を迎えることとなった。
当日、私は戴冠式に出席する為の着替えと準備を終えたところで、ミシェルが部屋に入って来た。
ミシェルも完璧な正装姿だ。
実直そうで凛々しい風貌は国家主席としての威厳を兼ね備えている。
「··················美しいですね···············」
私の前に立つと、ミシェルは目を細めた。
まるで懐かしいものを見るかのような何とも不思議な表情だ。
そもそも、私の衣装はミシェルが用意すると申し出があったけれど、私は丁重にお断りしていた。
するとアシェルが次の日にやたらに豪華なドレスを持って来た。主役でもないのにあまりに派手すぎると驚いたけれど、式の後のパーティーにはちょうど良いかもしれない。そちらでありがたく使わせてもらうことになった。
「これがエヴァグリーン国の正装なんですよ」
私はミシェルに向き合って笑いかける。
「なるほど、·······
純白で清らかで、清廉を尊ぶエヴァグリーン王家の精神を感じさせられますね。白が日の光を反射し輝いて、アリス様の肌の白さと髪色とのコントラストが映えてこの世とは思えない美しさです。アリス様に本当にお似合いです」
ミシェルは感嘆したように何度も溜息をついた。
実は、昔からの伝統的なこの正装姿はクラシカル過ぎて私は内心ちょっとダサいと思っていた。
保守的なデザインで肌の露出が抑えられているのもいただけない。
純白というのも、前世の感覚からいうとウェディングドレスを連想させられて結構気恥ずかしいものがある。
衣装の準備は大変で、エヴァグリーン王家の正装服は門外不出だった為、仕立てられる者は隣国とはいえこのディスィジュエス共和国にはいなかった。
結局、カインに相談してエヴァグリーン国から王家の御用服職人をわざわざ呼び寄せ仕立ててもらったのだ。
「あ·······、ありがとうございます·······」
無口で厳格だと思っていたミシェルにそこまで褒められるなんて。意表を突かれて私はたじろいでしまう。
(ミシェル様って気さくな方だったのね)
今回の戴冠式出席の旅でミシェルと一緒に行動する機会が増えて、新しい発見が増えたと思う。
ところで、アシェルとミシェルはかなり仲が悪いのにも気づいてしまった。
二人は親子なのに、ミシェルが離婚し父子で籍を分かつことになり、国内外で強力な力を持つマロウ家と国家主席のミシェルの関係も複雑で、家族の中でも色々事情がありそうなのだ。
「そろそろアシェルも来るでしょうね。もう用意は大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。ねえ、お父様?」
「············」
私が声をかけると、奥の椅子に座っていた男性がのっそりと立ち上がった。
「!! っ、お、お前は誰だ!
なぜ、怪しい男がアリス様の部屋に!!」
ミシェルは咄嗟に身構えた。
「怪しい者ではありません。
これは私の父です」
私の父、
───────つまり、今日この日、
エヴァグリーン国王を退くことになる男は、
私とお揃いの純白の正装服に身を包んでいた。
「は、 一体何を?
あなたのお父様と言えば、もう•••••••亡くなって•••••••••••••••••••••••••••••」
ミシェルは眉間に皺を寄せ言い難そうに言うと、
私から視線を外し、信じられないという様子で男を再び凝視した。
珍しく、非常に驚き狼狽している様子だ。
それも当然。
私の父はエヴァグリーン国王で、先日のマロウ家との戦争の後に崩御したと公式発表されているのだから。
「実は、“木人形”でお父様の身体を作ったのです」
「!! 木人形!?」
私は先の戦争で亡くなった数多の国民を復活させるべく、目下、精力的に木人形を制作中なのだ。
先ず一番にお父様を作った。
しかし、作ったものの、
肝心のお父様の魂は呼び寄せることができていなかった。
つまりこの木人形の中身は空っぽで、私が拙い魔力で無理に動かしているだけなのだ。
要は、腹話術のような要領だ。
まだ”本当のお父様“ではないとはいえ、
王国の代替わりの一大イベントである戴冠式には是非とも出席させてあげたい。
次代の国王、養子であり甥っ子であるカインを大いに讃えるべく華を添えて欲しかったのだ。
「死人が出席とは、非常識では!?
即刻、その木偶の坊を閉まってください!」
ミシェルの声は微かに掠れている。
「ええと、············でも···········」
やっぱり、ミシェルは怒っているのだろうか。
「でも、せっかく今日の為に作ったのです。
ミシェル様は、私に自分の衣装を任せると仰ってくださったではありませんか·········?」
私としてはようやく完成した作品を無駄にはしたくなかった。
「!? あ、あ、あなたは、亡くなった国王を、衣装や、まるでアクセサリーのように言わないでください!!
だいたい、国王が御存命となればこの戴冠式は何の為に行うのか、ということになってしまいますよ!?」
「········え、そうか、そうですよね········?」
確かにそうかもしれない?
私は首を傾げた。
けれど、
「これは所詮は人形なのです。生き返ったわけではなく、今更、王に戻れるはずもないのです。
お父様の魂はまだ戻らない·········本当に、ただの········木偶の坊で··············」
思わず、私の声は震える。
前回お父様の木人形を作った時は魂を呼び寄せることができたのに、今回はどんなに呼んでもこの木人形に息を吹き返すことはできなかった。
そして、カインは実母も既に亡くなっていて継母の王弟妃公爵夫人がいるが今は病床に着いている。
他に身内と言えば、王妃である私の母と従姉弟の王女の私だけだなんて寂し過ぎる。
ちなみに私の母も身体は木人形だ。
他には親戚筋には公爵家しかいない。
「あなたは、やはり、ディスィジュエス共和国に、私に、恨みを抱いておられるのでしょう•••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••」
ミシェルの暗い声が部屋に響いた。
「そ、それなら、カインのお父様の出席はどうですか?
王弟であるルゥ•ブラーシ•ボトルブラシュ公爵です。
国王ではないので政治的に大きな支障は出ないかと···········」
私は必死で食い下がった。
国王が生存しているという誤解を人々に招き、カインの戴冠が揺らいでしまうのなら諦めるしかない。
それならば、カインのお父様である王弟公爵だけでも出席させてあげたい。
「•••••••••••••••••••はっ!
あ、あなたは、幾つの木人形を作ったのですか?」
ミシェルは大きく目を見開いた。
「ええと、
制作途中もありまして·········それも数に含みますか?」
私は空で1・2・3・・・と数えた。
「••••••••••••••なんということだ
このような歪な形で王国を復活させるおつもりなのですか••••••••••?
そうか、これは復讐なのか•••••••••••••••
早く、アシェルを、ここに!」
ミシェルは譫言のようにつぶやくと、使用人にアシェルを呼ぶように言いつけている。
ミシェルの顔色は真っ青になっていた。
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