77 良い知らせとミステリアスな恋の魔法
アリス視点に戻ります!
戦場からアシェルの手紙が届いた。
「イヴリン!
アシェルが戦争から帰ってくるわ!
それにジョシュア君達に会ったみたい。皆無事だって!」
「まあ!よかったですわ!」
手紙を係から受け取り私に手渡してくれたイヴリンは、良い知らせに安堵した表情になる。
私達は国の賓客として白い議事堂の端の部屋に滞在している。
人質という立場上、外出は決まった場所にしか行けず、定期的に送ってくれるアシェルの手紙は楽しみの一つだった。
「アシェルったら、すぐに帰るっていつも書いてあるのに、なんだかんだで長かったわよね」
「本当ですね·······、ところでアシェル様も銃を手にして戦っていたのですか?」
「まさか!アシェルが戦うなんて、兵士でもない文官だし、視察でミシェル様に同行しただけと聞いているわよ」
アシェルに戦争なんて似合わない。
アシェルは優しいし······
アシェルは私に優しくて、そう、誰にでも優しいのだけれど、それだけじゃない謎めいたミステリアスなところがあると思う。
そうだ。アシェルはかつてエヴァグリーン国へマロウ家私兵団を率いて侵攻して来たこともあったじゃないか。
その時は敵だったのだ。
だけど、彼は、後になってエヴァグリーン国に蔓延していた不具合の木人形の暴走を止める為だったと弁明した。
王女である私の身を案じてのことだと言っても、旧知の間柄でもないのに、当然、疑問だらけだ。
本当にマロウ家独断の侵攻だったのか、実際はアシェルの父であり上司であるミシェルの支持を受けての国の正規軍の侵攻だったのかは分からないままになっていた。
どちらにしても、エヴァグリーン国を掌握する為の画策だろう。しかし、カメリア合州国という超大国の介入により、急遽、エヴァグリーン国とディスィジュエス共和国は停戦協定を結び、エヴァグリーン国の併合が決まったのだ。
現状、カメリア合州国という脅威が世界中へ覇権を広げ平和を脅かしている。
カメリア合州国は、空飛ぶ船から火を吹き散らし地上の国々を焼き尽くすほど凶暴な軍事大国だ。
エヴァグリーン国がどちらの大国の庇護に入るのがマシなのかは、まさに火を見るより明らかだといえる。
二国間の併合が決まり、カメリア合州国も当面は手を出してこないことを祈りたい。
併合をより強化する為に求められるのが
両国有力者の政略結婚だ。
アシェルがやたらに私に求婚してくるのも
·····まあ、そういうことなんだろう。
私はエヴァグリーン国が破壊されるのを目の当たりにして、国の再興の為に王族としてできる限りの責任は取ろうと決めている。
その為に”結婚”が必要なら安いものだ。
いくらだって受け入れる所存だ。
(今、我が国の生殺与奪の権を握っているのはミシェル様よね·······)
私は情けない王女だ。
エヴァグリーン国の王太子として負債を背負わされたカインにも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
私はカインの義姉なのに何もできていない。
(仕方ない。
私はこの国で、今できることをやるだけ。
まあ、居るだけのような気もするけど······)
脳裏に、唯一の家族であるカインの懐かしい顔が浮かぶ。
私は心の中で自分を鼓舞して、大きく頷いた。
アシェルは私を見つけると駆け寄ってきた。
「アリスーーーーッ!会いたかったーーー!!」
アシェルは私を抱き締める。
アシェル達の軍団が今日、首都へ到着するという噂を聞いて、私は白い議事堂前の広場まで出迎えに来ている。
広場は大変な賑わいで、既に幾つかの軍団は帰都していた。
「よかった、よかった無事で!アシェル!
·······う、ググ·········」
さすがにきつい。
アシェルは私より背が高いので、私はアシェルの胸に顔が埋まって息苦しい。
「······アリス········」
すると、アシェルの声はなぜか小さくなる。
「ん?」
「············遅くなってゴメンね。本当はもっと早く帰るつもりだったんだけど、本体に支障があって」
そう言ってアシェルは力を解いて、私の顔を覗き込んだ。
アシェルの顔は桃色に染まり瞳は潤んでいる。
「ほ、本体に!?まさか、戦場に本体で行ったの!?」
私はさっと血の気が引く。
「違うよ。本体はここに置いていったんだけどさ、ちょっと不具合で戻ったら使えなくなってたんだ。
それで、この木人形にとんぼ返りして、遥々長い道程を帰還しなくちゃいけなくなったんだ······」
「そんな?木人形にワープして戻ったら、本体が怪我してたってこと!?」
自分の知らない内に本体に怪我をしてるなんて怖いじゃないの。
「アリスはさ、生身の僕じゃなきゃ嫌?」
「そ、そんなことないけど ·······?」
魔法が強くかけられたアシェルの木人形は人間と変わらず、本体との違いは殆どないと思う。
だけど、アシェルはまるで本体にもう戻れないような言い方をするので心配になってしまう。
「そうそう、これ、採ってきたよ」
「え?」
アシェルの渡してくれた包みを開くと、透明の瓶に乳白色の液体が入っている。
「!これ、“山の塗料”! ありがとう!」
私はアシェルに依頼していたのを思い出す。
「ねえ、アリス、約束•••••••••••••••••覚えてる?」
え、約束?
「あ、ああ、うん、 覚えてるよ」
きっと、結婚、のことだよね。
どうせ、このままいけばエヴァグリーン国とディスィジュエス共和国の併合の証として私は年齢差の少なく執政者の息子であるアシェルと結婚する可能性が高いと思っていた。
それなのに、わざわざ私の了解を取るためにアシェルが難しい条件をクリアする必要ある?
というわけで、
えーと、問題ないよね?
「じゃあ、結婚、 ····しようか?」
私はおそるおそる聞いてみる。
アシェルを見ると、顔が真っ赤になってしまった。
それ、木人形の身体なのに?
さすがアシェルの木人形の魔法は凄い。
「ち、ち、違うんだ!
こ、こ、これ、僕が採ってきたんじゃないんだった!」
「え?そうなの?」
私は肩透かしを食らう。
「それに、まだ18歳じゃないし。結婚なんて早いよ!僕は婚約でいいと思ってるんだ!うん!ぜんぜん!」
ふっ、やっぱりね。
この歳で結婚なんて、普通はイヤだよね。
普通なら学校に通って遊んでる年齢だよ。
私だって前世の感覚なら間違いなくイヤだもん。
「じ、実はさ、ホラ!
君のところのジョシュアっていう家臣がいるでしょ?あいつに先を越されたんだ。
帰郷の直前に、あいつらが珍しい植物を採集してると噂を聞きつけて、この“山の塗料”を、譲ってもらったんだ。
あいつら、まともに戦闘もせずウロウロ北の森の生態系の調査をしてたんだよ!」
「ジョシュア君が······これを譲ったの?」
ジョシュア君が簡単にこの貴重な“山の塗料”を渡すはずがないと思う。もしや強引に奪ったのでは。
私が胡乱な目で見ると、
「い、いや、交渉だよ!?
ちゃんとした報酬は渡したとも!
アイツは『どうせアリス様に渡すのですよね、それなら』と言って快く譲ってくれたんだ」
「ああ、なるほど」
私はジョシュア君が稼げたのなら良かったと胸を撫で下ろす。
「本当は、黙ってるつもりだったけど
•••••••••このまま、のうのうと結婚するのは••••••••やっぱりフェアじゃない気がして••••••••
僕は君に嘘はつきたくない••••••••
君だけにはいつも正直でありたいと願っているんだ•••••••」
アシェルの熱意ある(?)演説に、私は気圧される。
そこまで言われると私も嘘がつけなくなるわね。
「えーと、実は、既にジョシュア君から“山の塗料”は受け取ってたのよ。それに、他からも入手できていたしね。だから、うん、深刻に考えないでね」
「え!?そうなの!?
じゃあ、これの希少価値ないじゃん!!」
「いやいや、沢山欲しいから、幾らあってもありがたいわ。本当にありがとう!」
私はアシェルの両手をしっかり握ってお礼をきちんと伝えた。
運良く、ミカエルからも木人形製作の御礼として大量に受け取っていた。
エヴァグリーン国の死亡者を木人形で蘇らせるのには、“山の塗料”が大量に必要なのだ。
私は本当にラッキーだと思う。
「••••••、僕、アリスを喜ばせられてうれしい。結婚は、残念だけど、どうせ、いつか必ず、するんだし•••••」
「うんうん」
まあ、そんなに急ぐことでもないわよね。
アシェルに笑いかけた。
「••••••••••っ」
アシェルは更に全身までも真っ赤に変化してしまった。やっぱりアシェルの人間らしさの魔法は遺憾無く発揮しているようだ。
「あ、でも、一番で持ってきてくれたジョシュア君の方が優先かもね。ははは」
「••••••••••••••面白くない冗談だね。アリスのバカ」
アシェルの顔は一気に青白く戻っていく。
みるみる魔法が解けたみたいで面白い。
「あっと、これもあったんだ。ミシェルからだよ」
アシェルは綺羅びやかな装飾の封筒を渡してきた。
「え、·······【戴冠式のご招待状】?」
「そう。ようやく決まったみたいだね」
「••••••••••••••!」
それは、待ちに待ったエヴァグリーン国王戴冠式のお知らせだった。
カインが、ようやく最後の王様になる時が来たのだ。
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