76 小さな魔女の大きなはかりごと アシェルside
引き続きアシェル視点です!
「ククク•••••••ホホホ•••••••」
「え? 母上?」
僕は身動きが取れないながらも、面食らった。
あの母上がこんなに陽気に笑うなんて。
僕は生真面目な母上が楽しげに笑うのを今まで見たことがなかったのだ。
「くっーー、足が痺れて動けない!」
僕は立ち上がろうとするが脚が動かない。
すると、部屋の隅にいた母上はあっという間に近づいて来た。
「ああ、可哀想に。
あなたは不完全な人間だわ··············アシェル」
「は?」
今度は陰気に嘲るように僕の顔を覗き込んでくる。
いつもにまして奇妙な母上だ。
僕達は決して仲は良くないけれど、母上は大事な息子である僕を愚弄するようなことは決して言わないのに。
いや············違う、な
「お前は誰だ?」
それを聞いて、その母上似の女は口の端を上げた。そしてガクッと顔を俯けると両肩を揺らして大声で笑い始めた。
「•••••••••••••••••••クックック•••••••••
久しぶり••••••••••••
あら?••••••••••••会ったばかりだったかしら?」
やっぱり
こいつはあの婆さんだ。
「魔女」
「フフン········」
顔を上げたそいつは、鼻を鳴らして肯定した。
北の国境の山小屋から、遥々ここまでどうやって来たのだろう?
魔女らしく箒で飛んできた?
僕の木人形のワープよりも早く?
「なぜここに? 母上をどうしたんだ?」
すると、陽気なのに陰気でもある奇妙な魔女は、今度は大袈裟に仰け反った。
「ホーーーッホッホッホッ••••••••憑依しているだけよ。カッカしないでよ•••••••••••••まあ、ただの人間のアンタが怒ったところで、痛くも痒くもないんだけどね••••••••••?」
「この前会ったばかりだろう?
まだ僕に用があるのか?
神力を僕に返す気はないと決裂したじゃないか?」
僕は国境の山小屋でこの魔女に会った時に、曖昧だった記憶を取り戻した。
僕はこの地球を統べる偉大なる神様だった。
そして神力の大部分をこの魔女に奪われていることに気づいたのだ。
「クックック、別の契約の履行でね。
このマロウ家の女の立場が必要になったのよ」
「ハァ!?僕の目の届くところでいけしゃあしゃあと!許さないぞ!」
僕は怒鳴る。
しかし、憎らしいことに魔女はそんな僕の様子を見て却って嬉しそうだ。
「フフン♪
今のあなたがどうするっていうのよ♪
この世界で、今の私より力がある者はいないというのに·········クックック、クスクスクス」
魔女はアンバランスにも母上の整った顔に満面の、下品な笑みをうかべた。
「く••••••••••••••••、救いようのない魔女のくせに、
$ⅲ✖|Ⅳς∇••••••••••••••••••••••••••••••••••••••!?」
蔑む用語を口にしたのに、
魔力で封じられたのか途中から言葉が消えた。
身体どころか言葉も制限を受けるなんて屈辱だ。
今の僕には大した神力は無い。
ああ、僕は、
この地球で無尽蔵の神力を持っていた、
最強の神だというのに。
「あら、ふ~ん?悔やんでいるの?
力を失うことは、あなたが願ったことなのに」
「••••••••••••••••••••••」
あの時はこんな力要らないと思ったんだ。
あの時、僕が願ったこと、
それは彼女、右月と同じ、
人間になること。
僕は彼女と同じ生き物になりたかったんだ。
「フ、フフフフフフフフフ••••••••••」
魔女はニヤニヤして背中を丸めて部屋をうろうろ歩き回る。淑女だったら最低の振る舞いだ。
「もう、うるさいよ」
今思えば、アリスを守る為にもう少し力はあっても良かったかもしれない·········なんて、なんて僕は、ああ、浅はかなんだ。
だけど、彼女が人間だから僕も人間になりたいという思いは、今でも変わることはない。
実は、かつては彼女も神様だった。
大大昔の地球の悲劇、
神々の住まう天上が崩落する天変地異が起きた。
その時に僕以外の殆どの神々は堕ちて消滅した。
一緒に落下した彼女は、地上で人間として転生する運命になってしまったのだ。
それから僕は彼女が人間に転生する度に探して世界中を追いかけていた。
何度も何度も短い人の一生を繰り返し、
この地獄といってもいい醜く穢らわしい人間の世界に苛まれ、僕達は心が休まることはなかった。
だから、僕は間違ったこの世界を再構築する為に新しい神々を創り出すことにした。
そして、彼女とこの退廃した世界を正しい方向へ導くために様々な神を創り出す活動を続けてきたのだ。
そうした善行を積んだおかげで、近々彼女の神格も高まり天上へ上がる予定だった。
僕と彼女は二柱で一柱。
二柱がそろわないと、新しい神は創り出せない。
二柱の役割は、前世の日本の神話の夫婦神に例えられるかもしれない。
伊邪那岐
伊邪那美
名前は違えど、
この世界にも酷似するストーリーが存在する。
僕達は世界の理によって定められた、
運命の夫婦神だったのだ。
そして前世の日本でも、僕達が夫婦神として出会い、山奥の『森の神の工房』で神を生み出そうと僕たちが日々精進している時、邪魔者が現れた。
奴は右月の義理の弟だった。
右月はその義弟の嫉妬心により問い詰められ、崖から二人で落ちて死んでしまったのだ。
僕が崖に駆けつけた時にはもう二人は落ちた後だった。
──────────────────────
『おかあさま』
崖の縁から悲しそうに奈落を覗いている子供がいる。
右月にそっくりで驚く。
子供は右月に創り出された神だと自称した。
それが、今の奇妙な禍々しい魔女の以前の姿だ。
『おかあさまがおちてしまった。
おとこのひとと心中してしまったのよ』
『嘘を言うな!』
心中なんてとんでもない。僕は信じない。
『うそじゃないよ。わたしはおかあさまの心がわかるから』
『────右月の心、だと?』
この子供は神などではなく、
言葉巧みに相手の心を揺さぶり意のままに操る、忌まわしき小さな魔女だった。
そう、右月は神作りにいつも失敗していたのだ。
『しろい神さま•••••••わたしがてつだってあげよう』
『────手伝う、お前が?』
僕は彼女の死を目の当たりにし、心が疲弊して壊れる寸前だった。
僕にとってこの世界は幾度となく愛する人を失う地獄なのだから。
『おかあさまの心がほしいのなら、しろい神さまも人間にならなくちゃだめだよ。おあかさまは人間にしか心をひらかないから』
『何を·····』
虚言だと思いつつも、右月が一緒に崖に飛び込んだのはあの卑しき人間の男だという事実が僕の心に突き刺さる。
思えば、人間である彼女と神である僕との距離はいつも広い宇宙の星と星の距離ほど遠かった気がしてくるのだ。
『人間に、僕も、』
しかし、僕は人間になんてなれるはずがない。
神を人間にするなんて────堕落でもしないとなれないはずだ。それこそ天から堕ちるような。
神聖な神力しか持ちようのない己が恨めしい。
『わたしに神さまの力をください。
そうしたらその聖なる力をわるい魔力にかえて、しろい神さまをあしき人間にしてあげるよ』
(”神力”を”魔力”に変換するなんてできるのか?
二つの力は別の性質を持つはずだが·······)
僕は不審に思ったが、人間になる誘惑と早く死後の彼女を追いかけたいという焦りが勝った。
それは小さな魔女の大きな謀だった。
──────────────────────
「約束は守ったでしょう?
あなたの希望は、【人間の王子と隣国の王女として彼女と出会いたい。そして皆に祝福され盛大な結婚式を開く】だものね?
とんでもなくロマンチックな希望だと思ったけれど。··········クスクスクス··········」
「王子?僕は王子ではないけど?」
僕は首を捻る。
以前の僕はかなり細かい希望を出していたのだ。確かに、少しでも苦しみの少ない人生にする為にそう願ったのだと思う。
じゃあ、この奇妙な異世界は僕の希望を元にこの魔女が創り上げたということなのだろうか?
だとすればこの魔女の強大な力に驚くが、
その魔力の源泉が世界を統べる神である僕の神力を変換した力だと思えば、納得できないことはない。
「フフン? 実質、この大きな国の王子様でしょう?国家主席の息子なんだから。
私は約束は守る魔女なの──────どう?」
「どう、って」
「これで満足なのかしら?
っていってるのよ!オホホ!」
高らかに嗤うこの魔女に、僕はますます腹が立ってくる。
「一体、お前の望みは何なんだーーー?」
「強大な力を手に入れたわ、フフフ」
「だから、その強大な力で何をしたいのかってことだよ!」
僕は今だベッドから動き出せないで身を捩った。
「フフフㇷ」
コツ・コツ・コツ・コツ・・
魔女は僕の部屋の窓へ歩いていく。
カーテンは開いていたが、窓ガラスに映るのは夜の漆黒と月ぐらいだ。
「この地球が欲しいのよ? 私」
こちらを振り返った魔女の笑顔の後ろには、
見たことのないような大きな満月が輝いていた。
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