73 魔女にハッピーエンド アシェルside
引き続きアシェル視点です!
「私は右月ではないわよ?」
「やっぱり!びっくりした!あんまり似ているからさ····」
僕は目をパチクリした。
ただのそっくりさんのようだ。
”右月”とは僕の恋人アリスの前世の名前だ。
前世はこことは別の世界で······
僕とアリスはこのおとぎ話のような不思議な世界に異世界転生してしまったのだ。
実は僕は前世の記憶がはっきりしていない。
覚えているのは、日本という国の山奥で右月と二人で暮らしていたことだけだった。
二人きりで木人形の制作工房を運営して細々と生計を立てていた。僕は師匠で右月は弟子でもある。
貧しくても二人で協力し全てを補い合う生活は率直に言えば幸福そのものだった。
しかし幸せは長くは続かないものだ。
最悪の邪魔者が現れた。
右月の義理の弟、敦人だ。
奴は右月を山の工房に訪ねて来て、荒れ放題の原生林に彼女を連れ出して、あろうことか崖から滑り落ちて一緒に死んでしまった。
••••••••••••••••••
僕には、
その絶望のその後の記憶は無い。
でも、きっと僕も直ぐに右月の後を追って崖に飛び込んで死んだだろう。
僕が彼女のいない世界でのうのうと生きていけるはずがないのだから。
僕がこの記憶を取り戻したのは、実父であるミシェルが、“建国神話”に夢中になり、エヴァグリーン国の王女アリスに目をつけた事から始まった。
驚くこと僕は、ミシェルの収集したアリスの個人情報の資料を一目見ただけで右月だと分かったんだ。
僕の実父、ミシェルは“建国神話”のオタクだ。
ちなみに“建国神話”には実在の国名の表記はない。
それなのに、ミシェルは勝手にエヴァグリーン国とディスィジュエス共和国に物語を重ねる事で、あろうことかこの世界で“建国神話”を実現させようと画策しているのだ。
結果、ミシェルは物語に沿うことでアリスや隣国を政治的に追い込むというとんでもない行動に出ている。
僕がこの世に生を受け、残念ながらあの悪魔のようなストーカー•ミシェルを実父としなければならなかったのは、奴の魔の手からアリスを守る天啓を受けたのかもしれない。
彼女は今でも変わらず、この世界における最上の愛を実現し続けている稀有な存在なのだから。
「ふっふっふっ、
あなた達は私に懇願しなくてはいけないわ。
私があなた達のこれからの命運を握っているのだから」
その女は、僕と、その場に突っ立っているカイン似の不審な男を代わる代わる眺めて勝ち誇ったように言った。
「うっふっふっ•••••••でも、どうなるかしらね?
最終話も既に書いてしまったしね•••••••••••クククク•••••••••••」
(これは·········可憐な美少女の皮を被った、得体の知れない凶悪な物体········かな?)
解読不可能の禍言を吐くこの女は、見た目だけは美しかろうが声なんてしわがれていてまるで魔女の婆さんみたいだ。
整った容姿を最大限に活用して大輪が咲いたように振る舞うが、どうも臭ってくるのは怪しく甘ったるいラフレシアの巨大花の刺激臭のようである。
「さあて、 !······私はこれで失礼するよ」
ポンと両手のひらを打つと、カイン似の青年はそそくさと立ち上がった。
「なんだよ、僕も······」
僕は心の底ではここで謎を解かなくてはいけないという思いが渦巻いている。
だけど同時に、この男と一緒にここを立ち去りたいという焦燥感にも駆られていた。
「そうだな、やはり、君も恐ろしいのだろう?
ここは(魔女の住む)この世の果ての魔境なのだから······
こんな辺鄙な山奥に君のような子供が来ては餌食になるばかりでひとたまりもない。
私と一緒に山を下りるべきだね。
さあ、お家に帰りなさい」
「はぁ? はん!!?
僕は子供じゃあない!高貴な血筋をひいて高度な魔術も使えるんだ!
お前と一緒に山を下りない!
お家に帰らない!」
咄嗟に僕は、心 裏腹のオウム返しをしてしまう。
コイツが発言の端々に大人風を吹かせるから癪に障ったんだ。
「じゃあね」
すると、僕の返答を聞くか聞かないあっという間に、カイン似の男は一人で風のように小屋を立ち去ってしまったのだった。
「えーと、僕もそろそろ行こうかなあ·····」
やたらと落ち着かない僕は、
やはりここから立ち去ろうと思う。
「さっきの男も昔からの知り合いなのよ。
ウフフ、久し振りに訪ねてくるなんて、やっぱり新作の結末を知りたかったみたいね」
「え········結末を······?」
それって、あの“建国神話”とされる【森の王女シリーズ】の最終話【森の王女と怖い怖い宇宙への招待】のことだろうか?
僕が先ほど読んだ限りでは、”宇宙”なんてワードが出てくる、とんでもなく荒唐無稽な代物だったけれど。
も、もしかしてあの男も“建国神話”オタクなのかな?
「そうよ。
ハッピーエンドかバッドエンドか気になるでしょう? 誰でもね········」
やけに神妙に女が呟けば、
ほんの少しだけ右月の雰囲気に見えないこともなくて、思わず僕はぞっとした。
右月の生まれ変わりは間違いなくアリスなんだ。
前世と後世とで同じ身体はあり得ないので当然だ。
それなのに、この女はこんなにも外見だけが似ているなんて懐かしさよりもずっと奇妙さと嫌悪感が際立つ。
(それにこの小屋の内装は·······どうしても前世のあの家を思い出すんだよな·········)
前世に、僕が右月と夫婦で仲睦まじく住んでいた家がちょうどこんな感じだった。内装は彼女が良いように飾りつけていたはずだ。
あの時は楽しかったなあ。
いや、今だってアリスがいるから楽しいけどね。
「どうして似ているんだろう········ここは違う異世界なのに·······」
僕が部屋を見渡して呟くと、右月に似た女はニンマリ笑う。
「この小屋は、あの時からずっと私が住んでいるの。お母様が死んでから、ずっとずっと────」
「お母様、って·········· 」
なぜか、僕は不安が募る。
「あなたがよ〜く知っている人じゃない?」
そう言うと、
女は身体をくねらせる。
僕は背筋を伸ばして、
女を真っ直ぐ見据えた。
「•••••••••••ずっとずっと、なんて
君は一体、幾つなのさ?」
「まあ!女性に歳を聞くなんて!
正気? オーーーホッホッホッ!」
女は高らかに笑った。
やっぱり、僕を馬鹿にしているんだな。
「でも、そうね────
私はどのくらいここにいるのかしら?
世界の滅亡から新たな世界の再生を経て、
どのくらいの時が経ったのかしら?
まあ、そんなに経っていないだろうけれど」
滅亡?
再生?
••••••••••
「とんでもない妄想癖!」
僕は力いっぱい鼻で笑ってやる。
「あの時、
”世界を統べる神”が絶望して世界を滅ぼしてしまって────」
「“世界を統べる神”って·····························」
万全で身構えた僕なのに、優越たっぷりでその女は微笑む。
「お母様が崖から落ちて死んでしまって、
神様もいないし、
一人残された私がこの世界を再建したのよ。
私は魔女となって────」
「崖 •••••••?」
それを聞いて、
僕の血の気は引いていく。
「アハハ、声色が変わったわね?
クスクスクス·······
そうやって忘却の安全地帯に自分を置いていられるのも今のうちだと思うわよ?
この世界のこと何にも知らないままでいいの?」
「! それはダメだよ!
僕はアリスの為にも、
どうしたらこの世界がハッピーエンドになるかを知らないといけないよ!」
僕は堂々と、
この恐ろしげなる魔女の正面に立つ。
「あれ
もしかして、お前は、あの時右月が作っていた木人形なんじゃ──────?」
そうだ。あの時、彼女は木人形を作っていた。
何を?
──────────神様を。
そしてその指示を出していたのは
──────────この僕。
「“世界を統べる神”って••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••僕のことかもしれない」
僕は腰が抜けるほど驚いた。
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