72 完結していた絵本 アシェルside
場面変わり、アシェル視点です!
僕はとある小屋の前に立っていた。
「なんだろう、この小屋は────」
ここは山奥。
僕は北の戦地を迂回しつつ北の森に入り、“山の塗料”を探している。
“山の塗料”とは、ウルシという希少な樹木から採取する樹液らしいということまでは突き止めることができた。
この情報は、エヴァグリーン国の調査団が調査したものだ。僕は彼らから我が国の優位な立場を利用し脅して聞き出した。彼らは北の国境の自然環境を調査研究し新しい産業へ結びつけたいという狙いがあり軍隊に同行しているのだ。
“山の塗料”なんて、僕ほど魔力のある人形作家には必要ないけれど、まだまだ未熟なアリスには人形制作に有効な材料かもしれない。
何より恋人であるアリスが切望しているので入手しないわけにはいかない。
そして、あの【森の王女シリーズ】に登場するアイテムなので建国神話の重要なヒントになるかもしれないという期待もあった。
ずっと一人で山を彷徨き。
けもの道を進んで森を抜けると、
突如としてこの山小屋が現れた。
簡素な造りだけど、赤い屋根で洋風のちょっと洒落た雰囲気の小屋だ。
家の裏へ回れば、小さな納屋が建っており、大工仕事の材料に使うような様々な種類の乾燥した木材が所狭しと置いてある。
「うーーーーん、
誰かの隠れ家的工房って感じだな。
何でこんなに危険な紛争地帯に建っているんだろう?」
この辺の住民は全て避難したと聞いている。
それにしても、
この小屋は不思議と懐かしい感じがする。
「あれ? 僕、ここに来たことがあったかな············」
ギギギーーーイ
ドアノブに手を掛け硬いドアをこじ開ける。
僕はそのドアの中へそっと滑り込んだ。
中はやはり工房のようで、木工芸に必要な道具が当然のように全て揃っているようだ。
他の部屋を見て回れば、
どの部屋も内装はカントリー調にコーディネートされ雰囲気良くまとめられている。
「なんか、ノスタルジーだな········」
この古くさい小屋の中身は、懐古趣味なのか前時代の遺物で飾られているように見える。
だけどホコリが積もるわけでもなく、こまめに掃除がされているのかピカピカだし、ベッドのシーツもカーテンも新品のようにアイロンと糊付がされ、それなりに清潔で暮らしやすそうだ。
居間のような部屋に入れば、一角には本棚があり絵本や小説や雑誌が並んでいる。
ふと、僕はそこに置いてある、色味の美しい絵本を一冊手に取っていた。
「え•••••••••これは、まさか•••••••••」
僕は背表紙の文字が目に入ると慌てて本を開いた。
それは、
【森の王女シリーズ】の童話の絵本だったのだ。
「ウソだろ!?読んでいない話まである!?」
僕が絵本のページをパラパラめくると、
思った以上にページ数が多い。
未知の情報量に、
本を持つ僕の手は思わず震えた。
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【森の王女と怖い怖い宇宙への招待】
神様は森の王女に仰いました。
あなたは沢山の生命を作り出したので天国へ行くことができます。
王女は喜びました。
しかし、それをおもしろくないと思う魔女が邪魔をしようと企みました。
魔女は王女の弟王子である、南の国の王様を唆して戦争を引き起こしました。
そもそも、王女と王子は姉弟ですが、北と南に分かれた国の女王と王でお互いに仲が悪かったのです。
神様は戦争に勝った方の王様を天国に招待すると約束し戦争を見守ることにしました。
果たして、戦争は弟王子の南の国が勝ちました。
弟王子は北と南の両方の国の王様になり、
神様から天国へ招待する約束をしてもらいました。
王女は罰として追放されます。
王女とその恋人は粗末な船に乗り込みました。
しかしそれはなんと魔女が悪戯した船でした。
船は故障していたのでしょう。
右へ左へ右往左往、そして、上へ上へと飛んで行き先が定まりません。
終いには、船は奇妙な宇宙船になって宇宙へ飛んで行ってしまいました。
さて────
王女とその恋人は何処かの星へ辿り着いたのでしょうか?
宇宙の噂では、
ふたりは幸せに暮らしているとのことです。
もしかしたら北と南の国が滅亡するよりずっとずっと長く永遠に。
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絵本の最終話まで一気に読んでしまった。
アリスの顔が浮かぶ。
この本の内容が僕とアリスの未来に関わっているのではと、僕は不安が綯い交ぜになった複雑な感情だ。
────これは予言なんだろうか?
僕は懐にその古びた絵本をそっと忍ばせた。
「此処で、何をしている?」
「······························っ!?」
突然、背後から声をかけられる。
振り返れば、見知らぬ男が立っていた。
全身黒ずくめの印象的な服を纏っている。
「えっ、お前、カイン·············?」
いや、違うか?
本当にそっくりだけど、
カインよりは歳をとっているような?
ということは、カインには兄がいたのか?
いや、だとしたらアリスの従兄弟ということにもなってしまう!これ以上鬱陶しい身内なんて要らないぞ!?
僕は身構えた。
「早く出ていけ。
─────ここは、恐ろしい魔女の住処だぞ」
神妙な顔で僕を脅してくる。
訳知り顔のコイツは、一体、何者なんだ!?
僕はまるで天敵に遭遇した猫のように背筋が逆立つのを感じる。
カツンッ!カツンッ!
先の尖った靴を鳴らし、
そこに現れたのは·············
「ふっ、ふっ、ふっ、
あなた、【森の王女シリーズ】の新作を読んだのね!」
可愛らしい鈴のような声が響いた。
「えっ!? えっ!?」
僕は女の顔を見て驚愕する。
「··········································右月?」
僕は呟いて、後退りした。
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