71 悪者のプライベートな野望
先週に続き投稿です!
「まるで青春を取り戻したようです!」
ミカエルの喜びようといったらなかった。
「本当に、この身体は、かつての自分そのものです!」
「そう? それなら良かったです」
さすがにまるっきり同じということは有り得ないけれど、幸いにも昔の写真から得た彼のイメージは正解だったようだ。
つまり、思った以上に本来のミカエルは私の弟カインに似ていたらしい。
「本当に素敵ですわ!以前のお姿は中性的でとにかくお美しかったですが、今回は男らしく凛々しくて、カッコいいです!」
一緒についてきたエヴリンも興奮して褒めそやす。
ミカエルが以前使用していた美しい木人形は30年以上前に海外を中心に流行っていた量産品のモデルで、何と男女兼用だったらしい。
現在、木人形業界は魔法と科学の融合期であり、使用者に強力な魔力が必須となる旧型モデルの生産量は激減しているとのことだ。
ちなみに今は魔力が無くても使える木人形が主流になっている。
「本当に、カイン様とそっくり!まるでご兄弟みたいですわ!」
「本当ね、こんなに似るなんて。ふっ、カインが会ったら腰を抜かしそう」
黒髪、痩せ型だが程よく筋肉がついている、身長はそこそこ高い。そして顔はもちろん清涼な顔立ちの美形。
「うーん、我がエヴァグリーン国の理想の男性像を凝縮したような容姿よね。
ミカエル、絶対にエヴァグリーンに来たらモテると思うわ······」
我ながら身内贔屓もあって、ついうっとりとしてしまう。
「そ、そんな・・・そうですか?」
ミカエルは顔を赤くする。
ミカエルって実はけっこう歳なのに、すごーく純粋な人かもしれない。
「素晴らしいわ!とても細かい表情で感情描写ができているわよね!」
さすがミカエル、生身にしか見えないわよ。
普通、未経験者なら木人形での顔の感情表現は何ヶ月もの訓練によって培うものらしいけれど、彼はずっとこの身体で慣れ親しんできたようにあまりに完璧だった。
木人形に入れなくなった私とは全く別の次元の話だわ。
「そうですね·········いや、本当にこの身体は不思議なくらいしっくりくるのです。頭の天辺から足の爪先まで何から何まで完璧です。
当時、本来の身体だった三十代のことが様々と思い出されます。今思えば、あの頃は若く今より格段と自由でした。しかしそれを失い、汎用品の木人形のガラスの瞳に映る風景は、どこか世界と自分との間に一線を引いたように遠く曖昧に見え、私の心を人形の中の世界に閉じ込めてしまったのです」
「そんな··········」
私はミカエルの心中を打ち明けられて衝撃を受ける。やっぱり、それだけ自分自身の身体というのは大事ということなのだ。
「このご恩は必ず。私は直ぐに明日にでも北の戦地へ向かいます。
────アリス様、これから詳しい打ち合わせをしていただけませんか?」
「········え!今から、ですか?」
木人形制作のプロではない私は金銭などの報酬を求めるわけにはいかない。しかし何か御礼をしたいと食い下がるミカエルに、アシェルを戦地から帰す手助けをして欲しいとお願いしたのだった。
「ええ、事態を鑑みるに早い方が良いかと」
確かに、アシェルがいるのは戦場なのだ。
私はありがたく頷いた。
木人形リハビリテーションセンターの小さな会議室を借りて、ミカエルと私とエヴリンの三人で打ち合わせを始める。
私は新しいミカエルの正面に座った。
大きなカインのような姿と向き合うのは、身内と外でばったり会ったかのような恥ずかしさがある。
「そもそも、アシェル君は仕事で戦地へ赴いているのですか?」
ミカエルが質問する。
「ええ。でも、あまりに遅いので心配で。も、もしや、私が“山の塗料”を欲しがったからそれを探して手こずっているのでは、と·······」
私のワガママで彼を危険に晒しているかもしれないと思うと罪悪感で押し潰されそうだった。
「やはりそうなんですね。
戦地訪問へ、アシェル君までミシェル党首に同行するというのは正直不思議だったのです。党首不在の執務の穴を埋めるのが侍従官の仕事でもありますので」
「や、やっぱり」
私は責任を感じて胸が苦しくなる。
「しかし彼も善人ではありません。
はたして、無償でアリス様の為に行動しているのでしょうか?」
「え?」
善人ではない····って?
そ、そんな事言い切っていいのかな。
アシェルだってミカエルと同じ政府の人間。直属ではないとはいえ同僚なのに。
「そう、それが!全く無償ではないのですわ!
アリス様ったら、けっ──」
事情を知っていたエヴリンはここぞとばかり口を開けた。
「しー!しー!
エヴリンったら!お、おかしな事言わないでよね!ちょっと、プ、プライベートだし!」
私はエヴリンに勝る大声でそれを遮る。
私はアシェルに、“山の塗料”を入手してくれたら結婚してもいいよ····的なことを言ったのを思い出す。
ほとんど冗談みたいな約束とはいえ、一応、人質王女の身の上で結婚なんて軽々しく言える立場ではないかもしれないわよね。当時の私って、ほんとバカ!
「あ、あら、私は別に········」
エヴリンは途中で遮られて口を尖らせている。
「 “けっ”?
••••••••ほお•••••••••まさか、アリス様はご自分の大事なものと引き換えに••••••••••••••••••」
なぜかミカエルの声の凄みが増していく。
「えっ、そんな事は、ないですよ!?」
「•••••••••••••••••••••」
なぜか異様な雰囲気になっているような。
ところで、ミカエルとアシェルって知り合いかな?
アシェルはミカエルの事知らなさそうだったけれど、ミカエルの方が歳上だし、アシェルの事を当然知っていてもおかしくない。
アシェルはCP党党首ミシェルの実子で、名家マロウ家の養子でもあり、政府の高官に就いている。こんな特別エリートなサラブレッドが有名人でないはずがないのだ。
「アリス様が人形制作に熱心で効能の高い“山の塗料”を欲しがっているのを知り、足元をみて自分の要求を無理矢理叶えようなんて、紳士の風上にもおけない••••••••••••••」
ミカエルからは微かな怒りが感じ取れる。
「は·····ははは········誤解です、よ·········」
私は目が泳いでしまう。
そもそも、私が“山の塗料”が欲しいのは、エヴァグリーン国王と王弟や亡くなった国民の木人形を作り蘇らせたいからだけど、
もしかして、これって言わない方がいい?
よく考えたら、前王や国民を蘇生するなんて、エヴァグリーン国を吸収・併合したいディスィジュエス共和国としては看過できない行為かもしれない。ミカエルも政府の高官なのだから注意が必要だわ。
アシェルがいつもあまりに寛容なので、国同士の微妙な摩擦関係をうっかり忘れてしまいそうになる。私は気持ちを正さないといけないわ。
「•••••••••ならば、早くアシェル君を連れ戻さないといけませんね。“山の塗料”はもうここに潤沢にあるわけですし」
ミカエルは口角の片端を上げて微笑した。
そうなのだ。ジョシュア君が持って来てくれたのに加えてミカエルが提供してくれた分もまだ残っている。多いに越したことはないけれど、アシェルの命を引き換えにしてまですることではない。
「そ、そうなんです!お願いします!」
「お任せください•••••••アリス様と”けっ”••••などという、彼の醜い野望を打ち砕くためにも••••••••••」
ミカエルは呟いた。
「あのう?」
「穏便に済みますかね〜」
エヴリンが戯けるように首を傾げた。
まさか、
私とアシェルとの約束······バレてないよね?
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