69 いつからわたしを知っているの
ミカエルは私が王女ということはとっくの前から知っていたらしい。
「え、もしかして始めから?」
そういえばミカエルって始めからフレンドリーだったのよね。
よく考えたら不自然だったのだ。
私は彼と出会った、ライラックシティ•ステーションでの出来事を思い出していた。
「すみません。実はあの日は、CP党から人質のエヴァグリーンの王女がライラックシティへ向かったので保護するようにと極秘の指令がありまして。
ライラックシティは観光庁の管轄ですので」
「そうだったんですね········」
まあ確かに国家レベルの人質を見張りもつけずに放つはずはないかと、今なら納得できる。
あの時は仮初めの人質のつもりだったし、かなり呑気に構えてたけどね!
「黙っていてすみません·······」
「いえいえ、守っていただきましたし。お仕事の邪魔もしたでしょうし、寧ろあの時は本当にご迷惑をおかけしてすみませんでした」
ミカエルは逆に謝られて目を丸くしたが
すぐに笑顔になった。
「あの時の観覧車でのアリス様との一時は本当に楽しかったです。
私は存外に長生きなのですが、時が止まったように感じたのは2度目でした」
ミカエルは私が王女だと互いに周知したからか、“さん“から“様“呼びに変えていた。
「2度目?」
「1度目は、私が病気になって身体を失うと分かった時にとある方から木人形を授けて頂いた時です」
「まあ···········」
私は呆れて溜息を漏らした。
そんな人生の一大事が1度目なのに、たかだか都会をさまようお上りさんを案内しただけの出来事を2度目に数えるのはどうなのだろう。
「面白いジョークですね?」
「いいえ、本心です」
シンとしてしまう。
私たちは黙って見つめ合う。
え、もしかして··········
これは·············暗に·············
「·········もしかして木人形の依頼ですか?」
「いいえ!滅相もない!
王女に木人形を作っていただくなど、············考えるだけでも恐れ多い事です」
慌てて否定しつつも、
ミカエルの瞳は私の瞳から逸らされることなく真摯に射抜いてくる。
これは、紛れもなく懇願の眼差しだった。
「···········ですが、万が一にも3度目に時が止まることがあるのならば、···········それは間違いなく、アリス様に木人形を作って頂いた時だとは、思っています」
「まあ···········」
私はもう一度呆れて溜息をついたのだった。
結局、悩んだけれどミカエルの注文を受けることにした。
とはいえ、私って”18歳の理想の自分木人形”1体しか作ったことないんだけど?
ほぼ素人なのに良いのだろうか?
それを伝えたけれど、ミカエルは全く気にする様子がない。この全幅の私の腕への信頼は一体全体どうしてなのだろう···········
そして、私がミカエルの木人形を作る交換条件は。
私は、ミカエルにどうして私が木人形に入りたかったのか聞かれたので、アシェルが心配なので戦地へ行きたかったと話した。
(だって”山の塗料”は今、私の手元にあるのだもの。こんなことになるなんて、アシェルには申し訳ないわ······)
ミカエルは私の代わりに北の戦地へ行って、アシェルの帰還を促してくれることになった。
ちょうど折良く、ミカエルも北部へ観光庁のお仕事で向かう予定があるというので、国境地域へはもう少し足を伸ばすだけだという。
「アリス様、本当に宜しいんでしょうか?私なんか一介の国民が木人形を作っていただくだなんて·······」
「ううん!私も久しぶりに木人形を作れていい練習になるわ。
というか、·······ほぼ練習台にするようで却って申し訳ないけどね」
と言ってもミカエルはやっぱり恐縮している。
私はお金は貰わないようにしようと心に決める。
私たちは、『木人形リハビリテーションセンター』のミーティングルームを借りて、今後の作業日程の打合せなどをしていた。
「えっと、木人形を作るに当たって、まずは何をしたらいいのかしら」
私は制作者としてさっそく情けない質問をする。
「まず········?そうですね、まずは木人形のデザインでしょうか·······?」
「あっそうね!えっと、ミカエルはどんな容姿がいいの?やっぱり以前の木人形のデザインかしら?
本当に素敵だったものね!」
「そうですか?あれは量産品のモデルだったんですよ。しかも30年前のです。かなり古いのでもう使用者は見かけなくなりましたが」
「ええっ!?30年!?量産品!?」
ミカエルは頷いた。
木人形は科学技術ではないので、何十年前であろうと技術の差は少ないそうだ。
「きちんとメンテナンスをすれば結構もつものなのね」
あのミカエルのカッコ良くて万人にウケる容姿は量産品だったなんて。
というか、30年前に成人男性の木人形に入るなんて、ミカエルって一体、今幾つなの!?
「私は、以前の量産品ではなく、········私本来の容姿のデザインでアリス様に依頼したいと思っているんです」
ミカエルはなぜか恥ずかしそうに頬を染めて言った。
「なるほどだわ。それでいきましょう」
私の姿で可愛らしく恥じらうミカエルを見て、本物より仕草がカワイイなんて、ズルいわね··········
なんて私は呑気に構えていたのだった。
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