65 北の戦争と私の不安
戦争が始まった。
北の国との国境地域に住む民族との抗戦が活発になったことによる、ディスィジュエス共和国軍の北の地域への侵攻が始まった。
「ええっジョシュアくんが戦争に!?」
「ええ、兄は大分ディスィジュエス共和国に慣れてきたので、既に北の地に潜入しているんです。そこで後から来るエヴァグリーン国の同盟軍と合流する予定なんです」
エヴリンはそうあっさり話す。
部屋の掃除をしていた私は箒をさっさっと動かしつつ、おろおろと部屋を歩き回っていた。
こうして、何かをしていないと落ち着かないのだ。
エヴリンもそれが分かるのか、王女に不釣合な箒を離さない私を咎めることはない。
エヴァグリーン国からも同盟軍を派遣することになっている。こちらも戦後なので兵など集めるのは大変だが体裁は整えないとならない。
現在既存する軍から同盟軍を編成中らしい。
「そんな、心配だわ·········」
「アリス様、兄はアリス様の執事をやったり門番をやったり様々な仕事に就いてきましたが、本職は武士なんです」
「ぶ、武士って??」
まさか、前世の日本の歴史にでてくる武士じゃないわよね。
「戦う者、という意味です。我がウィロウ家は武門なのです。兄が今まで様々な仕事を体験してきたことも敵地での潜入活動の予行練習の一貫なのです。全てが戦争に繋がっていたのです」
「そうなのね··········ただお気楽に職を転々としてると思っていたわ」
私は驚いてしまう。彼に真面目は似合わない。
とはいえ、ウィロウ家が武門であろうと、今まで私と過ごしてきた時間までも全てが戦争に繋がっていたと言い切られると、とても悲しい。
万が一、ジョシュアくんに何かあったら、彼は戦争とは無縁の思い出を一つも持たずに、後悔などしないのだろうか?
そういえば、王女の自決用にと私の部屋の壁に拷問器具を取付けていったのは、当時私の執事だったジョシュアくんだったわね。
あれってもしかして冗談じゃなくて本気だったの?
ジョシュアくんって超シビア!! 怖っ!!
「けれど、··········これでカインの戴冠式は延期かしら」
カインの戴冠式は一月後と迫っていた。
カインの戴冠式のすぐ後、エヴァグリーン国のディスィジュエス共和国への編入式典も同日に執り行われる。
エヴァグリーン国は結局『グリーン州』として、ディスィジュエス共和国へ編入されることになった。
元の呼び名の響きを残した馴染みやすい名称に落ち着いて良かったと思う。
ということで、カインが王冠を戴くのはたった一日となり、その後は州知事に就くことに決まっている。
それでも最後の王として、編入について様々な制度や役職の廃止や引き継ぎを指揮するのは責任重大な役目だ。
映えあるエヴァグリーン国の最後の王としてしっかり歴史に名を刻んで欲しいと思う。
「戦争なんて予定にないもの、延期は仕方ないわよね」
何より、また戦争だなんて、私は胸騒ぎがして気持ちが落ち着かない。ますます箒を持って部屋を歩き回ってしまう。
私の部屋に遊びに来ていて、ずっと掃除を見守っていたアシェルが頷いた。
「そうかもね。ミシェルが戦地に行く時期によると思うよ。まだ決まっていないんだ」
「ええっミシェルも行くの!?
だって········国家元首でしょ!?」
私は驚いたはずみに、持っていた掃除用具の箒を落としてしまった。
「いいや、ミシェルは査察と激励で行くだけだよ。
党首の戦場への訪問は恒例になってるんだよ」
「そ、そう。でも戦場でしょう?·······心配だわ。
はっっ!アシェルは!?アシェルは行かないわよね?」
私は動揺のあまり、箒を踏んでぐらりとよろける。
「おっと··········、僕もミシェルのお供で行くけど?
軍人じゃないからもちろん戦闘には加わらないけど」
アシェルは倒れそうな私を支えながら、普通の様子で答える。
「ええ!?···········そうなんだ··········」
私は顔色が真っ青になっていただろう。
それを見てアシェルは慌てる。
「アリス!心配しないでね?僕は死なないから!」
死なない?·········あ、そっか。
「!木人形でいくのよね?」
アシェルはしっかり頷いた。
「そう、良かった。ミシェルも木人形よね」
「だね·········でもさ、あの絵本といい、タイミングが合いすぎてない?
まさか、ミシェルにあの本読ませてないよね?」
「まさか!大体、今回は北の国境地域で紛争が起きたからなんでしょ?タイミングなんて合わせようがないわよ。
それに物語では、いきなり北の国を攻め滅ぼしちゃうのよね」
「いや〜分からないよ?
今回はミシェルが最終指示出すみたいだからなぁ。気まぐれでさっさと滅ぼしちゃうかもよ?
なにせ将軍として名を馳せた時期もあった人だから、久々の軍事介入に張り切ってるみたいで··········」
将軍!? 初耳だった。
聞けば、ミシェルは現在のCP党党首へ上り詰めるまでに様々な分野での功績を積み上げてきた怪傑なのだそうだ。
「ところで、『山の塗料』があるっていう北の森ってその国境付近から近いみたい。帰りにちょっと探して来ようかな?」
「えっ!?あ、危ないわよ!止めてよね!」
紛争地域だというのに、
アシェルは『山の塗料』を諦めていなかった。
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