63 ディスプレイは本当の色を教えてくれない
「はあ·····」
ここは図書館。
私は検索コーナーに座り、0件の結果のディスプレイを見て溜め息をついていた。
「おや、アリスさん」
すると、不意に私の名を呼ぶ声が上から降ってきた。
見れば遥か頭上に顔があった。
「ミカエル!」
本当にお久しぶりだ。
相変わらず美しくて·········身長が高いわね。
ミカエルとは、先日のお茶会のフィナーレの時にちょうど居合わせていたのだ。
やはり花火の途中で急に気を失って倒れた私を心配してくれていたようで、この前ふとした折に会えたのでお詫びとお礼を伝えた。
「調べ物ですか?」
「はい。ミカエルはお仕事ですか?」
「そうなのです。観光庁で我が国の紹介パンフレットを作るのですが、印刷物の実際の色味を確認するために、図書館で色見本帳を確認しようと思いまして。どうもディスプレイでは実際の印刷の色味が分からないので」
「そうなんですね。わあ、キレイですね」
ミカエルは色見本帳をパッと開いてくれた。
「アリスさんは何色が好きですか?」
空色だと答えると、今度はシアン系パレットのページを開いてくれる。
「この辺りの色好きかも。········えーと、C80Y10?」
「空の色ですね」
「そうですね。緑も好きですけど、やっぱり空色がすきですね」
「とてもお似合いです」
ミカエルはにっこり笑った。
私はちょっと赤くなったかもしれない。
本探しから戻ったエヴリンも交えてしばし歓談した後、私達は分かれた。
「そっか、ミカエルは紫が好きなのね。エヴリンは橙色ね!」
「そうなのです。私は紅葉の色·····特に赤橙が好きなのです。
ミカエル様は紫がお似合いですね!
そういえば、ミカエル様ってお幾つなのでしょう?」
「そうね、そういえば幾つかしらね。紫が似合う二十代男性なんてそうそういないわよね··········」
若くは見えるけれど、落ち着いているので二十後半から三十代、といったところだろう。何せ整い過ぎたお顔が年齢を計る事を難しくさせていると思う。
おまけにこの国は美容の技術も高くて、前世で言う50代なのに娘と姉妹に見えます〜なんて美魔女かざらにいるしで、実年齢と見た目の違いには驚かされることも多い。
「何歳は何歳でもミカエルはミカエルね!」
今のままでファンクラブができてしまいそうなほど格好いいので、何歳でも構わないと思う。
ぜひ、このイケメンぶりを発揮して観光庁のパンフレットに写真を載せてこの国のPRをしてほしい。
私は『山の塗料』についての資料を探したけれど、全く見つからない。
そういえば、私はアシェルから聞いたのだけど、彼はどこで得た知識なのかしら?今度聞いてみなければ。
そこへまた本探しを手伝ってくれていたエヴリンが一冊のとても薄い本を携えて小走りでやって来た。
「あ、アリス様!この本······」
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【森の王女と意地悪なお化粧】
神様に木人形の作り方を教えてもらった王女は、王国内に群生する森林を伐採して、たくさんの木人形を作りました。
王女が作った木人形はまるで普通の人間のようです。
食事もできるし睡眠もとります。勉強は苦手ですが運動は得意です。
唯一出来ないことは、さすがに子供は作れないことでしょう。
王女は国民だけではなく、多くの木人形の兵隊を作り兵力を増やしました。人手も増やし兵器の研究や生産に力を入れました。
王女の国は軍事産業が盛んになり、この界隈で王国に敵う国は無くなりました。
しかし、問題が数年後に起きました。
木人形達が次々と倒れていったのです。
王女は、ちょうど通りかかった魔法使いが訳知り顔なので、この原因を尋ねると、
木人形の材料の木材の種類に問題があると教えてくれました。
長持ちさせる為には木材の種類を厳選しないといけなかったのです。
しかし、魔法使いは『山の塗料』で彩色し直せばもう少し長持ちするように修理できるかもしれないと言いました。
『山の塗料』とは山の木から採集する樹液です。
木人形の着色の絵の具に『山の塗料』を混ぜて使えば、たちまち強い木人形の出来上がりだというのです。
王女は、国中にお触れを出して『山の塗料』を探しました。
魔法使いは北の森で『山の塗料』を採集してきて王女へ献上しました。
魔法使いは素晴しいご褒美を貰いました。
『山の塗料』を手にした王女は壊れた木人形に着色を施しました。
王女はとある男の着色を、うっかり手が滑って素敵すぎる彩色を施してしまいました。
それはまるでお化粧のようでした。
王女は『ごめんなさい直します』と謝ろうとしました。
しかし、運命のいたずらか、王女はその男の美しさに魅了されてすっかり夢中になってしまいました。
男は妻も子もいる中年の男でしたが、先の戦争で命を落とし、木人形に作り変えられたところだったのです。
王女は男の妻と子には、木人形作りを失敗したと伝えて男を諦めさせ、自分は男を秘密の恋人にして秘密の場所に住まわせました。
そして、男を木人形の軍隊の隊長に任命し、これまでの王国全ての軍力を総動員して北の国を滅ぼしました。
王女は隊長の男の功績を称え、将軍に大抜擢しました。
それから、二人は国民に祝福されて結婚しました。
かなしいかな、男の妻と子には、『山の塗料』で顔のすっかり変わった将軍の正体は分かりませんでした。
ますます邁進する王国の新たな門出を皆と一緒に祝うのでした。
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「············何これ。こんな王女の話、読んだことない」
男の元妻と子の気持ちを考えると居ても立っても居られない。
私はこんな最低で皮肉たっぷりな話は読まなかったことにしたい気持ちでいっぱいだった。
だけどこれは、あの“建国物語研究チーム”にとって重要な資料になるのでは、と思い直す。
「し、仕方ないわね。私も一応は顧問になっているらしいし、こんなくだらない話でも手掛かりになるかもしれないわ」
「くだらないなんて········まあ物語ですし」
エヴリンはフォローでも何でもないことを言う。
私は、明日アシェルに読んでもらおうと思い、この本の貸出の手続きをした。
················
私はこれがきっかけで、新たな北の地域との戦争を生み出す結果になるとは、この時は想像もしていなかったのだ。
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