6 ブス猫の郵便 アリスside
「アリス様、今迄お世話になりました」
専属執事のジョシュア•ヤナ•ウィロウが辞意を表明した。
その原因は今朝のこと、
ジョシュアくんが猫を虐めていたのを私が叱ったから、だそうだ。
秋深く木々の葉が散る王宮の庭園で。
あれは白と黒のぶち模様の猫だった。
ブㇲニャ〜オ!
という鳴き声が、なんでも気に食わなかったらしい。
ジョシュアくんって鬼か?
例えどんなにブス猫でも、猫と言うだけで可愛いものだと思って欲しい。
騒ぎを聞きつけて私が到着した時。
ジョシュアくんは、秋に葉をつけて落枝するセンダンの木の枝を、バッサバッサと振るって猫を追い払っていた。
ジョシュアくんのふわふわした栗毛が、冷酷な行動と矛盾して優しく揺れる。
しかし、眼鏡はキラリと光るっ。
ジョシュアくんは眼鏡が似合う美青年だ。
「止めてよ!何やってんのよ!」
ブチ猫は尻尾の先で小さなカバンを握っていた。
ジョシュアくんは、そもそもは追い払ったというよりそのカバンを奪おうとして、猫が離さないので格闘になってしまったそうだ。
私がジョシュアくんを諫めていると、ブチの猫はどこかへ跳んで逃げて行ってしまった。
そして、去り際に小さなカバンをポーンとほおった。
猫の小さなカバンは、気づけば私の手に納まっていた。
「それを、かしてください」
ジョシュアくんに素早く奪われた小さなカバンからは小さな封筒が出てきた。
「開けますね」
彼は返事を待つような男ではない。
そして、もう読んだようで私に手渡す。
「アリス様、今迄お世話になりました」
冒頭へ戻る········
私は彼の真意が分からず、その後何回もクエスチョンマークを頭の上に浮かべつつ、この出来事を反芻することになるのだった。
「僕、門番になるのが夢だったのです」
言い訳ならもっと上手につくべきでしょう?
執事から門番なんて聞いたことないわよ!
「夢を諦めないでいいかな~っと、アリス様に叱られて気づいたんです」
「叱った!?
ああ、叱ったわよ。猫をイ•ジ•メ•る•なってね!!」
どんなに取り繕ってもいい話になるはずがない。
このままだと私に執事イビリの汚名を着せるつもりのようだ。
「とにかく、仔猫一匹通さぬような厳格な門番を目指します」
えっっ········ジョシュアくんってそこまで········猫が嫌いなの??
猫を城内に入れない為に門番になるの??
そこまで真剣ならと、私も腹を括る。
「わ、分かったわよ。すぐに辞表を書いて提出しなさい」
ジョシュアくんは目をパチクリした。
「あははは······辞表、ですか、まいったなぁ。アリス様はやっぱりおかたいですね~」
辞表って、この世界に無かったかしら?
まあいいわ。
執事って私にあれこれ指図して正直邪魔なポジションだったし。
ほとんどお目付け役だったもんね!
ああ、これから自由がぐんと広がる気がするわぁ~
「そうだ、アリス様、喜んでいるところ申し訳ないですが··········絶対に門まで来ないでくださいね?」
「はあ?何言ってるのよ。この広い王城内で、門まで何キロあると思ってるのよ」
「絶対ですよ〜」
「絶対、行かないわよ?」
なにかしら、もしかして私がジョシュアくんがいなくて寂しくなって押しかけるとでも思ってるのかしら?
自惚れないでよね!
「それにしても、このカバン可愛いわ♡
きちんと取っ手があって、ミニチュアのトートバッグね♪」
猫は、なぜこれを持っていたのかしら。
まるで『お届けものです~〜』
って感じだったわよね。猫の郵便かしら?
「中はお手紙なのね·····」
さっきからジョシュアくんの視線が痛い。
私から叱られたなんて言っておいて、私のお世話が面倒になったのに違いない。
門なんて森の中の辺鄙な所にあるし、きっとめちゃめちゃ暇でしょうよ。
鳥の囀りを聴きながら、せいぜいリフレッシュするがいいわ。
「門かぁ、いいなぁ〜」
というか、門から出たらフリーダムですよね〜
近い内に門まで行ってみようかしら。
ジョシュアくんがいれば遊びに行きやすいかも!
絶対行かないなんて言って、
ごめんね。
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