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王女アリスはツリーの下で前世の夢を見る  作者: 漆あんか
第二章

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57 これは私たちの生存戦略 

私は地下室シェルターを掃除していた。


「最近、空襲が減ったわね〜」

「そうね、助かるわ〜」


そう話している侍女たちの声が聞こえてくる。

もう毎日空襲がデフォルトだったので、それが、2日に一度になり、3日に一度となれば、敵にまでありがたいと感じるほど城内の人々の感覚はマヒしているようだ。


空襲の被害に遭った後は、滞在した地下室を掃除してから外へ出て被害状況を確認し、まだ明るい時間ならそのまま瓦礫を片付けるのが私のルーティンとなっている。

ここに来てから私は、掃除か片付けしかしていない気がする。



さて、今日は3日ぶりに空襲があり、地下室の掃除を終えると私は外に出て瓦礫の山に対峙する。


ミシェルが言っていた戦車のお迎えは1週間後だというからそれまではここ実家でゆっくりできるというわけだ。残された時間はあと2日。

最近は空襲の時間が被らなければ、3時にはカインとお茶を楽しんだりして、残りの時間を大切に過ごしている。


破壊された城での私の仕事は貴重品集めだ。

宝石や時計など、瓦礫の下に隠れている貴重品を見つけては誰かに持ち去られないように、責任を持って王女である私が城の金庫で管理をし、城内のどこかにいる持ち主に返却するのを目的としている。

高価な物は大体思い入れがあるので、王女が貴重品を管理していると聞けば、皆安心して尋ねて来てくれる。記念の品や贈られた品も多くて、見つかれば涙を流して喜ばれることもある。

これからお迎えの戦車が来るまでに、貴重品リストを作って信頼のできる侍女長へリストを引き継いで、これからも所有者を見つけてもらう仕組みを作るつもりだ。


城は大部分が破壊された。

城外へ出ることはできないけれど、国内の至る所でこのような風景が広がっているらしい。

つい先日までクリスマスに湧いていた民衆の様子が信じられない思いだ。

この国はこのまま終わってしまうのだろうか。

それとも、私が『山の塗料』を見つけて父王や王弟や臣下たちを木人形で生き返らせたら、状況は少しでも変わってくれるだろうか?


始めから私達王族がもっと上手くやれば違う結果が出ていたかもしれないと思うと、後悔の念が止めどもなく押し寄せてくる。

今の私にはこの瓦礫を片付けることしかできないけれど··········


「人質になったら、今度こそ全力でこの国の為に私にしか出来ないことをするわ!」


「止めて、イヤな予感しかしないから。特に『私にしか』ってところ」


「カイン!」


「お疲れ様、アリス」


「カイン、今からお茶に出すお菓子を厨房に作りに行くところよ」


「そう、今日は何?」


「なけなしの小麦粉で今日もクッキーよ!ちょっと工夫して形と食感を変えようと思ってるの」


「いいね。昨日は卵無しのクッキーで、一昨日はバター無しで植物油を代用したクッキーだった。同じクッキーでも色々あるんだな」


「そうよ、クッキーなら、最悪小麦粉と砂糖があれば、何とかなるわよ。お城はまだこの2つが残ってるから助かるわ」


そうだね、とカインは頷く。


「でも········カインの作ったバナナケーキが食べたいぃぃぁ!」


「あ、言っちゃったな。もう材料ないんだからしょうがないでしょ?

全く·····せっかく節約クッキーの話で盛り上がってたのに」


カインは頬を膨らませた。

こういう素直な表情はアシェルが入った時みたい、と私は感心してカインの顔を眺める。

同じ身体でも魂が変わると全く違う人間のように見えるのを目の当たりにしたのだ。

そう考えると、身体とはただの魂の器でしかないのかもしれない。


「···········アシェルってどんな奴?」


「ええっ!?」


カインは私が魂と身体のセットで人質に行くことを反対していたが、断固として意見を曲げない私に呆れて、ようやく昨日考えを改めてくれた。


その時に、アシェルとミシェルがカインの木人形の身体の中に入ったことを知らせたのだ。


「いい人だよ?」


「いい人なら、アリスは結婚するの?」


「ええ? 私、そんな話した!?」


私はアシェルとの『18歳に結婚しようね』という約束をカインに話したのかと思い慌てた。ううん、話した方が本当はいいだろうけれど、不思議とカインが怒り出す絵面しか思いつかない。

だって、カインは既にブスッとしている。


「忘れたの?

以前、あいつと初めて会った時に、アリスと結婚結婚騒いでたじゃないか···········なんだよ、いつの間に知り合ったの?マロウ家の嫡男なんかと」


「アシェルは、私に木人形の作り方を教えてくれた師匠なのよ。だからカインも木人形で生き返らせれたの。彼はディスィジュエス共和国でも一番に私を助けてくれているのよ」


「···············あいつは皆を殺した、敵だ」


「·············誤解よ。アシェルは狂った木人形しか殺してない。私が使ったオべチェという木材が悪かったんだわ」


「本当に狂ってた?じゃあ俺は?俺も同じタイミングで木人形になったんだよね?」


「カインは皆と違う木材を使ったの·········エイダンの木目が美しくて、カインに合うと思って·······特別に使ったのよ」


「···············あいつは俺をでくのぼうって言ったんだ。俺は許さない」


「カイン、ごめん」


謝った私をカインは信じられないという顔で見た。

そうだ、私はアシェルの酷い所業を謝るほどまでに、アシェルと仲良くなっていたのだ。


「ごめんね」


私はもう一度謝った。


「止めて、違う、謝るのは俺の方だ」


「え?」


「まだ言ってなかった。

アリス、この国のために俺のために、

人質にしてすまない。

君を犠牲にしてすまない。

そして、礼を···················

これは紛れもなく、君にしか出来ないことだ。


アリス、············ありがとう」


カインは苦虫を噛み潰したような、これ以上ないくらい悔しい顔をして声を絞り出していた。

こんなの、本当にお礼だろうか?


「カインも、ありがとう」


私は笑った。

これはお別れではない。

これは生存戦略なのだから。


私は2日後に戦車に乗って隣国へ行く。


読んでいただきありがとうございます!


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