56 悪夢は君がいない世界だった
「えい!えいやっ!えいえい!」
夜の闇に情けない掛け声が響いていた。
「アリス········木人形って気合いを入れて中に入るもんじゃ無いよ?」
「え!?じゃあどうやるのよ?」
「う〜ん、そう言われるとなぁ。人それぞれなんだけど、僕の場合は、人形から糸を見つけて手繰り寄せるって感じかな」
「糸······そうか!私やってみる!」
「うん、がんばって」
「················!
··············、
··············、
見つからない!糸ってなんのこと〜!?」
私は半泣き状態だ。
「まったく·······、でも確かに本体から出るのが一番難しいかもね。本体に戻るのは簡単なんだけどね。
僕なら木人形から木人形なら簡単に入れ替える事が出来るけど、本体から魂を出すのは本人の意志と体質が複雑に絡み合ってるから難しくて出来ないんだ」
そういえば、以前アシェルにその方法で城からディスィジュエス共和国へ木人形から木人形の魂の乗り換えをしてもらった事を思い出す。
「ディスィジュエス共和国の医療用木人形も魂の乗り移りと定着の訓練にけっこう時間かかるみたい。苦手な人だと数年かかる場合もあるそうだよ。
でもアリスは木人形職人でもあるんだから簡単に出来ても良さそうなんだけどな。
そもそも初めての時はどうやって木人形に入ったの?」
「ランナーズハイ········」
「?」
「依頼されて木人形を3日間徹夜で作ったのよ。それでおかしくなっちゃってハイテンションになって、その後疲労困憊で倒れちゃったの。で、気がついたら荷馬車で運ばれる木人形の中に入ってたの」
「荷馬車で運ばれる? なんかそれからもドラマがありそうで興味深いなあ」
まあ、それから色々あったけどね。民衆にマリア様扱いを受けたりね。
それにしても、あの時に作った木人形はもうすぐディスィジュエス共和国に届く頃じゃないかしら。アレを新しい身代わりにして北の森に『山の塗料』を探しに行くなんて、大分先の話になりそうだわ······
「じゃあさ、アリス、ハイテンションに疲労困憊で倒れてよ」
「えっ」
「というか、意識を失うのが大事なのかな」
「でもさっきまで寝てたけど、それって意識を失うことと違うのかな? 何ともないけど」
「うーん、条件が分からないなあ。取り敢えず、僕が木人形同士の魂の乗り換えでやるみたいにあっち側から引っ張ってみるよ」
アシェルはそう言うと、カインの身体はガクリとをベッドに放り出された。
「お〜い、アシェル〜?」
アシェルはもうそこにはいなかった。
「················」
夜はますます深くなる。私は大きなあくびをした。
「引っ張るって言ってたのに、何かあったのかな?」
そしてその後も暫く待ったけれど、
もうアシェルは戻ってこなかった。
「おはよう!いい天気よ!」
次の日、私は部屋へカインを起こしに行く。
空襲が頻繁に来ていると聞いたけれど、こうしていると平和そのものだ。
鳥のさえずりだって聴こえてくる。
「···········おはよう············」
まだ寝ぼけてるの可愛い!
思わず抱きついてしまう。
「わわわっ!?」
「あ、ごめん、つい」
頭部に拳をあててテヘペロしてみるけど可愛くなかったのか、カインは目を丸くして私の顔を凝視してくる。
「···········姉さん? ········探したよ··········」
「えっ、探したの!?私を?もしかして夢の話!?」
「うん。···········悪夢の中の話」
「そうなの?どんな夢?」
そう聞いたけれど、それに答えることはなく
カインは布団に倒れ込んで
また寝てしまった。
カインはあれから二度寝したかと思えば、次に目が覚めると、王の側近達を謁見の間に集め、とんでもないことを言い出した。
「アリス王女にお戻り願えないので、昨夜ディスィジュエス共和国より、戦車を出発させました」
「はあ!?」
側近達はカインの穏やかならぬ発言にざわついている。
サディス様が違和感のあるカインと私の間に立った。
「え?もしかして·············アシェル?」
全然アシェルっぽくないけど、他に思いつかない。
どう考えてもカインではないし。
他に魂の乗り換えをするような、木人形を利用してる人は知らない。
あれ、············でも確かもう一人いたわね。
「私はCP党党首のミシェル•カエーデ•フウです」
「!」
そうだ、ミシェルは身体が弱いから本体は寝たきりで、自作の医療用木人形に乗り移って生活しているのだ。
アシェルが木人形を自由に出入りできるなら、その父のミシェルも当然出来るのだろう。
カインに入ったミシェルは、精悍とした面持ちで私の方を向いた。
カイン本人より数倍大人っぽい。実年齢は50代だそうなので当たり前だけど。
「戦車が来たらそちらへ乗って我が国に戻って頂きます。もし抵抗なさるなら、この城もろとも破壊して連れ去ります」
「そ、そんな·····」
「もう空襲でこの城もほぼ全壊されとるがな〜」
側近のおじいさんの変なツッコミが聞こえるわね。
「私は元々戻るつもりでした!アシェルはどうしたんですか?」
「アシェルは、昨夜、君の木人形に抱きついたり引っ張ったり不埒な真似をしているのを見つけたので、罰している際中です」
そ、それ、あっち側から引っ張ってくれてるやつ〜!!
ミシェルの様々な誤解を解くために
私は、あれこれ引っ張ったり身振り手振りも混じえて必死で説明するのだった。
それから、私はサディス様や側近たちに木人形について説明した。
そして、私の魂と本体のセットを人質としてディスィジュエス共和国に引き渡すことで、我がエヴァグリーン国へ軍事協力とその後のカメリア合州国との講和までの仲介を引き受けてくれるという約束をした。
今更ながら、王女とはいえ自分の価値がミシェルの中で高騰し過ぎではないかと思うんだけれど、
············大丈夫ですか?
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