48 叙事詩は悲しい死神のメロディーで アリスside
あれ?閣下って?
閣下って王や皇帝以外の国家元首クラスの方への敬称じゃなかったかしら?
この青年が?
·······まだ20代か30代くらいに見えるけど。
「私がCP党党首のミシェル•カエーデ•フウです。以後お見知り置きを」
やっぱり?
50代ぐらいと聞いていたのは間違いだったようだ。
その給仕さんの格好をした閣下は、私の隣のテーブル席に着席した。
私の席の方にはルートとルーラと、食事を終えて戻って来たエヴリンが座った。
お茶会開始と同時に演奏が始まっていた。
奥のカーテンがゆっくり開かれ、楽団の奏者が勢揃いしているのが見える。歌手が前に歩を進め、朗々と歌い始める。聞けば叙事詩風の歌だった。
よく聴き取れないけれど、
男は王女を馬に乗せ♪
谷を越え〜川を越え〜雪の山を登り♪
氷の湖を渡った♪
のサビの部分がとても叙情的で、なぜか無性に心にじんとくるメロディーだと思う。
でもどこかで聞いたような話だわ。
「·····もしかして、【森の王女シリーズ】の内容······?」
ぶつぶつ独り言を言っていると、それぞれのテーブルに絵本が一冊ずつ配られた。
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【森の王女と意地悪な結婚】
王は王女に国の北半分を与えました。
王になりたい男たちは王女に求婚しました。お城へは王女に求婚する列ができました。
一人目は紙職人でした。王女に最上級の手漉き紙を献上しました。
二人目はパン職人でした。最高の黄金の小麦で焼き上げたパンを献上しました。
三人目は水道工事夫でした。彼は百年はもつ丈夫な水道を献上しました。
王女は結婚相手を定めないままに求婚者の力を利用して北の国は大層栄えました。
それに比べて、有能な職人達を失った南の国は貧しくなってしまいました。
最後に王女に求婚したのは全身に黒い装束を纏った男でした。
男は王女を馬に乗せて旅に出ました。
二人は谷を越え川を越え雪の山を登り氷の湖を渡った。
そこで王女は男が王女に与えたきのこの毒にあたって病になってしまいました。
北の国は王女を失い、求婚者達は仕方なく交替で望んでいた王をやることになりましたが、争いが絶えず北の国は戦争の国になってしまいました。
困ったのは南の国です。北の国が頻繁に戦争を仕掛けてくるようになったからです。国が落ち着かないのは正当な女王である王女がいないからだと考えた南の国の王子は、姉である北の王女を探しました。
谷を越え川を越え雪の山を登り氷の湖を渡ったところにいたのは、全身に黒い装束を纏った男でした。
男は言いました。
「私は死を司る神です。私が与えるものを食べると皆死んでしまうのです。王女はきのこの毒に当たり死んでしまったはずです」
王子は言いました。
「私は北の国の王女に唯一求婚しないで南の国に残った医師を連れてきました。彼が王女を生き返らせてくれるかもしれません」
王女は医師の力で蘇りました。
その後、王女は18歳になると一人の男を選んで結婚しました。
北の国と南の国は平和になりみんな幸せに暮らしました。
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「出た!最後に誰と結婚したか分からないやつ!」
私がこっそり盛り上がってると、エヴリンが聞いてきた。
「アリス様はこの絵本をご存知なのですか?私は題名は知っていたのですが初見でしたわ。何だか印象的なお話ですのね」
「うーん、でも、最後急展開なのよねぇ
王女が誰と結婚して、北の国も南の国もどうやって幸せになったのかはっきりしなくて、モヤモヤするわ」
気づくと私は注目を浴びていた。
「あっすみません!」
「いえ、隣国の王女であるあなたの感想が聞きたいですね。まずは自己紹介していただいても?」
「あっはい!アリス•エヴァ・グリーンです。エヴァグリーン国の第一王女です。今回縁があってこの国にお邪魔することになりました。いつまでになるかは分かりませんが、どうぞ仲良くしてくださいませ。
そして、先ほどの演奏とても素晴らしかったです!」
「ありがとうございます」
楽団長が慇懃にお辞儀してくれる。
「皆様、アリス様は平和の使者として我が国に来られました。アリス様がこの国にいてくださる限り両国の友好は固く結ばれて解けることはないでしょう。本当にいつまでもいてくださると嬉しいですね。
·······さて、歌のお話の内容はいかがでしたか?」
何だか暗に人質でいる限りはな、という雰囲気がビシビシ伝わってくる。逃げたら即戦争だろうか、怖い。
「えっと、我が国でもよく聞く絵本のお話でした。【森の王女】は他にも同じ主人公たちでお話が幾つかあります」
「そうですね。我がディスィジュエス共和国では【森の王女】は『建国物語』という扱いになっています」
元は同じ国だったのに、扱いが違うようだ。
このお話がそんなに古くからあったのに驚く。
前世では現代を生きる絵本作家が描いているお話だった。
「今日ここに集まっている者たちは、皆それぞれに仕事を持っていますが、この建国物語の研究者なのです。この物語は私達に幾つもの教訓と暗示を与えてくれます」
「そうなんですね·········?」
私は、この絵本をここまで熱く語る人がいたのにびっくりしてしまう。
アシェルを見ると、手が負えないという風に首を振っている。
なるほど、『歴史オタク』ならぬ、『建国物語オタク』のようなものだろうか?
「元は一つの国であった両国です。この物語を共に研究することで互いのルーツを解き明かし、必ずや今後の両国の輝かしい未来への指標となると思っているのです」
「えっと、それは素晴らしい·····ですね?」
「どうでしょう。アリス様には両国の友好の使者として、この我々の建国物語研究チームの顧問になっていただきたいのですが、お忙しいでしょうか?」
「えええっ」
意外な勧誘を受けてしまった。
人質の私がお忙しいかどうかは
············閣下次第だと思います。
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