46 ページをめくるも上の空で アリスside
「あ、しまった」
思わず口にすると、
アシェルとエヴリンが一斉に私を見た。
忙しいって雰囲気なのに、言わなきゃ良かった。
「わ、ごめん、なんでもない!大したことじゃないわ」
「ダメ!今言って!後から問題が出てきても困るから!」
アシェルは持ってきてくれた招待客名簿を机に置いた。
「ほんと〜に、アリス様ってば上の空じゃありません?
········やっぱり昨日、ライラックの都市であの役人の男と何かあったのでは」
エヴリンが意地悪に言う。
「「はあ?」」
私は驚き、
アシェルは素っ頓狂な声を上げる。
エヴリンが昨日の観覧車での出来事を掻い摘んで話す。
「私も高い所は本当にもう無理っっ!って思ったんですけれど、アリス様ってば、私なんて比じゃないくらい、もうお顔は真っ青で足もがくがくで立てないし、本当に驚きましたわ!
だけど、お役人様にお姫様抱っこされて観覧車のキャビンから出てこられたときはもう物語の一幕のように素敵で······」
エヴリンが溜息をこぼす。
「はあ?お姫様抱っこ!?」
何か·····エヴリンの言い方に語弊があるわね。
雲行きが怪しい。
「へえ〜、ライラックシティに行ったんだ〜僕が連れて行こうと思ってたのに!っていうか、この国で手土産なんて要らないよ?僕に相談してよ!」
「あ、アシェル。私は結局そんな調子で、昨日は観覧車しか行ってないのよ?今度一緒に行きましょうよ!」
「もちろん、いいけど·······なにその役人の男って、絶対下心あるでしょ。アリスのバカ、抱っこされたなんて。何でついていったの」
·····私も自分の迂闊さにびっくりする瞬間もありました。
自分が高所恐怖症というのも知らなかったのよね。
でも、あのミカエルには下心なんて無く、普通に親切な人で良かったと今更ながら思う。
「反省して········」
アシェルは私が小さくなっていると、ようやく落ち着いてきた。
「高い所苦手なんだね。本当に大丈夫だったの?」
「うん·····エヴァグリーン国では高い所って塔ぐらいかな。そこも禁じられていて登ったことなかったし、自分が苦手だって知らなかったのよ」
私は高い所を思い出して、再びぞっとしてしまう。
「で?何が『しまった』って?」
アシェルが冒頭の私の独り言に戻った。
「ええと、その人に別れ際に『明日楽しみにしています』って言われたの。つまり、今日のお茶会に参加するのかしらね?
·······でも、私包帯巻いてるから相手には分からないって、今ごろ気づいたのよ」
「はあ!? どういう心配!?包帯なんか何重巻きにしてやろうか········!!」
アシェルは再び怒り出したのだった。
ディスィジュエス共和国のドレスは、シックなものが主流で、前世の日本、例えば友人の結婚式に着ていくようなドレスのデザインと似ていた。
エヴァグリーン国のドレスはいかにも中世という感じのプリンセスラインのドレス。フリフリのフワフワでとにかくゴージャスだけど、せっかくだからもう少しお姉さんっぽいのを着たい。
私はアシェルが幾つか持ってきてくれたものから選んだ。ちょうど昨日の都市の名前、ライラック色に染まったエンパイアラインのドレスだ。
本当はマーメイドラインのドレスに憧れるけれど、まだ身体が寸胴なので似合うはずがない。大人のボン・キュッ・ボンになってからの楽しみにしようと思う。
「アリス様!お似合いですわ!」
エヴリンはほめてくれたけれど 、アシェルはまだ仏頂面だ。
「ねえ、どうかな?このドレス、変?」
私はくるりと、一回転して、首を傾げて聞くと、
「········似合ってるよ!」
顔を赤くしている。
聞けばこのドレスは、何とCP党党首その人が私の為に選んだものだという。
他のデザインも数枚あったようだ。
アシェルが選んだものが良かったんだけど、彼が選んだものはどれもエヴァグリーン国っぽい、プリンセスラインのドレスだった。
「これも素敵ね!」
アシェルがエヴァグリーン国の私を認めてくれたみたいでそれも嬉しくなる。
でも、エヴリンとも相談して、今回は主催者の顔を立てるという意味もあってライラック色のドレスに決めた。
そこにイヤリングとネックレスを合わせる。
「ふふっ包帯を巻くから、コーディネートも何も無いわね·······」
と私が言うと、エヴリンも大仰に肩をすくめ苦笑した。
「ふふっ本当ですね」
エヴリンも数日前まではこの格好を余儀なくされていたから、気持ちは分かりすぎるのだろう。
今夜は替え玉らしく、目立たず、初めてのこの国のパーティを楽しみたい、を目標にする。
アシェルが隣のソファに座ってきて、私に招待客の顔を覚えてと名簿を開いた。
顔写真のファイルも持ってきてくれていて、両方を照らし合わせてページをめくりめくり、一人一人招待客の説明をしてくれる。
エヴリンは、アシェルの持ってきてくれた本からディスィジュエス共和国の食事マナーを勉強するフリをして名物料理についての欄を読み耽っている。
私はといえば、
今夜ミカエルに万が一会えても、
何となく居心地が悪いような、そんな気がしていた。
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