45 空のミカエルと地の底の私 アリスside
どうしてか、古風というのは彼にとっては褒め言葉のようだった。
ディスィジュエス共和国とエヴァグリーン国はかつては一つの国だったのに、私にはこの国の人の価値観はよく分からない。
私たちは全体曇りガラスで、ほぼ意味をなくした観覧車に乗り続ける。もちろん途中で降りることはできない。
宙に浮いたスクリーンに残り時間の表示がある。
丁度今、一番高い所にいるらしい。
長い、長過ぎる。
私は震えが止まらないのでソファにしがみついてひたすら時を待っていた。
そんな私の近くに座り直した役人の男は独り言を言い出した。
「······世界一だの言って、どうしてこう上へ上へ上がりたくなるんでしょうね·········人間はどんどん高い所へ登りたがる獣のようです」
そして空いた時間、彼は自分の名がミカエルだとほぼ独り言のような自己紹介をした。
「···················」
私はそれからだいぶ間を空けて、
落ち着いてきたのでアリスとだけ名のる。
「ミカエルって大天使様の名前だわ····」
とボソッと溢すとそのミカエルは不思議な顔をする。
「えっと····羽根の生えた人の姿をしている神の使いなのです。ミカエルとはその中で一番偉い天使長なのですわ」
私はめちゃめちゃかいつまんで説明する。ミカエルは宗教的な話は全然知らないと言う。
ディスィジュエス共和国は宗教を禁じている。
本当はこういった所で話すことも慮らなくてはいけないらしい。
「羽根とはいいですね。そうであれば、この途中の観覧車から貴女を抱いて地上へ降りることが出来ますね」
「!そ、そうですね······」
私は血の気が引く思いがした。
高所恐怖症にとって、天使に抱っこされて生身で空から降りるなんて、この上ない恐ろしい絵面だった。
そんな目に会うぐらいなら、この曇りガラスの観覧車でゆっくり降りるのがマストだろう。
男は急に私をヒョイッと持ち上げた。
「!?」
あまりの出来事に私は声を失う。
そして、私の身体は男の太ももの間に座り直される。
「こうしたら、背もたれのある人間椅子のようではありませんか?」
「································」
男は身長が高いので、大層圧迫感のある背もたれ椅子だった。
そしてこれは恋人座り過ぎません·······?
「おや、震えが止まりましたね」
「あっ!··········」
驚き過ぎると震えって止まるのだ。
「良かったです」
ミカエルは身長差で遥か上の方から私を見下ろしていた。
こうしていると地の底に居るような錯覚を感じる。
高所の恐怖から逃れて落ち着いてくると、ミカエルとようやく目が合った。
彼は人助けをしたという風に、満面の笑みを浮かべていた。
「あ、ありがとうございます」
私とミカエルの身長差はここではちょうどいいと思い私はミカエルの美しい顔を眺めた。
「「···········」」
うん、高いものは下から見上げるだけがいいと思う。
もうすぐ地上に着きそうだ。
ゆっくりと調子が戻ってくる。
「ところで、明日のお茶会というのは夕方ですね?」
驚くことに、この国ではお茶会というのは夜と決まっているらしい。
平民は日中は休みなく働いている。貴族はこの国にいないが代わりに多くいる富裕層ほど、こぞって働いてお金儲けに余念がないらしい。
というわけで夜の開催は、皆が夕方以降しか自由になる時間がないからとのこと。
お茶はもちろんお酒も少し出るらしいが、お酒を好む人はこの国では少なく嗜む程度らしい。
要は夜会。パーティである。
ということは、ドレスアップか········?
我が国のドレスってこの国ではどうなのだろうか。
「お困りでしたら、今日のお礼にドレスを贈らせていただきますが」
「いえいえいえ!そこまでしていただくわけには。手伝ってくれる者もいますので」
これ以上、この人助けが過ぎるミカエルに頼るわけにはいかない。
ミカエルは頷いた。
茶会についてはアシェルが完璧にアドバイスしてくれると思う。明日は早めに来てもらい準備をしなくては。
「では、明日は楽しみにしています」
「ん?」
今、なんて?
まだミカエルの膝の中にいた私は
彼をふりさけ見たのだった。
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