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王女アリスはツリーの下で前世の夢を見る  作者: 漆あんか
第二章

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44 リスク回避は水平線の向こうへ アリスside

観光庁のスーパーカーは滑るように走り抜ける。


「········今日のご用事は、他にも?」


「あっ!そうだ!手土産を買いに来たんです。明日お茶会があるので、主催者様にご招待のお礼にお渡ししたいなと」


そのスーパーカーはスピード重視の為か小型で二人乗りだった。エヴリンは後続車へ乗せてもらっている。


よく考えたら、役人とはいえ知らない男の車に乗るなんて前世では考えられない無防備ぶりだ。


私はおとぎ話のような世界に生きていたのでネジが緩みっぱなしで数本は飛んでいってしまっているのだろう。

そしていきなり前世感覚を取り戻したのは、このライラックの都市がかつての東京に少し似ているからだろう。

私は青くなって俯く。もし、この男が観光庁の役人じゃなかった時の場合の護身術を思い出そうとした。

ちなみに、私は目潰しが得意なので何とかなるだろう。

でも、木人形だから、アシェルが気づいたらもう一つ木人形を作って魂を呼び寄せてくれるかな?

でもエヴリンは生身だから、やっぱり一緒にきちんと逃げないとダメか·····


と、暇なのでリスク回避について考える。


「手土産ですか·····そんなもの必要ないですよ?ここではそういう風習はありません」


「風習!?あら、皆さんはこういう時に手土産を渡さないのですか?」


「はい。プレゼントという概念は数年前に消え去りました。欲しくないものを贈ったり贈られたりするのは悪しき風習です」


「そ、そうなんですね······」

随分前衛的なものの考え方だわ。でも、


「寂しいですね」


「?」

そう言うと、その役人の男は不思議な顔をする。


「それでは、自分の気持ちをどう伝えたらいいのか····

我がエヴァグリーン国では、お祝いや御礼など、好きだと好きな人に伝える時でも、多くはプレゼントを添えて気持ちを伝えるのです。その気持ちが少しでも素敵なものだと相手に思ってもらえるように」


「エヴァグリーン国の方でしたか·····」

役人の男は頷いた。


「彼の国は古風ですね」


役人の男は不機嫌になることはなく、にっこりと笑ってくれたのだった。


だけど郷に入れば郷に従え。手土産の心配を無くして心が軽くなった。明日は堂々と手ぶらで行こうと思う。

この気分のまま観覧車に乗ったら最高だわねと、私は身の危険の心配はどこへやら、再び能天気に戻ってしまうのだった。



そのエリアはかつてのお台場を彷彿とさせる港。

道路も施設も全てが大作りで巨大だ。爽快に吹き抜けて行く風が清々しい。

世界一の観覧車はもちろん、前世で見たことがないくらい大きかった。何と一周30分もかかるらしい。

あっスマホ·······無かったのでびっくりした。画像が撮れないなんて!?

今、頭の中が混沌だ。


まずはラウンジに通されて飲み物を頂き、VIP専用と表示のあるキャビンに案内された。丸いフォルムが可愛らしい。もちろん全体がガラス張りだ。


VIPキャビンは二人乗りということで、またまたエヴリンと分けられた。私はスーパーカーに乗せてくれた役人の男と乗ることになった。エヴリンは他の役人の女と同乗する。


他のキャビンは8名は乗り込んでいるようなのに、さすがにVIP用だ。



上り始めること数分後、

「うわアァああ、たかいいいい!ああああ!こわいいいいい!」


これは予想外だった。

絶対に快適な空の旅だと思ったのに。

·······私は高所恐怖症だったのだ。

のんびり船舶が行き交う港の向こうにうっかり水平線が見えてしまう。


役人の男が同乗していたバーテンダーに頼んで、どうやったのか全体がガラス張りだったのを、ボタン一つで、パッとくもりガラス状にしてくれた。


周りの風景が閉じられて、ようやく人心地が着く。

でもまだ少し揺れているからダメだ。私はソファにしがみつく。


役人の男は驚きつつもふっと笑った。


「·········高い所が平気かどうかのアンケートを始めに徹底した方がいいですね。そしてこのガラスの透明度の調節はVIPだけでなく全てのキャビンに設置しましょう。ここは政府系の企業なので観光庁の助言が反映されやすいのです」


そして、何やらタブレットのようなものに熱心に入力している。

こんなショボい反応の意見もちゃんと漏らさないのは良い役人の証拠だ。


役人の男はまだまだ鳥肌が立って震えの止まらない私を見て、


「やっぱり古風なんですね」


と優しく言った。


読んでいただきありがとうございます。


漆あんかのTwitterもぜひお越しください♪

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