35 (8年前) あなたは私のお人形 アリスside
「フッフッフッようやく二人っきりだね·········」
「!?」
部屋に二人っきりになると、アシェルは急に襲ってきた。
というより子供同士なので、じゃれてきたのが本当。
「君の顔、もっとよく見せて······?」
「やっやめてください!」
なぜか私の顔を眺めるイベントになっている。近づき過ぎて焦る私だった。
そして、彼の木人形の身体をつぶさに見るためとはいえ、レディーの部屋に簡単に入れてしまったことを今更ながら後悔する。
「ごめんごめん、君があまりに可愛くって。
······ほら、お詫びに僕の身体見放題だよ。どう、分かる?」
アシェルの身体をじっくり見るが、これが本当に木なのかは分からない。
生身の肌そのものに、見える。関節も実によくスムーズに動く。私はこの美しい完璧な身体に感嘆の溜息をもらした。
「アシェル様は本体というか、生身の身体はあるんですか?」
「もちろんあるよ。本体はディスィジュエス共和国に置いてきた。
この木人形へは行商人の甕の中に入れて運んでもらって、エヴァグリーン国に入ってから憑依したんだ」
「やっぱり、そんな方法でこっそり入国してたんですね·····」
私はジロっと睨む。
サディス様も言っていたが、甕に隠すのはこの世界の常套手段なのかしら。
アシェルは肩をすくめるが、特に悪びれた様子もない。
「もし途中で人形に何かあっても捨てちゃえばいいし、何より旅が楽だよね。本来なら政府高官の息子だからって猥雑な手続きあるからさ。監視も付くしね」
確かに、木人形が目的地に到着してから、外国から憑依できるなんて。木人形にそんな使い方があるとは心底驚きだ。
「【森の王女】では自分が人形だと知ってしまうと人形に戻ってしまうとありましたが、その点は?」
「それはねぇ、自分は偽物かも?って疑う気持ちがね、悪く作用するんだ。偽物って思っちゃったら魔法が解けちゃうよ。信じる気持ちが一番大事なんだ」
「魔法·······なんですか?」
「うん。魔法でもあるし····神通力って言ったほうが近いかな?要は神様が眷属を増やす要領なんだよね」
「神通力········」
「自分で作った人形に憑依する場合は、基本的には好きに出入りできると思うよ。だって自分で作ったものをそもそも疑ったりはしないよね」
「そうですね」
でもだからといって、わざわざアシェルのように人形の中に入りたいとは私は思わないだろうと思った。
それから、私は意外にもあっという間に技術を習得した。もしかしたら、前世でも修行したことがあるかのようにスイスイ彫り進められた。
程なくしてアシェルは自分の身体へ帰っていった。
「ああ、名残り惜しいな〜早くアリスと結婚したいよ!
あ、それで残った木人形は、」
「甕に入れて、指定の行商人に渡しますね!」
アシェルはいちいち意思表示の激しい子供だった。
本当に、私は天才だったのだと怖くなる。
私が早速、手塩にかけて丁寧に作ったおかげで、
お父様も叔父様もかなり以前通りの彼らにまで戻ることができた。
「元気だったか?会いたかったよ、アリス」
とお父様。
「アリス様、ご機嫌麗しゅう」
と王弟の叔父様。
「かっ、完璧だわ·······」
まだまだ作らなければいけない木人形は沢山ある。
私は再び自分の部屋に籠もった。
「姉さん·········」
様々な材料と、木片が散らばった雑然とした私の部屋の隅に少年の木人形が座っている。
「ご、ごめんなさい。あなただけ、なぜか違くって。もう一回作り直すわ!」
·······そこにいたのは、王弟の息子、カインの姿だつた。





