31 脱出はお茶会の後で アリスside
今日4月9日は、クリスマスだ。
街にはサンタクロースの仮装があふれて、街の広場はクリスマスツリーに様々な飾りつけをして、家では皆でケーキを切り分けて食べる。
城内では、クリスマスをこの国に広めた自由クリスマス教の牧師達は、殺されるか拘束されるかして陰惨なクリスマスなのだが、そんなことは城外の人々には関係ない。
私は以前としてカインに監禁されたままだった。
「ひま·······!」
ようやく自分の部屋へ戻って来たことをお知らせしたい。
カインにアリス認定を受けて、自室での監禁が認められたのだ。
自分の部屋で良いことといえば、
「脱出ルートが複数あることよね」
朝から一つ一つ試してみては、ルートをことごとく潰されているのが明らかになり落胆を繰り返していた。
おそらくはジョシュアくんから情報がカインに漏れているのだろう。ジョシュアくんは私の専属執事だったので、私に脱出ルートを教え込んだ張本人だ。
8年前、私が4歳の時に城は敵襲を受けたことがあるらしい。それ以来脱出通路を増やしたとのことだ。
そしてごく最近、私が不在の時にも襲撃を受けたと話を聞いた。被害は甚大だそうだが、詳しくは教えて貰えない。
その時は自由クリスマス教が仲裁に入って戦争が終わったらしいが、昨日までの牧師たちの傍若無人な振る舞いをみれば宗教の顔を被った彼らの目的は明らかだった。
私がここから脱出したいのは現在の城内の状況を把握したいから。決してみんなとクリスマスを楽しみたい訳では無い。なのに聞き入れてくれないカインは、頭が固くカチコチに凍っている。
色々脱出ルートを確認したけれど、全滅。
最後のルートは、········死んでしまうやつだ。
つまり、命を絶って敵から永遠に逃れる。
木像とはいえ、これはやる勇気はないが一応······どきどきしながらソレを開けてみた。
「ひいっ、怖······」
壁に取りつけられた棺である。
ここに人一人分のスペースがあって、立った姿勢で入る。背をつける部分に幾つもの鋭利な針がびっしり埋まっている。特に左の心臓部分には長い針が用意されている。扉を締めた時に刺さるようになっている。昔から、これが自室の壁に備え付けられている恐怖心は半端なかった。
下部には血が滴った時用の排水溝も付いている。扉はしっかり締まり外からは開けられず、中からロックができる。
中からロック?扉を締めた瞬間に絶命する仕組みの筈なのにその前にロックしないといけないというのは、なかなか難易度が高い隠れ場所だ。これの利点は、遺体が敵に汚されないということだそうだ。
これって正しくは拷問道具だと思うんだけど·····
とにかく、王族たるもの、敵の手に渡る前に自死する覚悟を持てという戒めのようなものだと私は解釈している。実際こんなので自死できる人はいないだろう。
「あ〜、疲れたっっ」
コンコンッ
ドアがノックされる音がする。
「姉さん?お茶の時間だけど」
カインの声がする。
一番シンプルな脱出ルートが、今開いた。
「ああっ私の好きなバナナケーキだっありがとう!」
「うん、どうぞ」
何とカインお手製だ。カインは手先が器用でお菓子や食事を作らせると超絶品。
カインは手際よくお茶を淹れてくれている。
器用なカインが作れるものは他は、お手製の銃や爆弾など、··········ただ、この世界で材料は集まらないかもしれないので本当に良かった。
「こうして、カインとお茶をしていると、本当に平和で戦争なんて存在しない世界にいるみたいね」
「そう?じゃあこれからもずっとこうして二人でお茶をすればいいね?」
「そうね」
カインと私はふふっと微笑み合う。
でも、王女教育の半分は戦争の成分でできていた。
王女である私から戦争を取り除くなんて、
きっと出来ない。
「カイン、城の皆を生き還らせるわ」
「姉さん?何を言って·········」
「瓦礫でいいから木片をいっぱい掻き集めてちょうだい」
「·······」
「分かってるわよ。今のお城の状況は」
そう、私は知っていた。
もうお父様がいないという事を。
そして、叔父様はじめ、恐らく沢山のお城の人達が亡くなったということを。
私は懐から、街の露店で譲ってもらった、聖王と聖王弟の磔刑オーナメントを出して言った。
「これは、」
「マホウニアの街で売られていたわ。国の為に犠牲になった聖人ですって。」
これを見て、私は二人が亡くなったことを悟ったのだ。
カインはようやく泣きそうな顔になった。
私はカインに顔を近づけ、
優しく言う。
「まずは、お父様と叔父様を作りましょう」
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