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王女アリスはツリーの下で前世の夢を見る  作者: 漆あんか
第一章 

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25/85

25 (前世) 俺は姉を探している(3) 敦忠side

結論から言うと姉さんは記憶喪失だった。


まあ、無事だったのに行方不明だったことを考えれば、その可能性はある程度は予想していた。


義理の弟だと言い張る俺の勢いに押されて、包帯姿の姉さんは『森の神の工房』へ俺を招いてくれた。


そこは、赤い屋根の洋風で洒落てはいるが決して豪華ではない簡素な小屋だった。

内装はカントリー調にコーディネートされ上手くまとめられている。

きちんと掃除がされていてピカピカだし、ベッドのシーツもカーテンも新品のようにアイロンと糊付がされ、清潔で暮らしやすそうだった。

それだけで、健気にも姉さんらしく慎ましく穏やかに暮らしてきたこれまでの生活が偲ばれて、

僕は胸がいっぱいになる。


「その顔の包帯は······やっぱり震災で?」

俺は聞いてはいけないかもしれないが、勇気を出して恐る恐る聞いた。


「ええと、違うと思うんだけど」


震災で記憶喪失になり、お金は無く住む場所も分からず、途方に暮れていた姉さんは、知り合いだと言う男に偶然出会ってそのまま結婚したという。

包帯はその後に何らかの理由で巻くようになったそうだ。


俺はそれを聞いて崩れ落ちた。

人ってそんなに簡単に結婚するものだろうか?

大体、本当に知り合いなのかも怪しい、怪しすぎる。

もっと早く俺は行動するべきだったのに。自責の念が俺を襲う。


「それ以来、ずうっと、ここで工作してるのよ。もう手も顔もボロボロ!」


姉さんは疲れたと笑った。


これは、強制労働されている?

俺はとにかく姉さんを男と引き離さないとと思案する。


「で?その···············ダンナさんは?」


「······しいっっ!」


突然、姉さんは緊張を纏う。


ざわりと森林が風に揺れる音がした。


「もうすぐ帰ってくるわ·······彼は人間嫌いなの。例え君が弟でも許さないと思うわ·······!」


何もしていないのに、何を許さないと言うのか。

やっぱりだ。やっぱりアブない奴なんだ。

どうして、姉さんはいつもこういう輩に捕まるんだろう?

まあ、俺も含めてだけど·······!


ギイイイイイイ····

扉が開く音がする。そんなに古くない家なのにこんな音がするのが、たいそう不思議だ。


「かっっ隠れて!!!」


俺は焦った姉さんに、戸棚の中に詰め込まれた。




「おっっ!おかえりなさ〜い!」


姉さんはとびっきりにハイテンションに·······················ダンナを迎えた。


俺は扉の隙間から覗く。


男はこの世の者とは思えないような、

奇妙な白髪の美丈夫だった。

男は頷いた。


「今日は幾つ作った?」


「えっとね、5つ!」


「5つ···········?」


男はギラリと視線を強くする。

「少ないな」


「でっでもね!ほら、昨日作ったモノは、街の図書室まで行ってこられたのよ!?しかも、ヒッチハイクして!

すごく人間らしいよねー!」


ん?話が見えない。

姉さんは何を作っているんだ?

ヒッチハイクって·······昨夜のあの無を体現した女を思い出す。


「これはもう、完成じゃない?」


姉さんは人差し指を立てる。


「いや、それだけじゃ決め手にならない。数日間様子を見よう」


「はーい!」

姉さんはビシッと敬礼した。


「他はどうだ?」

「他はねぇ、みんな動かなくなっちゃった!」

「そうか、では明日俺が処分してこよう。悪性になったら大変だからな」


「はーい!」

姉さんはまた敬礼した。




ス····ススス·······

森を行き渡る風以外は全て寝静まったような深夜、姉さんは一旦は寝たふりをしていたが、起き出してきて俺のいる戸棚をそっとあけた。


「ごめんね〜、旦那、怖いから」


姉さんはぶるぶると震える。

俺はおにぎりを受け取って頬張る。

ふいに昔の姉さんのおにぎりの味がして、思わず涙が出てきてしまう。


「君·········」


「敦忠だよっ、ひっく、ひっく」


「あ•つ•た•だ··········」


包帯姿の姉さんはにこっと微笑んだ。

お茶の入った湯呑を差し出してくれる。


「探してくれてありがとう、敦忠」


姉さんの瞳は真摯に俺を見ている。そのことがこの上なく堪らなく嬉しくて嬉しくて、

俺の涙は全く止まらなかった。


「ねえ、·····どうしたら俺と帰ってくれる?」

「そうねえ·····完成したら、かな」


どうやら男と約束したモノを作らないといけないようだ。

姉さんは男と揉めたくないと言った。


「それが完成すれば·······」


いつになるか分からない。

俺はそのモノの完成を待ち侘びて、

期待に胸を膨らませて麓の街で待つことにした。

読んでいただきありがとうございます!

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