22 自由クリスマス教 カインside
王城の上空には、飛行船が当初より5つに増えて浮かんでいた。
俺、カインはそれを複雑な思いで眺めていた。
城内はすっかりクリスマス一色だった。
前世でクリスマスは12月25日だったけれど、今世ではそれを含め一年に4回もクリスマスがあるらしい。
次回は4月9日だという。
4月9日は、サンタクロースが磔刑の死から復活したお祝いで、別名は復活祭という。
我がエヴァグリーン国では、長い冬が終わり春が訪れるのを祝う祭と時期も被るので今回のクリスマスはその春の祭と合わせて各地で盛大に行われるだろう。
いよいよ来週にその日を控えて、城も城下町もすでにお祭りムードだ。
『自由クリスマス教』は先のディスィジュエス共和国との戦いを止め、仲裁した報奨としてこの国での自由な布教活動と教会の建設を認められている。
国民は神に遣わされた平和の使者だと大歓迎し、それはもうすごい勢いで信者が増えている。
『自由クリスマス教』は護衛として軍隊をつれて来ている。あれから、そのまま大所帯で居残った自由キリスト教の牧師達は、王城で大きな顔をして王太子である俺に堂々と意見してくるようになっていた。
廊下に耳を劈くような足音が響き、勢いよく近づいてくる。
「カイン王太子·······!」
彼らしくもない。とても慌てている様子だ。
「ジョシュア。待ちかねたぞ!もう期限の時だ、その、言っていた者は揃ったのか?」
「そ、それが、用意はできていたのですが、城へ戻ったらすっかり消え失せてしまっていたのです。」
「なんだと?その者は逃げたのか?」
「·······実は森に籠もっておられるアリス王女にご自身を模した木像を作っていただいたのです。それはもう、生きているような状態の素晴らしい出来だったのですが、荷馬車の荷台にしっかり置いたはずなのに、城へ来てみれば無くなっていまして」
俺は頭をかかえた。ジョシュアはアリスに似た替え玉を用意するとは思っていたが。
「ジョシュア·······お前はそんなに馬鹿だったのか?例えどんなに上手に出来ていようと、木像は木像ではないか。そんなもの、ディスィジュエス共和国が人質として認めるはずがない」
「いいえ!殿下。アリス様には不思議な力があるのです。あの方が作った木造品には漏れなく命が宿るのです」
「それは······」
姉さんのようだと思ったが、名前が出ただけで苛立ちが膨らむ。
なぜだ。いつも、アリスのことになると気持ちが制御出来ない。
姉さんは大事だが、アリスには苛立つ。恐らくは同一人物。なのにこの矛盾はどうしてだ?
あの絵本【森の王女シリーズ】には、王女が作った木像が命を得て悪戯して動き回るシーンが幾つもある。
俺はアリスが絵本の王女だと考えている。
この世界があの絵本の世界だとすれば、木像でも何でも試す価値はあるのかもしれない。
俺は暫し絵本のストーリーを思い出していた。
あの絵本にもクリスマスのシーンがあった。もしかしてこの国にクリスマス教が広まる、戦争が起きた後の話だったのか?
それなら戦争のシーンで話が終わってしまうのはおかしい。
話一つ一つの順番が前後しているのかもしれない。
絵本の中では王も生きていたしな。
全く同じというわけではないらしい。
「········城内が騒がしいな。どうした?」
おれは側近に訪ねると、ちょうど報告に上がった者が側近に耳打ちする。
ジョシュアが次に報告を聞くと一気に怪訝な顔をして側近と話し込んでいる。
「どうしたんだ?」
「城門に『マリア』を語るおかしな女が参ったとのことです」
マリア?それって·····
「サンタ教の聖人だよな?」
「はい。それを聞きつけて、神の母マリアの名を語る不届き者と、城内のサンタ教の牧師たちが、女の引き渡しを要求しています。」
「その女、捉えたのか?」
「いや、その、美し過ぎて········」
「?美し、過ぎて?」
「触れることができないので、そのまま歩いて城内に入っていただいた、とのことです」
今まで聞いたこともない驚くべき理由だったが、
それが暴力的なまでに真実だと知る羽目になるとはこの時の俺は知る由もなかった。
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