20 家電の館 マシューside
深い深い森の中、その赤い屋根の館はひっそりと佇んでいた。
これでアリス様にお会いできると思えば、ようやく、という言葉しか浮かばない。
私、近衛騎士のマシューは感動でうち震えた。
元々アリス様の護衛騎士だったにも関わらず、王城の戦に駆り出され、不本意にもアリス様をお守りすることが出来なかった。
とはいえ、近衛騎士を統括する立場のサディス様がお側にいたのだから何も危ないことがあるはずもない。
ここに来るまで何年も過ぎ去ったかのよう、本当に色々あった。この国は何もかもが変わってしまったが、この森の館に来るとそれも幻のように感じられる。
いや、いけないな、明るい雰囲気を心がけなければ。
王城の状況は詳しくは話さない方がいいとのカイン王子のご配慮だ。
カイン王子も変わられた。
断然、頼もしくなった。
そして姉王女であるアリス様への態度もかなり軟化されたようだ。
軟化どころか、愛情というか、そう、やはり王と王弟を亡くされて身内の大事さが身に沁みたのだろう。
注文の品が完成したと連絡を受け引き取りに来たジョシュアと一緒に、館の中へ案内されると、ひっそりしていた外観とは正反対の騒がしさだった。
ピー!ピー!(パン焼き機)
ガタンガタンガタン········(洗濯機)
ゴォ〜〜(掃除機ロボットルンバ)
ピイー!(湯沸かしポット)
ポンポロロンポロロン♪お風呂が湧きました♪(風呂)
これは!?すごい光景だ。
この館には奏者が何名滞在しているのだろうか?
「何とまあ、珍妙な演奏会ですね」
ジョシュアは両手を広げて言った。
いや、他に観客がいないところを見るとまだリハーサルかもしれないと私は思った。
完成品を確認して、大いに満足しジョシュアは王城へとんぼ返りして行った。
アリス様は、三日三晩制作にかかりっきりで今は疲労で寝ていると聞き、ジョシュアはそのまま会わずに帰るほど急いでいるようだった。
私はもちろん護衛騎士としてここに派遣されたので、
このまま、
·········この珍妙な館に残る。
私の足元をルンバとかいう奴が遠慮なく横切って行く。
「やれやれ········アリス様は本物の天才だ!
あの腕前は大したものだ。あの女神像は、息をしていて今にも目を開けて動き出しそうだった」
サディス様はまだ興奮冷めやらぬ様子だ。
「でも大丈夫ですか?アリス様が寝ていらっしゃるのに品物を勝手に引き渡してしまって」
「急いでいるようだったからな。和平の為には仕方ない」
「生きているような状態でしたよね。··········あの作品は話したり動いたりはできるのでしょうか?」
「そうだな。アリス様が作った『家電製品』は動いて使えるな」
「すっすごいですね!?
ではディスィジュエス共和国でもまさかニセモノとは思われないでしょう」
私は『家電製品』とやらが何か分からない。
「そうだな······でも、アリス様を模した物をあちらへ渡すこと自体に虫唾が走るといえば、かなり走る」
サディス様は本当に虫を噛み潰したようなお顔をなさっている。
「分かります」
本当に分かる。
私も気持ちは一緒だ。あの美しい王女が他国へ、しかも人質として向かうだなんて、例え本物で無いとしても光景だけで心が掴み取られるように無念な気持ちだ。
「この上ない屈辱だ。我が国にとって」
「サディス様、大丈夫ですよ。人質とは、賓客と同じに丁重に扱われ安全は保証されるはずです。無体なことは起こらないでしょう。」
「········そうだな。しかし念の為、同行者もこちらで厳選せねばな」
「私が同行できたら良かったんですが、こちらでアリス様をお守りせねば。
ここも大変物騒な場所ですからね」
実は今日はここに来る途中、7回は襲撃されている。
もちろん滅多切りにさせてもらったが。
全く、活躍できる職場へ配属され騎士冥利につきるというものだ。
「···········」
「え?アリス様!目を覚ましていませんか?」
「本当か!アリス様、ご機嫌は如何ですか?何か召し上がらないと」
「············」
顔がぐるりんと不自然にこちらを向いた。
アリス様は瞬きすらしない。
「お話されませんね?」
私が言うと、サディス様も言った。
「そうだな?」
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