2 意に染まぬお見合い アリスside
「殿下には大変ご機嫌麗しゅう存じます。ご紹介に預かりました、サディス•トウヒ•スプルースです」
ここはスプルース公爵家の庭園。
爽やかな笑顔が眩しい16歳の彼は、長身ですらっとしており所作が美しく大変に洗練されている。
蝶タイに黒の礼装がとても精悍で良く似合っている。この国の貴族の基本スタイルだ。
彼は柔らかな栗色の髪で榛色の瞳をしている。
彫りが深い顔立ちは、かつての異国の王族からお嫁に来たというお姫様の血筋だろうか、異国の色素の薄い顔立ちが多いのがこの公爵家の特徴の一つだ。
「ご機嫌麗しゅうございます。アリス•エヴァ・グリーンです」
この国では王族は国名が由来の家名になるので、私の名は、アリス•エヴァ・グリーンだ。
私とサディス様とはいわゆる幼馴染だ。
幼馴染なのに、今更自己紹介しているのはなぜなの?
久々の再会だというのに私はというと、こんな時に包帯ぐるぐる巻の顔面。
小さい時から悩まされていた持病の湿疹が顔中に出てしまった。5歳以降は症状は落ちついていたはずなのに、12歳の今になって頻繁に再発するようになってしまった。治ってはぶり返すの繰り返しだ。
軟膏を塗って包帯で顔を巻き、紺色の瞳だけはかろうじて顕になっている。
(はぁ、私だってまあまあ美少女なのになぁ)
今の包帯顔面少女との落差は大きすぎるわ。
私の衣装は、なぜかいつも通り東洋風の衣装を着ている。派手な布地に豪華な帯がこれまたぐるぐる巻に身体に巻きつけられている。
王女の基本スタイルとして豪華な衣装なのは分かるけど、王様である父の趣味を反映してこんな服を着せられて·········
よく考えたら、これは昆布巻きを彷彿とさせる。
これって、前世の日本の着物に近いんだよね〜
父様の東洋趣味も大概にしてほしい。
スプルース公爵家は王家と大変親交が深く、何度となく后を輩出したり王女が降嫁されるという映えある歴史を誇っている。
おまけに外国の王家とも血の繋がりを持つので血統はこの国でも類をみないほど高貴。
王都近くの豊かな土地を所領に持ち、資産も潤沢でその権力は計り知れない。
つまり王家とスプルース公爵家は親戚である。子供たちの紹介を終え、両陛下とも公爵夫妻と睦まじく歓談していた。
(あれれ? ······これって······もしかして、お見合い??)
ようやくピンときてしまった!!
幼少期からサディス様に会うのはこれまで何回かあったのに、急に初対面のような自己紹介なんて違和感しかない。
(·····今更?)
公爵夫妻の隣に座るサンディス様と真正面で目が合うと、彼は柔らかく目尻を下げた。
今までは子供同士に好き勝手に話したり遊んだりの親交だったので、当然きちんと紹介し合った覚えはない。
この雰囲気は何時ものお茶会とは違うので、やはり俗に言うお見合いだと、更に強く確信する。
それにしても、この場に来るまでに親から一言あってもいいのではと思う私はおかしいかしら?
包帯顔面の婚約者が来て嬉しい男はいないだろう。それに12歳の私はお子様過ぎるというか、16歳の彼は輝くばかりの青年でとても釣り合わない。
とっても気まずい。
お父様もこんな大事な局面は娘の顔の病状が回復するまで待って欲しかったわよね!
しかしお父様は満面の笑みをこちらへ向けている。
まさかまさか、自分の娘を気に入らない奴がいるはずがないとでも思っているのかしら?
王に相応しい態度の堂々たるや、さすがというよりも、娘は遺憾の意を表明したい。
サディス様はずっとにこやかに話しかけてくれている。
さすがは公爵家嫡男。当たり障りのない会話で、息をするように社交的だ。
親同士が仲が良い為、小さい頃から遊ぶ機会があり、楽しく遊んでもらった記憶がある。
まあ彼なら、包帯になったり治ったりの忙しい摩訶不思議な私の顔面に慣れているので、どうとも思わないのかも。
例えそれが、婚約者として正面に立たされた今日でも、一切変わらないのには心から感心してしまう。
ふと、まだ12歳だし、この国で結婚適齢期は早くても16歳以降。まだけっこう先だし、そんなに深く考えることもないかと、私は冷静さを取り戻す。
この国には他にも二つ公爵家があるし、外国の王族との婚姻の可能性もある。
この国の貴族の婚約は早いけれど、王族の子女は国として最適の相手をじっくり選ぶので遅くなる傾向がある。
一度嫁いでも離婚させられて他へ政略結婚で送り出されることも、ままある。
(なあんだ!まだまだ先じゃん!!)
心が軽くなった私はお菓子をつまむ。
お子様万歳!子供らしい雰囲気を心がける!
テーブルにお茶とお茶菓子を囲んだ一同は、私の包帯顔面には一切触れず、始終和やかムードだ。
これはこれで虚しいと思うのはなぜかしら?
『まあ美少女』という、私の唯一の取り柄は大して価値がないようで。
王女の降嫁は、相手の家にとって大変な名誉になる。
顔がどうのこうのよりも『王女』という健康な人間が嫁げば、それで充分要件を満たすのだろう。
その上子供が生まれ高貴な血が混ざれば、それに勝る栄誉はない。
つまり、貴族の令嬢だって私のライバルではない。
たとえ顔に包帯巻いた王女でもね!
「はは·······ホーホッホッホッホー!」
何となく気分がノッて悪役令嬢っぽく笑ってみた。
あ、悪役王女か。
そんな私を見てもサティス様は優しい笑顔を崩さなかった。
ふっふっふ
こんな私の将来の夢が一般平民だなんて、
彼はびっくりしちゃうかしらね?
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