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王女アリスはツリーの下で前世の夢を見る  作者: 漆あんか
第一章 

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17 神の前に立て! カインside

この世界は【森の王女シリーズ】の童話の世界だ。


【森の王女シリーズ】の絵本は【森の王女と意地悪なクリスマス】など何冊か出ているけれど、王女が毎回様々な意地悪をしかけ、王弟子にきっちり仕返しされてギャフンと言わされるお話で、くだらないけど面白くて、まあまあ人気があるシリーズだった。

俺はツンデレでいじらしい王女がお気に入りだった。

賢い弟王子が主人公かと思いきや、色々やらかしてくれるお茶目な王女の方が確実に目立っていて、表題通り主人公なのだった。


その子供向けのはずの話が【森の王女と悲しい戦争】でガラリと話が変わった。


それは子供向けなんてものではなく、ただ淡々と抑揚もなく、まず王が敵襲で殺され、王女と王子の王城が蹂躙され焼き尽くされる様を綴っていた。

子供心に王の磔のシーンは強烈すぎて、しっかり記憶に刻まれていた。

それからその話は次話に続くことは無く、【森の王女シリーズ】の絵本は店頭から消えてしまったようだ。

色々な憶測によると、作者の故郷が戦争になり作者の消息は不明だとか。作者の無事を祈るばかりだ。




俺は必死で旗を奮った。

王弟の宮殿は劫火に焼き尽くされていた。


「おおっ王子は生きてらっしゃるぞ·····!」


俺は死ぬまでここで目立たないといけない。王族の血が残っていることを鼓舞して、この国の存続を謳い続け戦局を変えるのが俺の役割だ。


周りに急いで味方の兵士が集まる。

俺が死んでも大丈夫だ。王女が残っている。


俺は最期にあの女の、包帯の中の素顔が見たいと思った。

あの時だってそう願っていた。

だからーーー、怒りが込み上げた。


だって、前世のあの場所で俺は包帯まみれの姉さんを、見たんだ。

姉さんは、誰より綺麗な姉さんは、人目を忍んで山奥で暮していた。

俺は姉さんをこんなにした奴を殺すと誓った。


いや、違う違うアリスは姉さんじゃないだろう?

····しっかりしなくては。

今世でも姉さんが包帯ぐるぐる巻きだったとしたら、俺はどうしたらいいんだよ。



王城の劫火はあらゆるものを呑み込んで、もはや敵も味方も見えない様だった。


それなのに、火に紛れて飛んでくる矢は執拗に俺を狙っていた。


バシュッッ

いつの間にか、俺の周りに屈強な騎士が囲んで矢を撃ち払ってくれていた。


制服から8人の近衛騎士だと分かった。

彼らの行動から、もはや守るべき立場の者が俺しかいないのだと悟った。


広場の方の2つの十字架の柱を見やる。

義母上と王妃はどうしたのだろうか?


「許すまじ········ディスィジュエス共和国··········マロウ家·······!」


これが強力な呪いであればいい。

しかし、俺には何の力もないのだ。


俺は、空を見上げ神に祈った。

祈るしか、無かった、

もはや俺は祈るだけの守られるだけの、でくのぼうだったから。




気づけば、赤く染まっていく朝焼けの東の空から風船のようなものが一つ飛んで来るのが見えた。


「飛行船········?」


よく見ると飛行船らしきものの側面には、紅い十字架のマークと、異国語で何か書いてある。


『自由クリスマス教会』


俺は王族教育をうけていたから、幾つかの外国語が使える。


『戦いを止めぬ者、神の前に立て!神の裁きを受けよ!』




城外には、紅い十字架の印の旗が林立してはためいているのが見える。大勢の兵士達の行進の足音が大きく響きながら近づいて来る。火の轟音を掻き消す勢いだった。


俺を狙って飛んできていた矢が止まった。


その代わりに、今度は空高く飛行船から飛んできたのは、目に見えない幾万粒の矢の雨だった。いや、おそらくは機関銃で狙撃しているのだと思う。

機関銃なんてものが今世にあるとは思わなかったけれど、そうとしか思えないスピードと威力だ。


目に見えない矢で、敵味方なく人と見れば狙撃され、逃げ惑う人々の光景はまさに神の裁きを受ける、さながら世紀末の光景だった。

火の勢いが衰えるのと呼応するかのように、

皆、膝を折って天を見上げ手を合わせて祈るポーズをしている。


そのほとんどはマロウ家の連れて来た ディスィジュエス共和国の兵士のようだ。

彼ら共和国は 宗教をもたないが、神を恐れる心は今だ捨てていないようだった。


火はまだ燻っているが、周りの風景が煙の向こうに薄っすら見えてくる。

城内は瓦礫の山で飾られた廃墟同然で、

兵士達は突然の第三者の攻撃を受け、呆然と戦意を喪失してしゃがみこんでいた。


ぐるりと囲まれた『自由クリスマス教会』の旗は幾重にも連なって城外をぐるりと囲んでいた。


これは神が戦を止めたようにも見える。


俺には忌ま忌ましい光景だ。

旭光が、少しずつ斜めにさしてきていた。

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