13 森の泉の畔で カインside
俺が辿り着いたのは森の泉の畔にある赤い屋根の小さい館だった。
「カイン殿下!?なぜここに?」
俺は知らない奴だと思ったけれど、向こうは俺のことを知っていた。
奴はヒューゴ•ヤッデ•ファツィア。アリスの家庭教師だった男らしい。
ここは彼の母が開いているお菓子工房とのことだ。
隣でにこやかに微笑する美女こそが本人だ。
ということは、彼女があの有名な平民出身のファツィア公爵の第二夫人だろうか。確かに凄い美女だ。
趣味が高じて洋菓子工房とカフェを始めたらしい。
こんな辺鄙な場所で危篤なものだ。
テラスに案内されて
マロンケーキと紅茶をごちそうになる。
「ここはとても静かだな·······」
何と言っても泉があるのが素晴らしい。
湧き出る清水を眺めていると心が洗われるようだ。
俺はこの場所はそう悪くない選択だと思い直した。
俺の跨っていた熊はここに来て、急に浄化されたように木彫りの熊に戻ってしまっていた。
そして、ここのカフェ内にも動物の木彫像たちが飾ってあるのに俺は気づいた。
これらは姉さんが作った物の様な気がする。
「姉さんは、ここに来ていないですか?」
「姉さん?·······ああ、そうですね。殿下には確かにお姉様ですね。·········彼女を私達も待っているのですよ」
待っている?
ブㇲニャーオ!
醜いブチ猫が奇妙に鳴いて、店の奥から出てきたと思えば足元に纏わりつく。
「ふっ、この子もね」
なんだろうな、この異様な雰囲気は···········
「しかし、カイン殿下はこんなところにいていいのですか?
王城ではボトルブラシュ公爵の御祝いが開かれると聞いていますが」
「いいのだ。確かに実父だが、もう籍では父ではないし。どうも気がすすまないのだ」
「は、なるほど」
ヒューゴはそれ以上は何も聞いてこない。
ケーキはとても美味しかったが、紅茶がとにかく苦かった。ミルクと砂糖をもっと入れたかったのだけど格好がつかないので言えなかった。
そこへ、急に眠気が襲ってくる。
「な·······何·····?」
「ワガママも大概にしてくださいね、殿下」
視界はぼやけて揺らいだが、ヒューゴが薄ら笑っているように見えた。
俺は気づいた。
あの苦い紅茶に何か盛られていたのだろう。
「お······お前········」
もう何も見えなくなった。
目を覚ました時は夜闇だった。
俺は激しく上下に揺れる幌馬車の中に仰向けに転がされていた。
「ここは······」
幌馬車の中には兵士がずらりと並び膝を抱えて座っている。
顔を上げて薄暗いランタンの灯の下よく目を凝らせば、制服から警備隊だと分かる。
物々しい仏頂面の面々だ。
皆、ピカピカのロングソードを携えている。
ファツィア公爵家が統括しているのが警備隊だ。
警備隊とは王城内でも城の外側を守る兵士だ。
対して、近衛師団は城の内側を守るという役割を分けている。
俺はファツィアの息のかかったお菓子工房でうかうかしている間に警備隊に捕まってしまったようだ。
恐らくこの男········ヒューゴ•ヤッデ•ファツィア、その男の謀で。
揺れる薄暗い幌馬車の中で、ヒューゴは冷たい瞳で俺を見下していた。
平民の母とファツィア公爵家との諍いで、ヒューゴはファツィア公爵とは距離を置いているとの噂だったが、やはり繋がっていたらしい。
「殿下は王城で真実何が起こってるか分かっていますか?」
「?宴会だろ?」
「そうです。この国の命運をかけた宴ですとも。
殿下にはぜひとも戦っていただかなくては」
戦う?
俺は、実に無知で愚かだという事を
その時は知らなかった。
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