突然の婚約破棄
「こんな、こんなのってあんまりですわ!!」
「…。」
家路を往く馬車の中で大声を張り上げているのは、私の侍女でありクリスタリア王国の子爵家令嬢フィリア・ラリマールです。
では何故子爵令嬢ともあろうフィリアが、怒りに任せて涙を零しながら怒鳴るのか…それは一時間程前の事でございます。
この日王城では、一年後に控えた王太子の結婚の日取りを発表する記念パーティーが行われました。
そして私…ルミシア・アウイナイトは王太子であるリチャード・フォン・クリスタリア殿下の婚約者として、王城へ参ったのです。
この国の慣わしとして、今日より私は実家であるアウイナイト公爵家を出てパーティーの後、そのまま婚約者の元で結婚式を待つ事になっていました。
実家へ戻るのは早くて一年後と思い、家族や使用人達とも涙ぐみながらお別れをしたというのに…。
「ルミシア・アウイナイト!お前との婚約は破棄する!」
私の婚約者であるはずのリチャード殿下は、私のエスコートに現れず。
致し方無く会場へ赴けば、リチャード殿下が華奢で愛くるしい令嬢をエスコートしているではありませんか。
その上私を見つけるやいなや令嬢を伴い、上記のセリフを高らかに宣言なされたのです。
あまりの事にパーティーへ参列された皆様は私と殿下との間で視線を行ったり来たりさせていました。
これは大変拙いと言わざるを得ない状況です。
なにせ参列者の皆様は慶事としてお越し頂いてるのですから、王族といえど礼節に欠いた行為です。
「り、リチャードでん」
「黙れ!発言を許した覚えは無い!!お前がしたリオーネ嬢への数々の悪行を余が知らぬと思うな!!!」
ピンっと張り詰めた空気に誰もが息をする事を忘れている様に、殿下声以外には誰も物音を立てません。
私も例に漏れず、弁明をしようにも発言の許しはありませんので口をつぐむより仕方ありませんでした。
「お前という奴は、リオーネ嬢が登城したおりに余に姿を見せるなと部屋へ連れ込み凶弾したそうだな!」
部屋へ連れ込み?…ああ!思い出しました!
確か半年程前に妃教育で登城した時に廊下で会った御令嬢!
それがこちらのリオーネ様でしたか!
「その上リオーネ嬢のドレスを破き捨てるなど…これが未来の王太子妃のすることか!」
「きゃっ!?」
バシッと私に投げて寄越した物、それは半年前にリオーネ様がお召しになっていたドレスでした。
そのドレスを見た参列者の皆様は息を呑み、そして何人かのご婦人方は眩暈をおこしておられるみたいです。
「その様にビリビリに破り、アリシア嬢を部屋に放置したそうだな!なんて女だ!」
「これを…私が?」
「言い逃れする気か!!」
言い逃れも何も、これは初めからこのデザインでしたが?
しかし他の方はまさかこんな露出度の高いドレスを着て登城する等考えもしませんから、皆様の冷たい視線が私に向くのも納得はできました。
「リチャード殿下!ルミシア様をお許し下さいまし、全ては私が至らない為、ルミシア様に嫌われてしまった私のせいですわぁあっ!」
「ああ、リオーネ嬢なんと優しいんだ…!」
しっかりと殿下の胸で泣き出すリオーネ様の声音の大きさに、今日一番驚きました。
そんなリオーネ様を慰めつつ、冷ややかな視線を私に向けた殿下は、私に投げつけたドレスを奪い取り、バランスを崩して躓いた私を見下しながら再度宣言したのです。
「ルミシアとの婚約を破棄する!…そしてリオーネ・オニキス男爵令嬢を新しい婚約者とする」
と、