俺の話を聞け
俺は今、どこだか分からない海岸にいる。
地震があって、津波が来て、流されて、漂流して、ここにたどり着いた。
体力に自信はあったが、丸太が流れてこなければ死んでたと思う。
それにしても、腹が減った。
何日も食べていない。
ずいぶん、歩いたが人里ひとつ見えてこない。
何処なんだここは?
ずいぶん流されたような気がする。
日本のどこかであって欲しいが、海外ってこともあり得るな。
そう思って歩き続けていると、遠くの方が騒がしい。
やっと人がいた。
そう思ってほとんど尽きかけている体力を振り絞って、駆け寄った。
日本の女子高生か?
顔つきと制服からそう思った。
「なあ、何か食うもん持ってないか?」
日本人だったと安堵感からか友達みたいに話しかけてしまった。
「えっ?あのー」
俺を怪訝な表情で一瞥すると、うつむいたまま目線を合わせようとしない。
声をかけた女の友達が袖を引っ張り合図を送る。
「ごめんなさい」
そういうと、駆けて逃げていく。
「ちょっとまって」
逃げられては困ると、逃げる女の手をつかんだ。
「嫌」
女は必死に手を振り払おうとする。
「頼む、俺の話を聞いてくれ」
女は構わず掴まれていない方の手で俺の顔をポカポカと殴り続ける。
「落ち着けって」
俺は堪らず女の両手をふさぐように抱き着いた。
「キャー」
女の絶叫が耳を鋭く切り裂く。
女が物凄い顔で泣き出したので、俺は手を離した。
友達が俺から女を救い出すように引っ張ると、俺の顔に強烈なビンタをくらわした。
やっちまったな。
今度を駆け出す女たちを見送るしかなかった。
あいつらの駆けていった方に行けば、人がいるはずだ。
女の後を追うように歩いていくと、近くに女子高生の集団いた。
俺が近寄っていくと、女たち全員が俺を睨にらみつけていた。
「あなたね。知佳に抱きついた変態は」
「誤解だよ。俺の言い分も聞いてくれ」
「いいわよ」
女が笑ってそういうと、俺は胸を撫でおろした。
「警察で好きなだけ聞いてもらいなさい」
木刀を持った女達が俺を囲む。
「なっ」
なんで、こいつら木刀なんて持ってんだ。
しっかりした構えだ。
剣道部の連中か?
合宿でもしているのか?
俺はいろいろと思考を巡らせたが、確かなことは捕まったらヤバイやつだ。
チカンの冤罪でも、捕まったらこちらの言い分は通らないとか聞いたことがあるぞ。
こうなったら、いったん逃げよう。
俺は、来た方向へ戻るように猛ダッシュした。
「まてー」
くそっ。こんな腹ペコなのに走らせられるとは。
女たちは木刀を振りかざして俺を追いかけてくる。
そんなフォームで俺に追いつけるかよ。
そう言いたいところだが、こっちも体力がない。
早くやつらの目の届かないところへ逃げないと。
俺は必死に走った。
「つかまえた」
さっきの女たちとは違って体操服を着た女が俺の襟を後ろから掴んだ。
俺に追いつく女がいるとは。
県大会1位の女であっても、俺には追い付けないはずだが、
砂地の上、俺は腹ペコときてる。
こいつが陸上部でそこそこいい成績であれば、追いついても不思議ではない。
「おらっ」
俺は、女の眉間にパンチした。
死なないように手加減したが、これで、しばらく動くことはできまい。
女がしゃがみ込むと俺は逃げた。
後から追いかけてきた女どもは俺が殴った女のところで、立ち止まって、何やら騒いでいる。
俺はなんとか逃げ切ることができた。