第八話 ミラーリヴァ
大変なことになっちゃった。よく分かんない火を出す何かを見て、習得しなきゃって思って全く知らないおっさんに弟子にしてって頼み込んで、その瞬間に気絶して……私変なやつみたいじゃん!
鏡華は自分の行動を振り返って溜め息を吐いた。そして自分の耳の方に手を持っていく。そこには先の尖った長い耳が在った。
異世界転生なんて自分の耳がこうなってなかったら信じなかっただろうなぁ。
そう、鏡華は現在ミラーリヴァという長命人と呼ばれる亜人に生まれ変わっていた。
このミラーリヴァって子、旅に出たばっかりだったみたいだけど……。
鏡華にはその記憶は残っていない、しかしその直前の狼に襲われてる記憶は残っていた。
何で私がこの身体になったのか、それと襲われてた時の傷が何で無いのかは分かんない。けど私一人じゃこの森を抜けれる気がしないし……。
そこまで考え、やはりどの道あのおじさんに付いて行くしかないのかと思い直した。丁度その時、おじさんは私が寝ているテントの中に入ってきた。
「お、起きたか嬢ちゃん。調子はどうだ?血が流れてる箇所は見た感じ無かったからな。痛い所があれば言ってくれ」
「ありがと、おじさん。痛いとこは無いよ」
鏡華がここまで言った所でまた空気が固まった。どことなく気まずい空気の中、最初に切り出したのは鏡華だった。
「ねぇおじさん。私を街まで連れてってくんない?この森の狼に襲われ掛けたし、お金も無いし……」
「金も無いのにどうやって街に入る気なんだ?通行税が掛かるはずだしこの辺りは亜人差別は弱いが無いわけじゃない。歳頃の女が街に一人、マトモな生き方は出来ないと思うが?それでもいいなら儂は止めんがな」
この発言で鏡華は顔を顰めた。それならどうすれば良いと言うのだろうか。そう思い、おじさんの顔を見上げると心底面倒臭そうな顔をしながらこう言い放った。
「弟子を取るのが初めてだから、儂が何か特別な事を教えれるとは思わない方がいいぞ。ただそれでもいいなら儂の弟子になるか?」
このおじさん、もしや不器用なのでは?と思ったもののその不器用さも悪くないかも、と考え直して声を出した。
「お願いします。それと、何でおじさんは一人称が儂なの?」
「弟子入りして最初の質問がそれか!?これは儂の師匠の話し方を真似てるだけだ。それより儂の名前はクレアートロだ。いつまでもおじさんって呼ぶな。それに儂はまだ38歳だ!」
「38歳は十分おじさんじゃ?それと私はミラーリヴァって名前なの。嬢さんって何か嫌だ」
そう言い合って、何処と無く可笑しく感じて二人で声を出して笑い合った。これが鏡華と師匠の初めての出会いであった。