第六話 カーミール
化け物に噛み付かれた瞬間に大輝の意識は深く沈んで行った。
ふと大輝が目を覚ますと大輝は何故かクラクラする頭を左手で押さえながら、千鳥足で自身の家まで歩いていく最中であった。
何が何だか分からない状態で、取りあえず記憶の整理をしようと思慮に入る。
僕、いや俺?いんや……僕か。えっと俺の名前は……カーミール、そう、カーミールだ。いや、大輝だったな。いや、カーミールか。
大輝、カーミールは未だに混濁している意識状態で、全く記憶は纏まらず、思考すらもまともに出来ない有様となっていた。
しかし、そんな状況でもフラフラと歩みを進め、ついにカーミールは家に到着した。
カーミールの家は聖国に存在する一般的な平民の家だ。
煉瓦の造りであり、それが独特な情緒ある雰囲気を街にもたらしていた。
「母さん!帰ってきたよ」
「おかえり、カミル。今日はいつもより随分帰ってくるのが早いけど……良いの?」
カーミールは普段、日が暮れるまで外で遊んでいるため、母親は心配に思い、カーミールに声を掛ける。
しかし、返答の余裕が殆んど無い現在の状況ではカミールはその配慮が少しきつかった。
「大丈夫。今日はちょっと頭が痛いんだ」
纏まらない思考の中、カーミールの意思とは関係なく身体が勝手に動きだし、気付いたら声を発していた。
「カミル。鎮痛の占星術を掛けてあげるから、こっちに来なさい」
「はーい」
カーミールはまた美しい母親の術を見ることが出来ると心を踊らせた。しかし、ふと疑念が湧いてくる。
え、占星術ってなんだっけ。占星術は占星術だろ。いやえっと……。
占星術についてあやふやになってしまったカーミールは取り敢えずこの頭のノイズを取り払ってもらう為に疑念を押し潰して母親の所へと向かう。
「ちょっと待っててね。すぐ痛くなくなるから。双児宮、双魚宮、開門」
母親はそう言うとカーミールの頭にピリリと静電気のような感覚があって、直後に痛みが消え去った。
「凄い!どうやったの?」
一切の痛みが消え去った事で思わずカーミールは母親にやり方を聞くと、ニコッと微笑んで口を開いた。
「十二宮の占星術よ。カミルが頭が痛いのを感知できないようにしたの。結構難しいからしっかり勉強しようね」
これを聞いた直後、カーミール、いや大輝は痛みは無いのにドカンと雷を頭に受けたかのような衝撃を受けた。そして、一気にカーミール、いや大輝は記憶を取り戻していく。
ファンタジー!夢にまで見たファンタジーの世界なのかここは!
驚愕と歓喜を覚えながら、大輝は内心小躍りを始めた。一時だが将星達のことも忘れて。