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【 虹獣 】 1章:リルト 4話:重縛(ジュウバク)

 自由奔放に遊ぶ日々のリルトであったが、そんな状況を黙って見つめていた母犬は、過去の苦難によりリルトの自由奔放さを咎め出し、日に日に強く咎める様になっていた。リルトは何が悪いのか解らぬまま、ただただ黙って頷いていた。「どうしてこんなに楽しいのに怒られるの?」と、リルトは何故怒られたのかが解らぬまま、ただただ「怒られた事」だけが脳の底に溜まっていった。


 リルトが庭で遊んだ後に家の中へ入ろうとすると、そこへ母犬がやってきて、

「リルト!玄関で毛繕いをしてから中に入りなさい!」

と、やかましく言ってくる。リルトが家の中に戻ってくる時は、お腹が空いた時か眠くなった時が多く「後で毛繕いしてるのに……今じゃなくても……いいのに……」と思いつつも口には出せず、ただただ畏縮していた。


 母犬は外へ殆ど出ないという理由もあるが、それ以上に綺麗好きであり、こまめに毛繕いをしており、白い毛が滑らかに整っていた。リルトも滑らかな毛並みをしていたが、身体の所々に付いた土や葉の破片は白い毛のせいかより目立ち易く、目立つからこそ余計に神経質な母犬の目に留まり、事ある毎に咎められる事となっていた。


 リルトがご飯を食べる時も、母犬は隣で監視するかの様に、

「周りにボロボロと落とさない!」

「好き嫌いせずに残さず食べなさい!」

と、くどくどと言ってくる。食べるのが楽しみの一つであるリルトは、食べるのに夢中で周りにこぼした物などお構いなしに食べ続ける。そのこぼした物を後から共に過ごす人が片付ける。

それを見ている母犬は「人に迷惑をかけてはいけない」という思いからリルトを叱る。叱られたリルトは叱られるのが嫌で段々と急いで食べるようになり、その結果余計に周りにボロボロとこぼす事となっていた。


 また、リルトは出された物を嗅いでみて「これ…好い匂いがしない。食べ物じゃない」と思った種類の物を除けながら食べ、そしてそれだけを綺麗に残す。それを見た母犬は「戴いた食べ物を残してはいけない」という思いからリルトを叱りつつも、結局は残してしまうので仕方なく母犬が残飯を全て食べ、時にはリルトが周りにこぼした物も舌で拾い上げ綺麗に食べていた。


 リルトが家の中で遊ぶ時も、部屋の隅から母犬が、

「そんなに悪戯しない!」

「人の邪魔をして迷惑をかけない!」

と矢のように叱責が飛んで来る。色々な物は好奇心を掻き立て、まだ幼いリルトの心を巧みに誘引してくる。リルトはその誘引に素直に乗り「これ、なに?」「それ…なに?」「あれは…なに?…」と色々な物に興味を示し匂いを嗅ぎ、時には舐めてみて更には足を出して物を散らかし、一匹遊びに飽きると人の所へ行って「遊んで!遊んで!」と、その人の事はお構い無しにじゃれに行く。その人は自分の事をやりつつも老練にリルトの相手をする。その人自身は毎日のやるべき事をやるのが当然であり、じゃれてくるリルトの相手をする事やリルトが悪戯して散らかした物を片付けるのも楽しみの一つであり、構ってあげたいという気持ちもある。それを負担に思わず同時進行出来るのは老練さ故のものであるが、母犬の視点からは邪魔をして迷惑をかけているように見え、リルトを何とかして自分の考えに従わせようとリルトを強迫する……。


 上から降り掛かる重い圧力は、心身に絡み付き縛り付ける鎖の束となって、リルトの自由奔放さを抑圧していく……。今迄の様に行動しようと思うと同時に、それを上から覆い尽くす重い気が脳漿から溢れ出し、一瞬にして身体の全体へと染み渡り、リルトの行動を抑圧する枷となる……。


 母犬から発せられた、愛故の重さは……。

 リルトへと辿り着き、重さ故の苦痛となる……。

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